The Diary of Ka2104-2

エッセイ「私が死んでから孤高の芸術家はやめて」 ー 石川勝敏

 

 お彼岸とは、春ではなく秋を迎え入れる頃合いの場合、秋分の日を中央日として前後3日を含め入れた都合7日(一週間)の日々を指すそうだ。そうすると現在9月25日から見て、お彼岸を当て嵌めると、丁度今日がその中央日となり、あと残り3日でお彼岸は過ぎて行ってしまう。ところが最高気温だけで云うと、大阪の本日は30度、残り3日の予報を並べると、33度、32度、31度といった具合で、更にお彼岸が明けても尚向こう4日は31度から30度とされている。その後来月3日からようよう27度から29度までが当面続く。

 皆さんは夏を心置きなく過ごし切れそうだろうか。仕事にしろ愛にしろ当初思い描いていたものが成就してからのあるかなきかの秋を想像したいものだ。かくいう私は仕事と病気ばかりで占められている。人は一人では生きられない。

 私にとって夏の想い出は何も無いので次に行くとする。次回の収録オペラアリアと絵画作品のアイデアはもう決まっている。次回絵画の為の習作はもうスケッチしていて、そのタイトルは「雨」/" Raining " であるが、抽象画ということもあってタイトルには今回あまり意味を置いていない。

 今度収録予定のオペラアリア" Vesti la giubba "に関しては、楽譜と共にその言語を素読みしたあとの、その言語の方の記憶の最終段に今居るところだ。なにせ覚えにくい単語が立て続けに出て来るのでここまで来るのに苦労した。とはいうものの、私にあっては、記憶の集中日や集中時間を設けることはなく、ただ、ひとくだり、ふたくだり覚え切ったら続くひとくだり、ふたくだりを記憶するといった案配で進めているに過ぎないが。言語の記憶がすべてしおおせたなら、次は楽譜とにらめっこして、言語を譜面に乗せ再構築する段に入る。やがて私は自宅の部屋で静かにエアーとトルソー内部の動きだけでもって歌いのレッスンに入りこの完をもち収録に臨む運びとなる。

 このオペラアリアはイタリア語歌曲だが、言語で思い出す逸話が一つある。私は当時、ヨーロッパ主要言語五ヶ国(地域)分を一連の流れで文法を中心に学んでいた。すべて独学だ。この頃、私は地域の障害者福祉施設のサービスを受けるために、その名「のぞみ会・シード」へ登録をしに行った。面談の相手は山口という者だ。二人きりの部屋で、私が申請書の趣味欄に今の事だからと「語学」と書いたなら、なぜか山口は承服せず、「語学とはなんですか?」と書き換えを私に迫るのであった。私はなぜ「語学」がわからないのか、又、変えろとするのは山口のどんな考えのもとからか捉えられないでいると、山口は再考を促すため部屋を退出して私を一人きりにした。私の頭はもちろん沈思黙考する余地もなく、「何それ?」とばかりに山口の偏執をいぶかるばかりであった。すると山口が部屋に戻ってきて「出来ましたか?」と用紙を取り上げて問うので、私は素直に「うーん、いやぁ」と返すと、山口は「それはあれじゃないですか。べ、ん・・・」と言い出すので、私が「勉強?」とオウム返しをすると山口は先程の用紙を改めて私の前に差し出した。私は勉強が嫌いであるし、語学本を文法中心にあらためてただけなので、量だけはすごかった、ただし記憶作業は一切していなかった、そういう訳でなんで私のする行為を「語学」から「勉強」へと書き直しの命を受けなければならないのかと、「語学」で十分人は解するのだと、「勉強」では幅広すぎるのだと、ここは尋問部屋かと深甚に思いながらも、片や「あなたがそうお考えならば」とも思い間もなく私は「勉強」と書き変えた。すると山口はとてもな満悦を薄笑いに隠し内心哄笑しているのを私にわからしめた。

 よそ様にとっては、ただの個人事だとお思いになるのかわからないが、私にはいまだに私を引っ張り上げる方が現われてはいない。私が拾われたら私にどんなメリットがあるか?芸術家としての社会的デビューもさることながら、それよりもっとずっと肝要なのは、私を孤独から救い出せるということと、私の幻声を私から紛らわせることができるという点にある。私は来年3月2日で58歳になる。ヨーロッパ映画にも出たくなくはない。人は一人では生きていけない。

 私はマスメディアを見て思った。今日の夕刻、読売テレビ(大阪放送)のニュース・情報番組を見ながらこう思ったのだ。

 「私が死んでから私を孤高の芸術家とするのは許しません。それではまるで死体を待っているハイエナだ。ハイエナはその間人がなぶられているのをただ黙って見ながら死ぬのを待つのみ」と。


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