The Diary of Ka2104-2

経済学/消費者と需要に関わるグラフ~その7最終講座・需要の価格弾力性と所得弾力性ー石川勝敏

導かれる需要曲線がどのような性質をもつのかについて知っておくと、その財に対する需要はどのようなときにどの程度変化するのかについて見当をつける上で役に立ちます。その1つとして「需要の価格弾力性」があります。需要の価格弾力性とは価格がある比率(たとえば1%)で変化したときに、需要はどのような比率で変化するかというものであります。

図1-8には需要曲線が描かれています。ここではわかりやすいように直線で示しています。そして、価格がP0にあれば需要量はq0になります。この状況で価格が⊿Pだけ上がってp1になったとします。このとき需要量は需要曲線に沿ってq1になり、⊿qだけ減ることになります。このとき、需要の価格弾力性は、次のようにあらわされます。

ここで、p0、q0は正の値であるけれど、⊿qは負でありますね。とすると、需要の価格弾力性は負の値をとります。しかし、需要の価格弾力性の大小についていう場合には、符号を取り除いた数値の大きさ(絶対値)で表現するのが一般的です。需要の価格弾力性が大きいといえば、価格がある比率で変化したとき需要量の減り方が大きいことを意味しています。

図1-8の横軸、縦軸の括弧内には数値が示されています。価格がp0(3)、需要量がq0(100)の点において、価格が2つだけ上がったときの需要の価格弾力性は、上の公式の右端の式を使って計算すると、(-20/2)×(3/100)=ー0.3の結果を得ます。マイナス符号を取り去ると需要の価格弾力性は0.3になります。

需要の価格弾力性が大きくなるか、小さくなるかには、2つの要素が関係してきます。1つは、価格と需要量が特定の需要曲線のどこに位置しているかに拠ります。図1-8のような直線の需要曲線では、需要の価格弾力性の公式の右端の項のうち⊿q/⊿pはどこで見ても同じ値をとります。ところが、p/qは、p0、q0で見た場合よりも(p2、q2)にあった場合の方が需要の価格弾力性は大きいことになります。

これを数値で確かめる為に、p2(8)、q2(50)の点における需要の価格弾力性を計算すると、(-20/2)×(8/50)=ー1.6となります。符号を取り去った1.6は、(p0,q0)における需要の価格弾力性である0.3よりもずっと大きくあります。

もう1つの需要の価格弾力性を変える要素は、需要曲線の形(直線の場合では傾き)であります。これを説明するために示したのが図1-9です。

ここでは、D1とD2の2つの需要曲線が交わる点を出発としましょう。ここでの価格はp0で、需要量はq0であります。次に、価格がp1に上がったとします。このとき、需要曲線D1ではq0q1だけしか需要量が減らないけれど、需要曲線D2ではq0q2と大幅に需要量が減ってしまいます。需要の価格弾力性の式に当て嵌めれば、p/qは共通であり、⊿pも共通であるのですから、需要の減り方、すなわち⊿qが関係して、需要曲線の傾き(⊿p/⊿q)が価格弾力性の大きさを決めることになります。すなわち、立っている需要曲線の価格弾力性は小さく、寝ている需要曲線の価格弾力性は大きいことになります。

価格が上がったとき、需要の減り方が小さいということは(需要の価格弾力性が小さいということは)、消費者は価格が上がってもその財の消費をあまり減らさないことを意味します。そのため、需要の価格弾力性は財に対する必需性の指標として使われることがあります。

売上金額は価格(p)×数量(q)であります。図1-9からすぐにわかるように、D2のように価格弾力性が大きい場合には、価格が上がると、需要量が大幅に減ってしまうのですから、売上金額は減少してしまいます。一方、D1のように、価格弾力性が小さい場合には、価格が上がっても需要の減り方は少ないため売上金額は増えます。これは、重要な結論であります。そして、価格が上がったとき売上金額が減りも増えもしないのはどういう場合かといえば、それは、価格弾力性が1の場合であります(最後に挙げる補論参照)。1よりも大きければ売上金額が減りますし、小さければ売上金額が増えるのです。

価格競争が激しく、「結果として、互いの首を絞め合っている」との表現がなされることがあります。これは、需要の価格弾力性が小さく、価格を下げても需要があまり増えず、売上金額が減ってしまう場合に当て嵌まります。

価格の変化に対して需要量が変わる程度を指標化したのが「需要の価格弾力性」でありますが、同様に、所得の変化に対して需要量が変わる程度を指標化したのが「需要の所得弾力性」であります。

所得が増えれば、普通は需要量が増えます。そして、そのときの増え方は商品によってだいぶ違っていましたね。米よりも肉の増え方のほうが大きくありました。この性質を数値として捉えた需要の所得弾力性は、次のように表現されます。

ここで、yは所得を意味します。需要の所得弾力性は一般に正でありますが、負である場合もあるのです。これを下級財と呼んでいます。

図1-補2は所得が上昇したとき、無差別曲線の形(消費者の好みの性質)によっては、財2の消費が減る場合があることを示したものです。すなわち、図1-4の場合には、所得*消費線が右上の方向を向いていましたが、図1-補2の場合は左上を向いています。これは所得の増加により予算制約線が右上にシフトしていくにつれて、財2に対する消費が減ることを意味しています。需要の所得弾力性の式でいえば⊿qが負ということですから、需要の所得弾力性が負の値をとることになります。このような財を、改めて、下級財或いは劣等財と呼んでいるのです。

1965年度における米の1人当たり消費量は111.7Kgにあったのが、2011年度には57.8Kgとほぼ半減しています(農林水産省資料)。この間、日本の1人当たり所得は大きく増えたのですから、米は下級財としての性質をもつことがうかがえます。もちろん、米の価格が大幅に上がったために、消費者が減ったことも考えられますが、この間の米類の価格上昇率は、消費支出全体の価格上昇率とそう変わらなかったのです。

補論ー需要の価格弾力性が1の場合

需要の価格弾力性が1の場合には、価格が上がったときに売上金額が変わらないということを確かめてみましょう。いまBという商品の価格が1個100円だとして、この価格では商品Bは1000個売れるものとします。このときの売上は100円×1000個で100000円になります。そして、商品Bの価格が1%(1円にあたる)上がったとしましょう。需要の価格弾力性が1だということは、売上が1%減る(10個にあたる)ことを意味します。このときの売上は次のようになります。

(100円+1円)×(1000個ー10個)=101円×990個=99990円

ということでほとんど100000円あり商品Bの価格が上がらない前と変わらないといってよいでしょう。

では、需要の価格弾力性が1.5の場合と0.5の場合について試してみましょう。

1.5の場合⇒(100円+1円)×(1000個ー15個)=101円×985個=99485円

0.5の場合⇒(100円+1円)×(1000個ー5個)=101円×995個=100495円

このように、需要の価格弾力性が1より大きい場合には価格上昇が起きると売上が減りますが、需要の価格弾力性が1より小さい場合は売上が増える訳です。

価格が下がった場合についても確かめておいて頂きたい。


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