読む、書くの雑多な日々、気まぐれな日常

好きなこと、雑多な日々、小説などを色々と書いていきます

ボタン付けとコートのカスタム、結婚したらとラストに言われたこと

2021-03-29 11:36:31 | 二次小説

 ボタン、取れかかっていますよ、彼女の言葉に視線を落とす、確かに白衣の真ん中の胸ボタンがゆるくなっている、まあ、今日一日ぐらいは大丈夫だろうと思っていると、付け直しますと行って針と糸を持って、そのままじっとしていてくださいと声をかけてきた。
  脱がなくてもいいですから、イスに座ると、素早く自分の隣に座って針に糸を動かす、器用なものだと感心すると同時に自分でやらずにすんで良かったとマルコーは、内心ほっとした。
 料理や簡単な掃除はできても裁縫は正直、得意とはいいがたい、得手不得手というものは人間誰しもあるが、裁縫は、その中でも特にといってもいい。
 
 「ありがとう、助かったよ」
 
 そのときドアが開き、ひまーっと女の声が響いた、入ってきたのはラストとスカーだ。
 
 あら、お邪魔だったかしらというラストだが、ボタンつけてただけよという言葉に、何を思ったのか部屋から慌てて出て行った、そして戻って着たときには、これ、お願いとばかりにスカートやシャツを山ほど抱えてきた。
 
 「何、これ、まさか、やれと」
 
 「いいじゃない、あっ、スカート丈は少し詰めて」
 
 「自分で」
 
 「裁縫は駄目、ホムンクルスにも得手不得手があるのよ、それともドクター、マルコーだけ、依怙贔屓ってやつ、ほら、貴方も出しなさいよ、コートのボタン、とれかかっていたでしょ」
 
 そういってラストは隣の大男、スカーの体を肘で突いた。
 
 「あっ、ボタンの糸がゆるくじゃなくて太ったんだったわね、やだわー、ボタン、全部付け替えた方がいいんじゃない、ほほほーっ」
 
 その言葉に、むっとした顔になったスカーだが、美女は気にする様子もない。

 袖口がすり切れている、だけじゃない裾もだよ、それに、背中の部分を障ってみると中に綿が入っているのかもしれないが薄い、せんべい布団みたいで、こんなコートを着ていて寒くないのだろうかと思ってしまう。
 まあ、筋肉の塊が服を着ているような感じだから、もしかして寒さなんか感じないのかもしれない、だが、これではあんまりだと思ったが、このとき、山のように積まれた女物(ラスト)の服が目にとまった。
 
 「これ、ばらしてもいい」
 
 女物のコートというのは防寒もだが、体の線を綺麗に出す為に素材も薄く軽く、結構質のいい物を使っている、中綿を使うのよと行ってコートの裏地をほどいて中身を引っ張り出して、スカーの大きなコートに詰めはじめた、適当に型を取って詰めて止めるだけなので手間も時間もかからない。
 
 「それ、まだ二回しか着てないんだけど、まあ、いいわ、好みじゃなかったし」
 
 結構いいコートだと思うのだが、高かったんでしょというと男からプレゼントされたものだから値段は忘れたと言われて、はあっという顔になった、その人とは今でもお付き合いが続いているのかと聞いたら、当然、別れたわと、当たり前のような返事だ。
 
 まあ、相手の男は気の毒としか言いようがないが、コートは役に立ったのだからいいことにしようと思いながらふと、この時気づいた。
 
 「先生のコート、見せてください」
 
 女なら破れたり、ほつれに気づいたりしたら、その時点で直したり修理に出したりするのだろうが、怪我人、病人もいないし、暇だから、ついでにカスタムしてしまおう。
 
 
 
 先生はどうですと聞かれてマルコーは羽織ったコートが軽い事に気づいた。
 
 「腕周りとか動かしづらくありませんか」
 
 「ああ、大丈夫だ、背中が以前より温かい気がするが、それに軽い」
 
 「彼女のコートの中綿を使ったからです、殆ど着てないから、新品同様ですよ」
 
 「だったら新しいコート買ってくれない」
 
 ラストの言葉に、その男に、また買って貰ったらというと、むっとした顔になった、多分、いい別れ方ではないのだろう、目が疲れたなあとごろりと床に寝転がると、冷えるからと言われてしまった。

 仕方ない、医療用のベッドにごろんと寝転ぶとお茶にしようかといわれてしまった。
 
 「甘い物がいいだろう」
 
 「ココアにミルクと砂糖を少し多めで」
 
 「あっ、あたしも、傷男は珈琲でいいのよね」
 
 三人でお茶を飲んでいるとラストが呟いた。
 
 「結構うまくできてるわよ、コートのカスタム」
 
 褒めてくれるのは嬉しいが、これは他の服もなんて言われそうで黙っていた。
 
 「医者の助手より、路線変更した方がいいんじゃない」
 
 どこに、路線変更なんて今更キツイと思いつつ、手渡されたココアを飲もうとすると、ラストはにやりと笑ってマルコーを見た。


    いいんじゃない、もう、結婚しても」
  


ガニマール刑事の恋、らしいです 私立探偵とリュパンは蚊帳の外、とか

2021-03-24 11:55:13 | 二次小説

「確かに、これは奴の予告状ですな、間違いありません」
 
 指紋を調べたところで無駄だろうと思いながらも、ガニマールは手袋をはめた手で丁寧に封筒をひっくり返すと中を改めた、一週間後、フランヴァル侯爵家の宝である青い紅玉を頂きに参ります、アルセーヌ・リュパンと署名を見てガニマールは内心、腹が立った。
 ここ数年、アルセーヌ・リュパンはなりを潜めていた、もしかして死んだのではないかと噂まで流れたほどだ。
 その理由は簡単、恋人が亡くなったからだ、女性はリュパンの犯罪の協力者でもあったが、病気で長くは生きられないとわかっていようなのだ彼も覚悟はしていたのだろう。
 ここ数年、パリが静かだったのは彼女を連れて離れ小島に生活の拠点を移していたからだ、だが、それを知っているのは限られた人間だけだ。
 
 
 「やあ、警部、お元気ですか」
 
 数日前、リュパンは堂々と現れた、しかも花束まで持ってだ、それを自分に手渡し、奥様が亡くなられていたとなどと殊勝な顔つきでいうものだから、毒気を抜かれてしまった。
 
 「三年だよ、もう、慣れた」
 
 そうですかと頷いたリュパンは真面目な顔で、だが、それはすぐに、別の表情に変わった。
 
 「捕まえたいですか、僕を」
 
 当たり前の事を聞くなと言いかけたガニマールは何を狙っていると聞いた。
 
 「ご存じでしょう、美しいものが好きなんです、僕は」
 
 分かっている、そんな事は重々、いや、百も承知だと言いかけてガニマールは、はっとした、今、パリでは古物市が様々な場所で開かれている、規模の大きな物から小さなものまで、週末ごとにといってもいい。
 そしてリュパンは強欲だ、絵画、宝石、アンティーク家具、正直、この男が何を狙っているのか、見当がつかない、そんな矢先のことだ。
 
 侯爵家にリュパンから、予告状が届いたというのだ。
 
 
 「ガニマール警部さん、私、この宝石、青の紅玉が盗まれても構わないと思ってます」
 
 宝石の持ち主である女性、ジェニーナ・フランヴァルの言葉にガニマールは驚いた、大事な話があるので二人きりで話したいと言われて館の彼女の部屋に呼ばれたガニマールは宝石が偽物であると聞かされて驚いた。
 恥ずかしい話だと前置きして彼女の話を前置きすると、半年ほど前に亡くなった夫というのは、かなりの浪費家だったらしく、今、住んでいる屋敷の殆ど、金になりそうな物は借金のかたに売り払ってしまったのだという。
 そして、月末には屋敷も他人の物になるという話にガニマールは驚いた。
 
 「マダム、お気持ちはわかります、ですが、あなはリュパンという男を知らない、もしかすると彼には他の目的があるのかもしれません」
 
 リュパンのことだ盗みに入るにしても下調べをしている筈だ、だとしたら、青い紅玉が偽物ということも知っているのではないか、それでもだ、わざわざ予告状を出し、それを撤回しないことは奴は間違いなく、現れる。
 もしかしたらと思う、その時、ドアがノックされ男が顔を出した。
 
 「マダム、お客様が、その、ロンドンからいらしたと仰って」
 
 ロンドン、心当たりが亡いと言いたげに女性は不思議というよりは不安そうな顔でガニマールを見た。
 
 
 「ハーロック・ショームズ」
 
 客間で待っていたのは知らない顔ではない、ロンドンの探偵が、何故、ここにとガニマールは驚いた、するとリュパンの予告状と聞きましてねと立ち上がった長身の男は女主人の前に立つと恭しく頭を下げて手を取り、挨拶のキスをした。
 
 「マダム、ここに来るまでに色々と調べたんです、予告状を出し、盗むと彼がいった宝石、青の紅玉が偽物ということ、一度拝見させて頂けませんか、勿論、警部も一緒にです」
 
 
 ケースから取り出した青の紅玉を見たショームズは偽物にしてはよくできていると呟いた。
 
 「鎖と宝石の台座ですが、これは最近、交換されたものでしょうか」
 
 「元々古くて、それに宝石は偽物なのだから構わないと思って、一ヶ月ほど前に古道具屋で見つけたものと交換したです」
 
 「ほう、古道具屋、ですか」
 
 ショームズの目が細くなったのをガニマールは見逃さなかった、その時、玄関の方から喚き出すような言い争うような声が聞こえてきた。
 
 
 「お帰りください、ただいま来客中で奥様は」

 メイドの声に怒鳴りつけるような男の声が被さる、
  
 「うるさい、あいつが亡くなったからって」
 
 
 玄関に行くと男がメイドと言い争っている、騒がしいなと一括したのはショームズだ。
 男はショームズ、ガニマールの顔を見ると、ぎょっとした顔になった。
 
 「借金の取り立て買い、それも他の要件でもあるのか」
 
 男は何か言いかけようとしたが、ちらりと視線を外した、その様子にショームズは、ふふっと笑いをもらした。
 
 「私の、いや、君は警部の顔も知っているようだね、後ろ暗いところがあるんじゃないか」
 
 「有名人だからな」
 
 ショームズはガニマールにチラリと視線を向けた、それに気づいたのか、ガニマールも、この時、男をじっと見た。
 
 (こいつの、いや、どこかで)
 
 「少し話を聞かせてもらおうか」
 
 ガニマールが一歩踏み出し、近づこうとした、その瞬間、男はくるりと背を向けると脱兎のごとく、駆けだした。
 
 

 「ですが、偽物ということは本物も存在するということになりませんか、警部」
 
 「本物だって、だが、そんな物があっても」
 
 侯爵家は没落同然だ、本物があっとしても意味はないのではガニマールは思った。
 
 「当主の噂をご存じですか、表の顔ではなくて」
 
 
 
 数日が過ぎた、ルパンが予告情話取り消したことは初めての事で、ベル・エポック紙を騒がせたのは、彼が真摯な謝罪をした挙げ句、本物の青の紅玉を女主人のジェニーナ・フランヴァルに返したことだ。
 ところが、彼女はこれを不要として貧民街の子供達を世話する教会に寄付をした、全てだ、それだけではない、屋敷も売り払い、爵位も返上してしまった。
 
 
 その日、ガニマールは久しぶりにシャトレ広場のスイス酒場を訪れた、妻が亡くなってから酒量は減った、だが、今日は事件が解決したことで気分がよかったのだ、二杯目のビールのお代わりを頼む、だが、運んできてくれたメイドを見て驚いた。
 
 「マ、マダム、ジェニーナ」
 
 「ガニマールさん、お元気ですか」
 
 働いているんですと言われてガニマールは、えっとなった、彼女は元、貴族、いや、爵位を返上したからといって酒場で給仕などをするような女性ではと思った。
 
 ビールをジョッキで二杯、いつもなら酔っぱらって気分は、だが、その酔いもさめてしまった。
 
 
 
 
 
 
 仕事が終わり自宅へ戻ろうとしていたのだろう、店を出た彼女にガニマールは声をかけた、振り返った彼女が驚いた顔で自分を見る、だが、ほんの少し前、自分は、それ以上に驚かされたのだ。
 
 「いつから、あの店で働いているんです」
 
 一週間前からですと言われてガニマールは黙りこんだ。
 
 事件の後、館を出て無事に暮らしているのか、どこにいたのか、聞きたい事が色々とあったのに、言葉が出てこない。
 
 「貴方からの手紙を受け取りました、内容を読んで安心しました、だが消印がない」
 
 「もしかしたら、住所を調べて会いに来てくれるかと思って、あのときは色々とお世話になって、また迷惑をかけてはと」
 
 「いや、刑事として、自分は当然のことを」
 
 手紙は何度かきた、近状を伝えるだけの日常的な、まるで日記のような内容だったが、それを読むことが嬉しく、何度も読み返した、ただ、一つ、残念なのは自分から返事を出すことができないことだ。
 
 「どうして、あの酒場に」
 
 「運が良ければ会えるかもと、手紙だと伝わらない事もあるでしょう」
 
 それは、言葉が喉の奥に引っかかるようなもどかしい気分だ。
 
 「生活は大丈夫なんですか、亡くなったご主人は貴方には」
 
 事件後、ハーロック・ショームズに色々と聞かされた亡くなった夫は実は男色家で女性には全く興味がなかったらしいこと、遠縁の親族の遺産の受け取りの条件として偽装結婚したのだろうと聞かされたときは驚いた。
 
 「もしかしたら、マダムは感づいていたのではと思うが、借金で、そこまで気が回らなかったのかもしれないな」
 
 婦人の着ている物を見て気づかなかったね、旦那だよ、愛人と日々放蕩三昧で薬にも手を出していたこと、いずれにせよ、貴族の爵位返上は遅かれ早かれ免れることはできなかったはずだ、彼女にとっては幸運だったろう。

 事件の最中、警官や自分達に紅茶やティーフードを振る舞ってくれたことを思い出す、サンドウィッチ、ショートブレッド、それらは決して高級な物ではなかった。
 自分の生家は貴族ではない、田舎の人間だといっていたことを、
 
 「手紙には住所を書いてください、そうしたら返事を出すことができる」
 
 すると、女性はわずかに困惑した表情になった。
 
 「貴方の家の前、ポストに手紙を投函するの、楽しみなんです」
 
 そんな事を、いや、返事に困ってしまう、思わずガニマールは周りを見た、通りには人影も、まばらだ、だが、あえて彼女の手を取ると建物の陰に隠れるように入った。
 
 「偽物でも、あの宝石は美しかった、あの時、言いたかったのは同じくらい」
 
 貴方がといいかけてガニマールは両腕を伸ばして抱きしめた、それは、あの屋敷の中で貴族で未亡人という彼女相手にはできなかったことだ。
 
 「よ、酔ってるんですか、ガニマール、警部さん」
 
 驚きと焦ったような相手の声にガニマールは真面目に答えた、酔っていない、それに、今は仕事中ではないのだから許される筈だと顔を寄せた。
 
 「マダム・ジェニーナ、私は(あのときから)」

 
  
 女性はくすぐったそうに身をよじらせるが、ガニマールは構わずにキスをした、後で髭の手入れをしなければと、そんな事を思いながらだ。

 
 


貴族令嬢の恋は前途多難、メイドも周りも苦労する  

2021-03-09 11:22:33 | オリジナル小説

 ジュスティーナ・フランヴァル、貴族の家に三女として生まれたが、子供は自由に伸びやかに大らかに育てようという家風の為か、彼女は遠方の親戚に預
けられた。
 手紙で近状を知らせてくるし、会いたくなったら転移魔法で、いつでも帰ってくることができるので何かあっても安心だ、それに家族仲はもともと良好なのでジュスティーナが寂しがることはなかった。
 それに彼女には優秀なロベルタという専属のメイドがついているのだ。
 
 
 「侯爵様、お手紙です」
 
 入ってきた執事の言葉に書類に向かっていた当主のアンダーソンは手を止めて受け取った。
 
 ジュスティーナ様からですと言われて男の顔がわずかに破顔する、手紙を受け取り、封を切ろうとしたが、執事を見るとどうした、出て行けと言わんばかりの顔になる、だが、が執事は、ふっと唇を緩ませた。
 
 「私にはないのでしょうか、お嬢様からの言づては」
 
 「いや、これは、父である私に」
 
 手紙を取り出し分厚い数枚の便せんを見る、お父様へと書かれた文字、だが、よく見ると二枚目からは執事のクレイブへと書かれている、自分には最初の一枚だけだ。
 
 実の父には便せん一枚、残りの分厚いのは全て執事って、どういうことなんだと思いつつ、アンダーソンは執事に渡した。
 
 「何が書いてあるんだ」
 
 「自室で読ませて頂きます」
 
 「いや、私は当主として知っておかねば」
 
 仕方ないですねと執事は読み始めた。
 
 メイドや奉公人達は元気ですか、都会の帝都の方では今、風邪に似た病気が流行っているので年寄り達は体調に気をつけて、今こちらでの流行の作物、流行のドレスや宝石、偽物が出回っているらしく、商人達が。
 
 「家人だけでなく、私どもの事を心配して、ご立派です」
 
 私の娘だからなとアンダーソンの鼻は高い、だが、執事は黙っていた。
 
 「長男のカイザー、次男のフェルナンド様の学校の事も気にしておられます、卒業できそうかと」
 
 「あ、あー、それは大丈夫だ」
 
 「旦那様、学校を辞めてもいいのでは、今から職人にでも何だってなれます」
 
 自分の息子が家督、家を継がせなければならない事に当主は固執していない、できるならジュスティーナに継がせたいと思っているのではないかとグレイブは思っていた、たが、それも数年前までのことだ。
 
 「他には何か」
 
 「ロベルタから、お嬢様の近状が」
 
 「そうか、どんなことが、なんと」
 
 「いえ、これは個人的書簡ですので」
 
 たとえ旦那様でもと言われて、アンダーソンはむっとなった。
 
 ティーナ、娘は父を軽んじているのではないか、執事のグレイブの方に手紙の量が多いとは寂しい限りだと、だが、そんな当主の思いなど執事は気づいてもいないそぶりで自室に戻った。
 
 
 手紙を読み終わった執事は自分の気持ちを落ち着かせようと水を飲んだ、ロベルタからの手紙はいつも通りだった、ジュスティーナお嬢様の近状、毎日、元気にしていると、だが、最後の一行にクレイブは目頭が熱くなった。
 
 「平民遊びに拍車がかかりました、今は乞食の恰好をして街を出歩いています」
 
 目眩がした、多分、彼女のことだ、生半可な変装ではない、本物の乞食そっくりの恰好で街を歩き回っているのだろう。
 そんな事をして役人や警察、ギルドの人間に捕まって正体がばれたらどうなるかと思ったが。
 私が護衛をしておりますという追記にほっとした。
 
 自由な家風というものが子供の教育にどんな影響を与えるのか、これは彼女の曾祖父達の影響だと思っていた、金のある、地位のある者は奢り高ぶってはいけない、力があるからといって慢心はいけない、困っている者がいれば助けてあげなさい。
 だが、ギブアンドテイクの精神は大切だ、報酬はきちんと受け取りなさい、沈黙は金、この言葉はフランヴァル家の人間なら、ゆめゆめ忘れるでない。
 貴族の娘だから媚びてきたり、お世辞を使って取り入ろうとする輩には注意しなさい。
 変装して街へ出歩き、人の本性を見ると面白いなどという遊びを教えたのは祖父らしい。
 最初はとんでもないと思っていた、だが、あの店は法律の目を盗んで、この店は、あそこの住人は病気で困っていると色々なことをジュスティーナは覚えて自分に忠告してきた。
 
 「今度、新しい店ができたでしょう、家に出入りするなら気をつけた方がいいと思うの」
 「あの通りに住んでいる住人の税って、おかしくない」
 「クレイブ、畑を作りたいの、野菜だけでなく、薬草を育ててみたいの、手伝ってくれる人を村から雇って」
 
 そんな事は家の召使いにやらせればと思ったが、村の人を雇って賃金を払いたい、家が出せないなら自分の小遣いから出してくれて構わないからといわれたときは驚いた。
 募集をかけると集まってきたのはスラムの子供、年寄り、怪我をしてまともに歩けない退役軍人もいた、働けない、だが食べなければ生きてはいけない、貧困にあえいでいる人間だ。
 
 子供が、いや、当主の祖父達の教育の賜だ、フランヴァル家は決して貧しくはない、だが、彼女が家督を継げば近隣の村など、暮らしはもっとよくなる筈だと思った時。
 
 
 「奇病といってもいいですな」
 
 「治るんでしょう、娘は妻の忘れ形見なんです、お願いです、先生」
 
 当主のアンダーソンの言葉に医者は首を振った、薬がない、治療法も分かっていないのだといわれて当主は彼女の療養の為と祖父が好きだった田舎町に彼女を住まわせることにした。
 
 「あちらでの生活はお嬢様にあっているのだ」
 
 クレイブはほっとした、平民遊びも元気になってきた証拠だ、乞食の恰好をしているということは。
 あちらは首都からの商人だけでなく、外国からの出入り、貴族も多いと聞く。
 ロベルタには警護を万全に、万が一、相手が貴族、高官、役人で忙殺、瞬殺でも後始末はこちらでする、もみ消しは任せろと伝えておかなくてはいけないな、だが、手紙はそれだけではなかった。
 
 
 
 「お嬢様、何かいいことがありましたか」
 
 十日ぶりの湯浴みでバスタブの湯は黒い、泥や靴墨などを体に塗りたくって、腕や足には本物にそっくりな傷跡まで作っている、調合した腐臭の香りも鼻が曲がりそうなくらいで、念には念を入れてと一週間も湯浴みをしていなかったので時々痒いと体をかきまくっているのも見ていて関心するほどだ。
 
 「うーん、さっぱりした、しばらくは、お休みするわ」
 「それがよろしいです、今回のは少し長かったですもの、旦那様に手紙を書かれますか」
 「三日前に書いたけど」
 「お嬢様が心配なのです、病気の事も心配しておられましたもの」
 「ロベルタ、新しい眼鏡、欲しくない」
 
 今ので十分ですわというと少女は首を振った、街で物乞いだと思われて金持ちの男が金貨をくれたのだという。
 
 「この金貨、よく見て」
 
 「見たところ、ですが」
 
 手のひらに置かれ、その重さにロベルタの目が細くなった、軽いのだ、金貨の重さではない、これを渡したのが貴族は乞食の娘なら騙せると思ったのだろうか、それとも本人も知らなかったのか。
 
 お城に泊まっている貴族なのと言われてロベルタは考えた。
 
 「クレイブに連絡を」
 
 「この街だけなら放っておいてもよくない」
 
 「そうですね、ですが」
 
 「ところで、お茶会とか出なくていいのかしら」
 
 まさか、そんな言葉が出てくるとは思わなかったとロベルタは驚いた。

 だが、顔には出さず尋ねた。

 「何かありましたか、ご心配な事でも、お話しください」

 「ロベルタは結婚はしたことあるのよね」

 はっ、今なんて、結婚、自分が結婚したのは、もう随分と前の屋敷に奉公していたときだ、まさかと思い、尋ねる、もしかして、いや、こんな時が来てもおかしくはないのだ、だが。

 「お嬢様、もしかして気になる方でも」

 返事はない、だが、大当たり、顔を見れば分かる、ビーンゴッ、ロベルタは自分の心臓に言い聞かせた、落ち着けと。

 (どうしたら、旦那様にお知らせ、いや、頼りにならないのは目に見えてる、ここはクレイブに)

 まさか、その男を(○せっ)なんてことはいわないだろうけど、でも、そうだ、まず、相手を確認しなければ。

 「名前は、どこにお住まいなのでしょうか」

 だが、首を振られて撃沈した。
 


貴族令嬢の恋は前途多難、メイドも周りも苦労する  

2021-03-07 08:44:11 | オリジナル小説

 ジュスティーナ・フランヴァル、貴族の家に三女として生まれたが、子供は自由に伸びやかに大らかに育てようという家風の為か、彼女は遠方の親戚に預けられた。
 手紙で近状を知らせてくるし、会いたくなったら転移魔法で、いつでも帰ってくることができるので何かあっても安心だ、それに家族仲はもともと良好なのでジュスティーナが寂しがることはなかった。
 それに彼女には優秀なロベルタという専属のメイドがついているのだ。
 
 
 「侯爵様、お手紙です」
 
 入ってきた執事の言葉に書類に向かっていた当主のアンダーソンは手を止めて受け取った。
 
 ジュスティーナ様からですと言われて男の顔がわずかに破顔する、手紙を受け取り、封を切ろうとしたが、執事を見るとどうした、出て行けと言わんばかりの顔になる、だが、が執事は、ふっと唇を緩ませた。
 
 「私にはないのでしょうか、お嬢様からの言づては」
 
 「いや、これは、父である私に」
 
 手紙を取り出し分厚い数枚の便せんを見る、お父様へと書かれた文字、だが、よく見ると二枚目からは執事のクレイブへと書かれている、自分には最初の一枚だけだ。
 
 実の父には便せん一枚、残りの分厚いのは全て執事って、どういうことなんだと思いつつ、アンダーソンは執事に渡した。
 
 「何が書いてあるんだ」
 
 「自室で読ませて頂きます」
 
 「いや、私は当主として知っておかねば」
 
 仕方ないですねと執事は読み始めた。
 
 メイドや奉公人達は元気ですか、都会の帝都の方では今、風邪に似た病気が流行っているので年寄り達は体調に気をつけて、今こちらでの流行の作物、流行のドレスや宝石、偽物が出回っているらしく、商人達が。
 
 「家人だけでなく、私どもの事を心配して、ご立派です」
 
 私の娘だからなとアンダーソンの鼻は高い、だが、執事は黙っていた。
 
 「長男のカイザー、次男のフェルナンド様の学校の事も気にしておられます、卒業できそうかと」
 
 「あ、あー、それは大丈夫だ」
 
 「旦那様、学校を辞めてもいいのでは、今から職人にでも何だってなれます」
 
 自分の息子が家督、家を継がせなければならない事に当主は固執していない、できるならジュスティーナに継がせたいと思っているのではないかとグレイブは思っていた、たが、それも数年前までのことだ。
 
 「他には何か」
 
 「ロベルタから、お嬢様の近状が」
 
 「そうか、どんなことが、なんと」
 
 「いえ、これは個人的書簡ですので」
 
 たとえ旦那様でもと言われて、アンダーソンはむっとなった。
 
 ティーナ、娘は父を軽んじているのではないか、執事のグレイブの方に手紙の量が多いとは寂しい限りだと、だが、そんな当主の思いなど執事は気づいてもいないそぶりで自室に戻った。
 
 
 手紙を読み終わった執事は自分の気持ちを落ち着かせようと水を飲んだ、ロベルタからの手紙はいつも通りだった、ジュスティーナお嬢様の近状、毎日、元気にしていると、だが、最後の一行にクレイブは目頭が熱くなった。
 
 「平民遊びに拍車がかかりました、今は乞食の恰好をして街を出歩いています」
 
 目眩がした、多分、彼女のことだ、生半可な変装ではない、本物の乞食そっくりの恰好で街を歩き回っているのだろう。
 そんな事をして役人や警察、ギルドの人間に捕まって正体がばれたらどうなるかと思ったが。
 私が護衛をしておりますという追記にほっとした。
 
 自由な家風というものが子供の教育にどんな影響を与えるのか、これは彼女の曾祖父達の影響だと思っていた、金のある、地位のある者は奢り高ぶってはいけない、力があるからといって慢心はいけない、困っている者がいれば助けてあげなさい。
 だが、ギブアンドテイクの精神は大切だ、報酬はきちんと受け取りなさい、沈黙は金、この言葉はフランヴァル家の人間なら、ゆめゆめ忘れるでない。
 貴族の娘だから媚びてきたり、お世辞を使って取り入ろうとする輩には注意しなさい。
 変装して街へ出歩き、人の本性を見ると面白いなどという遊びを教えたのは祖父らしい。
 最初はとんでもないと思っていた、だが、あの店は法律の目を盗んで、この店は、あそこの住人は病気で困っていると色々なことをジュスティーナは覚えて自分に忠告してきた。
 
 「今度、新しい店ができたでしょう、家に出入りするなら気をつけた方がいいと思うの」
 「あの通りに住んでいる住人の税って、おかしくない」
 「クレイブ、畑を作りたいの、野菜だけでなく、薬草を育ててみたいの、手伝ってくれる人を村から雇って」
 
 そんな事は家の召使いにやらせればと思ったが、村の人を雇って賃金を払いたい、家が出せないなら自分の小遣いから出してくれて構わないからといわれたときは驚いた。
 募集をかけると集まってきたのはスラムの子供、年寄り、怪我をしてまともに歩けない退役軍人もいた、働けない、だが食べなければ生きてはいけない、貧困にあえいでいる人間だ。
 
 子供が、いや、当主の祖父達の教育の賜だ、フランヴァル家は決して貧しくはない、だが、彼女が家督を継げば近隣の村など、暮らしはもっとよくなる筈だと思った時。
 
 
 「奇病といってもいいですな」
 
 「治るんでしょう、娘は妻の忘れ形見なんです、お願いです、先生」
 
 当主のアンダーソンの言葉に医者は首を振った、薬がない、治療法も分かっていないのだといわれて当主は彼女の療養の為と祖父が好きだった田舎町に彼女を住まわせることにした。
 
 「あちらでの生活はお嬢様にあっているのだ」
 
 クレイブはほっとした、平民遊びも元気になってきた証拠だ、乞食の恰好をしているということは。
 あちらは首都からの商人だけでなく、外国からの出入り、貴族も多いと聞く。
 ロベルタには警護を万全に、万が一、相手が貴族、高官、役人で忙殺、瞬殺でも後始末はこちらでする、もみ消しは任せろと伝えておかなくてはいけないな、だが、手紙はそれだけではなかった。
 
 
 
 「お嬢様、何かいいことがありましたか」
 
 十日ぶりの湯浴みでバスタブの湯は黒い、泥や靴墨などを体に塗りたくって、腕や足には本物にそっくりな傷跡まで作っている、調合した腐臭の香りも鼻が曲がりそうなくらいで、念には念を入れてと一週間も湯浴みをしていなかったので時々痒いと体をかきまくっているのも見ていて関心するほどだ。
 
 「うーん、さっぱりした、しばらくは、お休みするわ」
 「それがよろしいです、今回のは少し長かったですもの、旦那様に手紙を書かれますか」
 「三日前に書いたけど」
 「お嬢様が心配なのです、病気の事も心配しておられましたもの」
 「ロベルタ、新しい眼鏡、欲しくない」
 
 今ので十分ですわというと少女は首を振った、街で物乞いだと思われて金持ちの男が金貨をくれたのだという。
 
 「この金貨、よく見て」
 
 「見たところ、ですが」
 
 手のひらに置かれ、その重さにロベルタの目が細くなった、軽いのだ、金貨の重さではない、これを渡したのが貴族は乞食の娘なら騙せると思ったのだろうか、それとも本人も知らなかったのか。
 
 お城に泊まっている貴族なのと言われてロベルタは考えた。
 
 「クレイブに連絡を」
 
 「この街だけなら放っておいてもよくない」
 
 「そうですね、ですが」
 
 「ところで、お茶会とか出なくていいのかしら」
 
 まさか、そんな言葉が出てくるとは思わなかったとロベルタは驚いた。

 だが、顔には出さず尋ねた。

 「何かありましたか、ご心配な事でも、お話しください」

 「ロベルタは結婚はしたことあるのよね」

 はっ、今なんて、結婚、自分が結婚したのは、もう随分と前の屋敷に奉公していたときだ、まさかと思い、尋ねる、もしかして、いや、こんな時が来てもおかしくはないのだ、だが。

 「お嬢様、もしかして気になる方でも」

 返事はない、だが、大当たり、顔を見れば分かる、ビーンゴッ、ロベルタは自分の心臓に言い聞かせた、落ち着けと。

 (どうしたら、旦那様にお知らせ、いや、頼りにならないのは目に見えてる、ここはクレイブに)

 まさか、その男を(○せっ)なんてことはいわないだろうけど、でも、そうだ、まず、相手を確認しなければ。

 「名前は、どこにお住まいなのでしょうか」

 だが、首を振られて撃沈した。