中国海軍の艦船が尖閣諸島周辺の接続水域に一時侵入したことで、尖閣問題がまたクローズアップされている。

日本の主権を侵害する中国の不法行為を日本政府が糾弾するのは至極当然のことだが、日本の用心棒である米国もまた、今回の中国の挑発については懸念を表明し、中国に対して睨みを利かせていた。しかし、肝心の領有権問題に関しては「特定の立場は取らない」と相変わらず中度半端な立場だ。これに日本政府は遺憾の意も表明しない。

「尖閣問題」では対応策として「日米関係の強化」という言葉がこれまで盛んに連呼されてきた。「尖閣に安保条約第5条(防衛義務)が適応される」との米政府の公式見解が「金科玉条」になっているのだろう。それはそれで中国への牽制になるだろう。

ところが、米国は「1972年以降日本が(尖閣に関する)施政権を持っている」と施政権については認めているものの領有権問題では、「日中どちらにも組みしない」として中立の立場を堅持している。同盟国なのに米国はなぜ、日本の主張、立場を支持しないのだろう?その理由が今一つわからない。

日本の政治家も、メディアも米要人との会見があっても、歴史的にも、国際法的にも日本の領土であるのになぜ米国は認めようとしないのか、その理由をあえて聞こうとはしない。もしかすると、「日中間には領有権の問題が存在しない」との政府方針が足かせになって聞けないのかもしれない。中国の記者が米国務省での記者会見でスポークスマンに執拗に聞いていたのとは対照的だ。

米国が日本にとって最も信頼すべき同盟国ならば、集団自衛権を行使する運命共同体ならば「尖閣は歴史的にも国際法的にも日本の固有の領土」との日本の主張に真っ先に支持、賛同があってしかるべきではないだろうか?

そもそも、今日まで日本の歴代政権はなぜ日本の領有権を認めるように米国に働きかけてこなかったのだろうか?中国との間に領土問題は存在しないから、やはりその必要性を感じなかったのだろうか?それはそれで理屈として理解できなくもない。しかし、この期に及んでの「どちらにも組みしない」との米国の発言に日本政府は、政治家はどうして怒り、抗議一つできないのだろう?奇怪なことだ。韓国が日本の立場ならば、憤慨して抗議するだろう。

それでいながら一方で「国際社会に、国際世論に訴える必要がある」と同じ言葉をオウムにように繰り返しているわけだから、何をかいわんや、である。日本の領土であることを同盟国の米国ですら、支持してくれないのに、一体世界のどの国が日本の立場を支持してくれるのだろうかと首を傾げたくなる。 このまま米国をはじめ国際社会が日本の領土であることを認めない状態が続くなら、いつの日か中国が侵犯し、その結果、交戦、戦争となった場合、中国を「侵犯国」「戦争犯罪国」として非難し、罰することはできなくなる。

石原慎太郎前東京都知事の「尖閣諸島購入発言」があった際に「日本の固有の領土であるなら、また中国との間に領土問題は存在しないと言うなら、日本からあまり騒がないほうが得策と思う」と提言したことがある。 その理由については「騒げば騒ぐほど、喜ぶのは中国だ。中国は、尖閣諸島の紛争化を画策しているからだ。石原発言で結果として国際社会が『日本と中国との間には未解決の領土問題が存在するのか』と受け止めてしまったとすれば、日本にとってプラスにはならない」と考えていたからだ。だが、もう手遅れだ。

日本の選択肢は限られているが、ここまできた以上は、次の世代に負を負わせないために腹をくくって、実効支配を強めるのも一つの策だろう。

日本が実効支配しているなら、実効支配の証を示さなければならない。無人島のままにして実効支配を主張しても、筋が通らないだろう。人が住み暮らしてこそ、実効支配が認められるというものだ。昔あった鰹節工場を再興させるなど新たな水産工場を立ち上げ、季節労働者を募集すれば、全国から相当数集まってくるだろう。以前の状態を復元することが実効支配への一番の近道だ。 皮肉なことだが、竹島(独島)の韓国の実効支配がそのお手本かもしれない。

日本が今後、国際法に基づき中国の漁船や監視船が日本の領海に入った場合は、警告を発し、それでも退去しない場合は、威嚇射撃を行い、それでも応じない場合は、拿捕する、これも実効支配を強める一つの選択肢でもある。現在、韓国がNLL(北方限界線)ラインで北朝鮮の漁船や警備艇に対して取っている手法である。但し、北朝鮮と海上で過去4度衝突したように交戦というリスクを覚悟しなければならない。

日本の実効支配を崩そうとする中国の挑発行為に日本がこうした「毅然たる対応」が取れないならば、「尖閣」を元の状態(棚上げ)に戻すか、あるいはフィリピンのように国際司法裁判所(ICJ)に提訴し、黒白を付けるほかないだろう。

中国が進んで尖閣から手を引かない限りは、結局のところ、この三択しかないが、現実にはどれもこれも無理であろう。