The Diary of Ka2104-2

連載小説「私の名前は舞」第9章 ー 石川勝敏・著

 

第9章

 

一週間後。朝起きておじさんの床へ向かうと、掛け布団の中央がなにやら上に向かって膨らんでいます。どうやら空間をおじさんは作っているようです。その周辺の特に右側がごそごそせわしなく動いていました。おじさんの息遣いが荒い。ははあ、おじさんはオナニーをしているのだなと瞬時に判じた私はその場を離れました。

 おじさんに引き取られる前に住んでいた家庭はひどくすさんでいました。猫を飼っているということになりますけど、その家庭のなんびとも私を愛していませんでした。あたかもただの空気のように疎んじられそのくせ時には見世物にされ娯楽の対象になります。どの部屋に行っても、あっち行けとばかりに、しっ!と言われ家のあちらこちらを流浪しなければならないので心安まりません。そこで私は居直ることにしました。私は家庭内のどこに居ても、日陰の身となり息を潜ませ猫なで声を一切発しない術を身に付けたのです。ずっと気付かれずに生活しおおせていたのですが、万々一気付かれていたら、私の存在にぎょっとしおたおたしては最後には暴言を吐かれていたに違いありません。あるいは暴行にまで至っていたかもしれません。おかげで私はその家族全員の一挙手一投足までつぶさに観察することになり、よってそこから人間の性の知識に通じるようになりました。

 しばらくしてから私はまたおじさんの処へ戻ってみました。布団の横に投げ捨てられてある丸めたティッシュが3つ目に入ってきました。見ると、おじさんは掛け布団をのけ、身体を露わにしていました。パジャマパンツと下着を膝まで下ろし、今やだらっとしたペニスをティッシュで拭っていました。おじさんはどうやって射精をティッシュで受け止めたのだろうと私は思いました。やり方は幾通りかあるのを私は承知していましたが。おじさんは立ち上がり装いを直し正座をしたなら私の首根っこをわしづかみし膝の上に乗せました。おじさんの股間からも右手にも左手も使っていたらしく左手にも性の匂いがぷんぷんでした。私の瞳には涙があふれ、目がレンズのように膨れ上がりました。私がここへ引き取られてからおおよそ3年が過ぎます。それはおじさんが62のときでした。この間、ですが、私はおじさんのオナニーするところを見た試しがありません。トイレや浴室もそのために使ってはいなかったろうと私には確信のように思われます。つまりおじさんは3年もの間オナニーをしてこなかったのです。人間の男性は勃起力が大なり小なりあるかぎり一人でも性処理をし続けなければなりません。これは男性の生理であります。そこのところおじさんはどうしてしまっていたのでしょう?性欲減退ならまだしも勃起不全だなんて神様は酷すぎます。

 おじさんは私を撫でながらこうつぶやくので、私は人知れない涙をゴロッと一粒落としました。

「きっとあの世から石川さんの贈り物だったんだ。あんなに燃えるだなんて」


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