ワインバーでのひととき

フィクションのワインのテイスティング対決のストーリーとワインバーでの女性ソムリエとの会話の楽しいワイン実用書

あべのハルカズBAR 173ページ目  八鬼山の山神現れる

2014-11-10 13:22:41 | あべのハルカズBAR1 四話 完
【173ページ】


 晴数は、リュックから純米酒那智の滝500mlとさんま寿司と那智の滝の水と

ビスケットと紙コップと紙皿を取り出した。

紙コップに、那智の滝の水を注ぐと、山椿姫の前に置き、紙皿に、ビスケットを

入れると、ハルの前に置いた。

そして、自分用に、紙コップに那智の滝を注いだ。


尾崎酒造 純米酒 那智の滝500ml
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尾崎酒造




 晴数は、酒を飲みながら、一時間待った。

すると、寝そべっていたハルの耳がピクっと動いた。

晴数は、安心感を与えるために、ハルの頭と背中を撫ぜる。


 黒い影が、シートの周りに集まって来た。

その黒い影は、八つの塊に分かれて、少しづつ形が出来上がっていく。

ハルが、ウーと唸り声をあげる。

八つの塊は、トラのような大きさのオオカミになった。

その中で一番大きいオオカミが、晴数に怒鳴りつける。


「龍神が、八鬼山に何し来た!」

「いえ、私は龍神ではありません。」

「お前は誰だ!」

「龍神様に一度助けられたことがある者です。」

「ならば、結界を張るとは、村の祈祷師か?」

「そのような者です。」

「お前は、何をしに来たのだ?」

あべのハルカズBAR 172ページ目  猟銃の連射の音に逃げる

2014-11-09 16:21:28 | あべのハルカズBAR1 四話 完
【172ページ】



 多数の犬の声に驚いて、熊の動きが止まった。

晴数は、拡声器をハルの口から自分の口へ移動し、

猟銃の撃った音を真似て「バーン」と言った。

すると、その音は複製され、「バーン」、「バーン」、「バーン」、

バーン」、「バーン」と何発も熊を狙い撃った。

驚いた熊は、くるりを向きを変え、逃げ出す。


「それ、追いかけろ!」と晴数が発すると、「それ、追いかけろ!」、

「それ、追いかけろ!」、「それ、追いかけろ!」、「それ、追いかけろ!」、

「それ、追いかけろ!」と大勢の猟師が叫んでいるようであった。


 晴数と山椿姫とハルは熊を追いかける。

熊が、一目散に逃げ去ったところで、晴数達は、熊を追っ払うのを止めた。


「よし、よし、よくやった!」


 晴数は、紀州犬のハルの頭と背中をやさしく撫ぜた。

ハルは、晴数に褒められたのがうれしそうに尻尾を振る。


 最後のひと登りを終えると、広場に着いた。

広場の中央で、晴数は、リュックからシートを取出し地面に敷く。

そして、シートの四隅に杭を打ち、呪文を唱え、八鬼から身を守る結界を張った。

シートの前に、紙を敷くと、地酒の熊野古道と熊野三山とこけら寿司10人前を置いた。


「さあ、準備は終わった! あとは座って、待つだけだ。」


晴数は、山椿姫とハルに語りかけながら、シートの中央に座った。

あべのハルカズBAR 171ページ目  あれは人を襲ったことがある熊

2014-11-07 20:02:20 | あべのハルカズBAR1 四話 完
【171ページ】



 熊の性格は、臆病、慎重、神経質である。人に出会うと逃走することが

多いが、極まると襲撃することもある。

晴数は、リュックから鈴を取出し、リュックにくくりつけ、チリンチリンと音を

たてながら歩き出す。

熊との距離が100mまで縮まったが、逃げようとしない。


「あの熊は、人も犬もを恐れない!そして鈴の音にも反応しない。

あれは、人を襲ったことのある熊に違いない。」


 熊は、逃げないで、ゆっくり、山道を降りてくる。

晴数の隣にいるハルは、「ワン、ワン」と吠えて威嚇する。


「それでは、とっておきの武器を使用するとするか」


 晴数は、リュックから、携帯用の拡声器を取り出す。

これは、小型ながら高性能の拡声器だ。


TOA ハンズフリー拡声器 白系色 ER-1000PK
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※この拡声器は、晴数の使った拡声器のイメージで貼り付けているだけで、

複製機能はありません。音声到達距離は80mあります。



音量を大きくできることはもちろん、特殊機能として、音声連続複製が

できるのだ。


 晴数達は、山道を登って行く。

熊は、ハルの鳴き声にも恐れず、山道を降りて来て、熊との距離が

50mになった。

ここで、晴数は拡声器のスイッチをオンにして、ハルの口にあてる。

「ワン、ワン」と吠えている声が「ワン、ワン」、「ワン、ワン」、「ワン、ワン」

「ワン、ワン」、「ワン、ワン」と複製され、大音量で発せられた。




あべのハルカズBAR 170ページ目  江戸道を選択

2014-11-07 15:15:44 | あべのハルカズBAR1 四話 完
【170ページ】



 紀州犬は、晴数の数歩手前で止まる。

晴数は、右手の平を地面に向けて、「伏せ」と命じながら

下に振り下ろした。

紀州犬は、命じられるままに地面に伏せをする。


「よし、ハルはかしこい子だ!」


 晴数は、やさしく呼びかけながら、紀州犬に近づき、横に座って、

やさしく頭と体を撫でた。

紀州犬は、褒められた喜びを尻尾を振って表す。

晴数の紀州犬を撫でる手は、犬の背中から脇腹に移って行く。

それにともなって、ハルは体を横向きにし、ついに腹を上向きに見せ、

晴数が腹を撫でることを許した。

ハルは、晴数をボスと認めた印であった。

晴数は、リュックからロープを取出し、ハルの首輪に繋いだ。


 その後、晴数と山椿姫とハルは、籠立場から山道を170m登り、江戸道と

明治道の分かれに着いた。

彼らは江戸道を選択したが、ここからが槍かたげの急坂であった。

けわしい山道を登って行くと、ハルが突然「ウー、ウー」と唸りだした。

晴数は、ハルの背中をトントンと叩き、落ち着かせる。

そして、懐中電灯の光で、50m、100、150m先へと照らしていく。


「おっ、熊が道を塞いでいるようだ!」



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あべのハルカズBAR 169ページ目  紀州犬が現れる

2014-11-06 15:09:11 | あべのハルカズBAR1 四話 完
【169ページ】



 晴数が、うなり声の方に振り向くと、草むらから犬が出てきた。

「2、3歳ぐらいの若い紀州犬かな?」


カプセルQ ミュージアム 日本のペット動物大全 第一集 【1.紀州犬[白]】(単品)
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 晴数は呟く。


「首輪をしているから、飼い主に捨てられたか?

子犬の時は、かわいいと飼うが、大きくなると持て余し捨てる飼い主がいる。」


「ウー、ウー」と晴数を睨んでうなっている。


「犬は、猫やイノシシと比べて扱い易い。

ボスがどちらか、判らせればいいだけだ!

元飼い犬ならさらに扱い易いだろう。

ハルと名付け、家に連れて帰るとするか。」


 晴数は、紀州犬に向かってハルと叫んだ。

その犬はピクリと耳を動かす。


「ハル! ハルがお前の名前だ!

ハル、こっちにおいで!」

紀州犬は、警戒しながらも一歩、二歩と近づく。


「ハル、さあもっとこっちへ!」


晴数のやさしい言葉に、紀州犬は、さらに三歩、四歩と近づいてくる。


「よし、よし、もっと来い」


紀州犬は、警戒心を少しづつ解きながら晴数に近づいた。


「ストップ!」


晴数は、右手で止まれの合図をしながら、大きな声で命令した。