The Diary of Ka2104-2

小説「田崎と藤谷」第11章 ー 石川勝敏・著

 

 

第11章

 

田崎と話した候補物件もちの不動産屋の店員はあとから彼が名刺を改めると店長だった。ではその店長こそが田崎を話の上では良きにはからってくれていたのだ。ならその見学の後ほどに話を進めに店を訪れた足立さんに対する他の店員のあしらい方はどういう風の吹き回しだろうと田崎は思わずにはいられなかった。店長不在だったのだが何ゆえ店長の息がかかっていなかったのか。はたして田崎と話をするときは対精神障害者本人だっただけに他ならないのか。二度目になる足立との事後電話で田崎はそういう反応を示さなく、ただ足立の金曜店長が出社するのでその日にその者と直談判するとの報告を唖然と聞いていた。獲得するためになにか優勢になるものを足立は有しているものか田崎は案ずるのだったが、足立はそれが自信でなくとも息満々に行ってきますと田崎に確信させようとしていた。立場を覆すとしたら不動産屋同士にだけわかる隠語のやり取りかはたまた陽気な打ち解けとしか田崎には他それ以上は想像しかねた。ただ、今のマンションのごくわずかしかいない住民を皆退去させおおしたひには巨額なお金が動くことだけは田崎には確信ができていた。

 「申し訳御座いませーん」ひどい男泣きが電話口から漏れるほど聞こえてきた。実際田崎は足立からの通話を瞬時スマホを耳から離し端で聞いた。適わなかったとのことだが「僕はこれでもかこれでもかとやり込めていたんですよ、だのに、くそったれあいつときたら」と素に戻って営業マンらしく言い訳を忘れていなかった。

 退去期限を巡ってのひと悶着は長々と続き田崎の精神はきわみに至り、もともとの振出人である不動産業者代表もようやく静観しだしさじを投げる格好になった頃には両者で今まで使った時間のスパンとこれから使わざるを得ない時間のスパンは何の無駄な期間なのかといぶかるより他にあるとしたら行政の者だの傍観者たちに与しているだけであろうと思われるばかりだったが、この期間を通してこの3者の間には友情のようなものが醸成されていた事実も3人それぞれが自覚していたことだった。

 一方、デイでは石川の強いすすめで、藤谷の快気祝いと遅ればせの誕生日祝いに田崎の転居祝いの計画が何も知らされず進んでいた。田崎にしてみれば要らない物の押し付け合いみたくなひと悶着を代表なりに持ち出すよりそこではすべて忘れて気晴らしでもしてないともたないだろうとの判断からで代表には期限延期でまた都営に応募しているとだけ言っていた。田崎には藤谷以外に信じられる人はいないし藤谷のみに天涯孤独だった身の燃えるような信任を与えられるのであった。

 松井代表と石川の間で取り決めがなされ田崎の転居が流れたことは田崎に近いメンバーたちにだけ伝えあとの者たちには伏せ田崎へのお祝いも含めてパーティーを催そうとしていた。もう6月10日で6月14日の藤谷の退院に合わせて催すのだから時間がない。また田崎は藤谷の人生に多大な好影響で貢献したとの皆の共通認識であった。藤谷の回復振りは目覚ましいものがあった。石川を通して田崎も祝われると田崎本人と藤谷にも内通された。藤谷がそう承知したのはある奇特な女性看護士を通じて石川から渡された手紙によってであった。藤谷の容態を石川らに内緒で漏らしていたのもこの女性看護士だった。さながら反ナチスの密通だった。


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