医療ライターのココロさんぽ

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宮部みゆき 「本所深川ふしぎ草紙」を読んだよ♪

2012年07月06日 15時05分22秒 | この本がイイ!

さて、ハマり中の宮部みゆき作品、時代小説篇

 

今回選んだのは「本所深川ふしぎ草紙」という短編集です。これはお江戸深川に伝わる七不思議、いわゆる都市伝説を町に生きる市井の人々の切なさややりきれない思いなどにからめ、7つの物語に仕立てています。

ふしぎ草紙というので、てっきり「あやし」のようにオカルトちっくな内容かと思っていたら、なんのことはない七不思議にあやかってはいるけれどその実、一番不思議なのは人の心だということでした。

7篇のほとんどがハッピーエンドとはいかず、どこか煮え切らない思いを残したまま終わります。

それが江戸の町に生きる普通の人たちの「生きる」ということなのでしょうか。長い人生のひとコマを切り取り、人生の不条理をも感じさせる仕組みですが、できればそれぞれの主人公たちは、思い切り幸せにしてほしかったな。甘いと言われるでしょうね(苦笑) だって~、エンターテインメント小説なんだからさぁ(><)

…そういう意味では「山本周五郎作品」のほうが、ご都合主義かもしれませんが読み手にある種のカタルシスを感じさせてくれますwww

でも宮部みゆきの時代小説も好きですよ、やっぱり。

簡単に本書を紹介します。

 

1話:片葉の芦

両国橋の北の掘留に生える芦には、どうしたことか片側しか葉がつかないという。

手広く寿司屋の商売を拡げてきた藤兵衛が殺される。情け容赦ない商売をするため、娘のお美津はひどく父親を嫌っていた。そのお美津に幼い頃、貧乏に飢えていたところ、おむすびをこっそり分けてもらい救われたという彦次。やがて藤兵衛の秘密が明かされていく。本当に人を思い、人のために尽くしてきたのは誰だったのか。なるほどと納得しながら、娘お美津の行く末も気になりました。

 

2話:送り提灯

夜道を一人歩きしていると、浮きながらあとを付いてくる提灯が出没するという。(マジコワイ

煙草問屋に奉公するおりんは12歳になったばかり。ここの15歳になるお嬢さんの言いつけで、百夜続けて丑三つ時に回向院(両国に今もあります)の境内で小石を拾いに行かされる。どこかの男との恋の願掛けだった。怖々、夜道を行くおりんのあとを提灯がぽつんと浮かんで付いてくるようになる。手代の清助さんはお嬢さんに恋しているらしいが、夜中におつかいをさせられるおりんを気遣ってくれる。やがて事件が起こり・・。これは唯一、浮かぶ提灯がオカルトでした。しかし使われる者の悲しさに、少し憤りを感じた作品です。

 

3話:置いてけ堀

本所の錦糸堀あたりを釣り人が通ると「置いてけ~」と声が追いかけてくる。逃げ帰るといつの間にか魚籠の中が空っぽになっている。思いを残して死んだ者が岸涯(がんぎ)小僧という化け物に生まれ変わり、この堀に棲みつくという。

亭主に死なれたおしずは家の周りに水かきのような足跡を見つけ、夫が岸涯小僧になったのではと疑いをもつ。そこで夜中、こっそり置いてけ堀に向かう。そこで見たものからさまざまな謎が解かれていく。岡っ引き茂七の活躍と、おしずの寂しさがひしひしと感じられる作品です。

 


4話:落ち葉なしの椎
松浦豊後守(ぶんごのかみ)の上屋敷の大きな椎の木は、秋になっても落ち葉を落とさないという。

あるとき雑穀問屋、小原屋の裏通りで商家の主人が殺される。道いっぱいの落ち葉のせいで下手人の足跡が残っていないとぼやく茂七親分。事件の後から小原屋の息子と婚約中で、試し期間の足入れ婚として奉公しているお袖は二度と落ち葉のせいで下手人に逃げられないようにと、夜中に掃き掃除をするようになる。聞けばお袖は貰い子で、実の父は夜道で殺されたため、落ち葉を掃くのだという。やがて小原屋の周辺で怪しい男がうろつき始め・・・・。
半分ハッピーで半分寂しいという、温かくも切ない話でした。それにしても回向院の茂七親分は頼りがいあります

 


5話:馬鹿囃子(ばかばやし)
夜中ふと目を覚ますと、どこからかお囃子が聞こえてくる。遠いかと思うと近く、近いかと思うと遠くなるというもの。

茂七親分の姪、おとしが茂七の家に行くと、お吉という娘が来ていておかしな作り話をあれこれ喋り続けていた。頭が少しおかしいのだ。おとしには宗吉と祝言を挙げる予定だが、宗吉の母が亡くなったため先延ばしになっている。が、この頃、宗吉の様子がおかしい。通りすがりの女をじっと見ていたり、白粉の匂いをさせていることもある。悋気するおとしは街角でお吉と出くわし、事件が起こる。
顔切りの通り魔の出没もからみ、謎が解けるとな~んだと笑えるお話でした。この時代、精神疾患にかかった人って大変だったでしょうね。それこそ狐憑きなんかの元ネタなんだろうなぁ。

 

6話:屋敷

あるお屋敷の座敷で寝ていると、天井から汚い足がヌっと降りてくる。そして「洗え、洗え」という。綺麗に丁寧に洗うと福がきて、いい加減に洗うと良くないことが起こるという。

評判のいい小料理屋の大野屋には7つを過ぎたくらいの娘おみよがいる。母は早く亡くなっていたが、美しい義母が可愛がってくれる。義母のお静は貧しい暮らしの中、幼い頃から奉公に出ていた。奉公先の旅籠で人の足を毎日何十人も洗ってきたという。今も夜中、その夢にうなされることがあり、おみよを心配させる。やがて大野屋の主人であるおみよの父親の長兵衛が体調を壊す。同じ頃、店の周りに現れる娘を怪しんで、おみよは後を追い、物陰から信じられない会話を耳にする。
汚い足をいっぱい洗ってきたからおっかさんにはたくさんの福がついたのよ、と悪夢にうなされる義母を優しい言葉で慰める、幼いおみよの子ども心が胸に沁みました。

 


7話:消えずの行灯

ある二八蕎麦屋の掛け行灯の火は、雨の日も風の日も消えず、油を足したところを見た者もいない。

飯屋の住み込み女中おゆうは、あるとき見慣れない客の小平次に誘われて娘を亡くしたという足袋屋の市毛屋に行くことにする。娘の死後、様子がおかしくなったお内儀さんの前で娘の振りをするだけで、たっぷりの給金を出すからと。市毛屋でお内儀の世話を始めるおゆう、よく働きときどき出かける喜兵衛。それぞれが抱える秘密がやがて暴かれる。
これ、頭が良すぎて可愛げがないというか、懐疑的で厭世的なおゆうを何とかしてやりたいと思いました。生きる力に満ちあふれているのだけれど、人を信用しない、世間を冷めた目で見つめるおゆうがちょっと悲しく思えました。