鬼滅の刃の二次創作です、悲鳴嶼行冥、煉獄槇寿郎、煉獄の父がメインとなっています。
これで終わりだ、これで自分達の頭は褒めてくれるだろうと鬼は思った。
地面に倒れた岩柱そっくりの鬼、その血肉を啜る、新鮮な血は自分達の血肉となる、人を食らえば鬼は力を得ることができる、この鬼には人の血が混じっている、だから殺した瞬間、思ったのだ。
喰いたい、血と肉を全て、自分の中に取り込んで、糧とすれば新たなる力を得ることができると思ったのだ。
ところが、異変が起きた、喰らったのはいい、頭の中に声が響いてくる、それは怨のように殺せと自分達に呼びかけた。
鬼舞辻を、無惨を、殺せと。
どういうことだ、自分の配下が襲いかかってくる事に驚いた、下位の鬼だ、命令は絶対の筈だ、それなのにまるで狂ったように襲いかかってくる。
鬼舞辻が何かしたのか、いや、この鬼達から感じる血は人と交じり合った鬼の血だ。
(狂ってしまえ)
そういわんばかりの怨嗟、それは紛れもなく、人が鬼を呪った声、そして血の匂いだ。
鬼が鬼を、戦っている、これはどういうことだろう、見たくない、怖い、助けて欲しい、だが、ここには、あの人はいない、悲鳴嶼さんは、ここにはいない。
呼んでもこない事は分かっている、それなのに。
「まったく、どういうことだ」
忌々しいと言わんばかりに男は自分の足下に倒れた無数の鬼だった骸を見下ろした、瞬殺とまではいかない、だが、全部倒した、これも鬼舞辻無惨を自分が喰ったからだ、力が増しているのがわかる。
元は自分の手下だったが、邪魔なだけだ、手下など力をつければ寝首をかかれるかしれない。
鬼は手を伸ばした。
「私は、お前の父でもあるのだ、鬼舞辻無惨を喰らった、故に、ここに父はいる」
女の顔が歪んだ、聞いた事のない名前だ、その人を喰らったということだろうか、鬼ではないか、自分は人間だ、あの人と夫婦になって。
(なれる訳がない、そんな事、最初からわかっていた筈なのに)
この世から鬼がいなくなったら、鬼狩りの仕事が終わったら、そのときは、あの人と二人で暮らすなんて、ずっと一緒に、そんな夢を見た。
だけど分かってしまった、夢だと、夢は見ているときが楽しく、そして儚いのだと。
ここからいなくなって、消えてしまいたいと思った。
お前の母親は自死だ、それだけではない、火をつけて夫を焼き殺そうとしたんだ。
(燃えてしまえば全てが消え、なくなってしまえば全てが終わるのだろうか)
女は目の前の鬼を見た、手招く鬼を、あの人ならいいのにと思ってしまう、迷うことなく、側に行き、その手を取ることができる。
だが、あの人は来ない、悲鳴嶼さんは、ここにはいない。
悲鳴が聞こえた先に駆けつけた煉獄槇寿郎は、その光景に目を見張った、思考が混乱したが、それは一瞬だ。
「ひ、ひっっ、火が、消えん、っ、おまえか」
片膝をつくように崩れかける鬼は自分を殺そうとしている相手を睨んだ。
火が、燃える体を起こし、手を伸ばして女を掴もうとする、捉えようとしている。
白、雪のような真っ白な肩口まで伸びた髪を今でも覚えていた。
おかしいでしょ、おばあさんみたいでしょう。
生まれつきだという、そんな事はないと否定したつもりだった、だが、あの人は泣いた。
嬉しいわと言いながら泣いたのだ、それが何を意味するのか、わからなかった、ずっと。
気配を感じたのか、女が振り返った。
真っ白な髪の、あの人がいた、亡くなった、鬼に殺された筈の、真っ白な髪の。
ああ、夢ね、これはと女は思った、笑って大丈夫だと伝えなければ、言わなければ。
助けに来てくれないなんて、そんな事を少しでも思ったりして、なんて非道い人間だろう、悪い女だろう。
ありがとうと言いたかった、だが、炎の熱、その熱さに喉がひどく渇いて声がでない。
「伝えてくれ、俺は、このまま、家に戻ると」
追いかけてきた黒づくめの隊士は、顔全体を布で覆われて表情は見えない、だが、明らかに、この状況に驚きを隠せずにいた。
元、柱である男は気を失ったままの半裸の女性を抱きかかえたまま、自身も衣服が焼けている手当をしなければと言っても、この程度はかすり傷だという。
「親方様から頼まれたのだ、煉獄槇寿郎、責任を持って預かると」