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吹く風ネット

会社顛末記(後編)

4,
 ぼくの飲み友だちに、Kさんという人がいた。その人は初代の時に、どの社員よりいい評価を受けていた。トップは何かにつけ「Kちゃん、Kちゃん」で、彼が何か問題を起こしても、すべて不問にしていた。

 ところが、二代目に変わってから、Kさんの評価は最悪のものになった。Kさんはある部門の責任者をしていたのだが、二代目はそれを認めず、Kさんより年下の人間を、Kさんの上に据えた。ここからKさんの転落が始まる。

 Kさんは酒に溺れるようになり、いつも人事不省になるまで飲み続けていた。ぼくも時々一緒に飲みに行ったりしたが、その荒れ方はひどかった。気がつけば刃物を手にしていた、ということもしばしばあったようだ。その後、会社から禁酒令を出されたKさんは、それを不服として会社を辞めてしまった。

5,
 徐々に牙を抜かれていく個性派集団。その中には、自分かわいさに寝返る人間もいた。以前は口を開くたびに会社の悪口を言っていた人間が、ある日突然トップのポチとなっていた。

 親会社の社長の息子が開発したという、何の役にも立たない商品があった。当然売れ行きが悪い。そこで、「その商品をどう売っていくか」ということで会議が行われた。会議中、突然その男が手を挙げた。そして、「私に任せてください。責任を持って売りますので」と言った。トップはその意気を買い、その男にすべてを任せた。

 それをお客さんに売るのなら、別にどうということはなかった。
 ところがである。功を焦った彼は、何とその商品と契約書を持って店内を回り、社員一人一人に「会社のためやけ」と言って、無理矢理商品を売りつけようとしたのだ。

 みんなは唖然とした。それもそのはず、前の日までさんざん会社の悪口を言ってきた人間なのである。同期の者は、『何が会社のためだ。おまえからそんな言葉を聞きたくない』と思って、ほとんどが買わなかった。が、事情を知らない後輩たちは、泣く泣く買わされていたようだ。

6,
 その後、不正を強要するトップが現れたり、人を叩いて使うような前近代的なトップが現れたりした。そのつど個性派集団は、牙を抜かれていく。誰もしゃべらなくなった。そして、笑わなくなった。もはやヤル気を失っていたのだ。
 そして五代目トップの時に、同期社員10数人が辞めた。その中にぼくもいた。みな会社に望みをなくしてしまったのだった。

7,
 その翌年、社員はみな親会社に籍を移した。もはや、名前だけの会社になってしまったのだ。

 そしてその6年後、創業してから19年後、その会社は終焉の時を迎えることになる。かつては百数十人いた同期社員は、すでに8人しか残っていなかったという。ちなみに、そのうちの二人はポチである。

 さて、何がこの会社を潰したかだが、いろいろ経営的な問題があったかもしれない。が、その背景には、経営陣と社員の間がしっくりいってなかった、ということがある。
 創業から潰れるまで、トップは7人いた。一癖も二癖もある人間ばかりだった。
つまり個性(トップ)と個性(社員)のぶつかり合いが、悪い方向に進んだのだ。


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