The Diary of Ka2104-2

連載小説「私の名前は舞」第8章 ー 石川勝敏・著

 

第8章 

 

 私は部屋でおじさんの膝の上、体が圧され押し潰される思いでした。おじさんが腕を硬直させ私の体に両手を置くものですから。私がおじさんの涙を見たのはこれで2回目となります。正確には涙に触れたのですが。生温かい液体が私の背にぽつりぽつりといつまでも落ち続けました。おじさんはついに言葉を発しました。

「みんな消えていっちまう」

それから石川さんのいいところを数え切れないぐらい私に語って聞かせました。

 翌日は昨夜と今朝の境にはあまりに乏しい暗い天気でした。暗雲が垂れ込めたまま、今にも泣きそうで未だに泣き出しはしないといった時間が夜まで過ぎていって夜から夜への橋渡しみたいでした。

「きっと石川さんを送っているのじゃのう」この日聞いたおじさんの唯一の言葉になりました。おじさんはその晩気を取り直して早々に就寝の準備をしました。窓ガラス越しの夜闇に向かって手を合わせ目を閉じたのが数分続いたのち、トイレと歯磨きを済ませ、おじさんの歯は全部自前で部分入れ歯ひとつさえありません、丹念に磨きます、そして最後にようやく私への食事が振る舞われました。スーパーのお徳用パックごと、そこにはささみが8本入っていたのですが、皿にも移さず味付けはいつもどおりきっちりではいどうぞという次第なのはいいのですが、私の哀しみはおじさんがひと粒も飯をとらずのまま布団に入ってしまったことでした。


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