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吹く風ネット

会社顛末記(前編)

1,
 ぼくが最初に就職したのは、創業したばかりの量販店で、まだ営業も開始してなかった。

 同期の人間はみな「新しい会社を自分たちの手で作るんだ」という意気込みがあり、仕事に対する情熱を持っていた。
 朝早く出ようが、帰りが午前を超えようが、そういうことは一向に苦にしなかった。いや、苦にしないどころか、逆にそういうことを自慢していたくらいだ。

 また、収益が出てないため所得もかなり低かったのだが、これも我慢できた。
「今に人並み以上の収入を得られるようになる」
 と、みな一様に、会社の将来を期待していたのだった。

 当時の社員の平均年齢は23,5歳、個性派揃いでいつも社内はいつもにぎやかだった。人間関係もさほど悪くはなかった。

2,
 ところが、1年経ち2年経っていくうちに、だんだん状況が変わっていった。いつまで経っても収入は上がらない。それが会社不信に繋がっていく。創業当初、いっしょに汗を流した仲間が一人減り二人減りしていった。

 気がつけば、百数十人いた社員は半減していた。会社にとっては、それはふるいにかけたということになり、プラスの要素だった。しかし、戦力ダウンは、当然売り上げに響いてくる。不採算部門は次々と閉鎖、それがまた会社の魅力を損なうことになった。

 その後、さらに社員数は減り、往時の3分の1の人員になった。こうなると一人あたりの責任が重くなってくる。個人単位での数字の追求が始まる。
 いつしか会社は、「成績の悪い者は、自分で買え!」「売る気のない人は、辞めてもらってけっこうだ」といった言葉を、普通に口にするようになった。
 トップの威を借りた卑怯な上司は、かばうことをせずに、逆に口汚く部下を罵る。会社の雰囲気は最悪なものとなった。

3,
 その状態に、さらに追い打ちをかけたのが、管理である。初代のトップは、売上げ以外のことに関しては一切文句を言わなかった。だから社員は、売上げの確保さえして入ればよかったのだ。

 ところが二代目は違った。それまで『是』とされていたものが、すべて『非』とされるようになったのだ。その人は管理畑出身の人で、売上げよりも『収益』『売掛』『在庫』といった管理面を重視するタイプの人間だった。そういうことに関しては実に細かかった。そのために専門の調査員を雇ったりもした。

 売り上げがよかったらよかったで「裏で何かやっているんじゃないか」と穿さくするし、何か問題を起こせば全体朝礼の場で「悪人」呼ばわりするしで、社員はいつも戦々兢々としていた。


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