20年前の話だ。
当時ぼくは、ある商社のホームセンター部門に勤めていたのだが、そこにはキーコーナーがあった。
ある日、売場に立っていると、キーコーナーのパートさんから、すぐに来てほしいという連絡が入った。
「どうしたんだろう?」と思い、その売場に行ってみると、パートさんが困った顔をしてぼくのところに寄ってきた。
「どうしたと?」
「お客さんが、エンジンをかけようとしてキーを回した時に、キーが根元から折れたらしいんです」
「えっ、折れた?」
「はい」
「で、エンジンはかかったと?」
「いいえ。運転できないで困っているらしいんです」
「そりゃそうやろね」
ぼくは、車のことはまったくと言っていいほど疎いので、そういう場合どこに連絡していいのかもわからない。そこで、車に詳しい人に助けを求めた。ところが、その人も鍵のほうは知らないという。
「どうしようか?」と迷ったあげく、ぼくは知り合いの修理屋さんに電話をかけた。
「・・・、ということなんですよ」
「それは困ったねえ」
「誰かいい鍵屋さん知りませんか?」
「うちが取引している鍵屋さんがあるけ、そちらに頼んでみようかね」
「お願いします」
ということで、鍵屋さんに来てもらうことになった。
20分ほどして鍵屋さんはやって来た。
事情を話した後、失礼にも「取り出せるんですか?」と聞いてみた。
鍵屋さんは笑って、「まあ、やってみらんとわからんです」と言った。その表情には、余裕が漂っていた。
鍵穴に鍵を突っ込んで、その根元が折れたとあっては、もうどうしようもないだろう。ぼくの常識では、そういうものを直すということは不可能である。シリンダを割って取り出すしか、方法はないじゃないか。
もしそれで取り出せたとしても、もうそのシリンダは使い物にならないだろう。
「ということは、鍵ごと交換するしかないか。これは高くつくぞ」
ところがである。それからしばらくして、鍵屋さんは戻ってきた。
「やっぱり出来なかったんかなあ」などと思っていると、「はい」と何かをぼくに手渡した。
見てみると、何と、折れたキーの根元とその先の部分ではないか。
「ええっ!? 取れたんですか?」
「ちょっと難航したけど、何とか」
「おおーっ」
ぼくは息を呑んだ。
「凄いですねえ」
「ははは…」
鍵屋さんはこともなげに笑って、帰って行った。
当時ぼくは、ある商社のホームセンター部門に勤めていたのだが、そこにはキーコーナーがあった。
ある日、売場に立っていると、キーコーナーのパートさんから、すぐに来てほしいという連絡が入った。
「どうしたんだろう?」と思い、その売場に行ってみると、パートさんが困った顔をしてぼくのところに寄ってきた。
「どうしたと?」
「お客さんが、エンジンをかけようとしてキーを回した時に、キーが根元から折れたらしいんです」
「えっ、折れた?」
「はい」
「で、エンジンはかかったと?」
「いいえ。運転できないで困っているらしいんです」
「そりゃそうやろね」
ぼくは、車のことはまったくと言っていいほど疎いので、そういう場合どこに連絡していいのかもわからない。そこで、車に詳しい人に助けを求めた。ところが、その人も鍵のほうは知らないという。
「どうしようか?」と迷ったあげく、ぼくは知り合いの修理屋さんに電話をかけた。
「・・・、ということなんですよ」
「それは困ったねえ」
「誰かいい鍵屋さん知りませんか?」
「うちが取引している鍵屋さんがあるけ、そちらに頼んでみようかね」
「お願いします」
ということで、鍵屋さんに来てもらうことになった。
20分ほどして鍵屋さんはやって来た。
事情を話した後、失礼にも「取り出せるんですか?」と聞いてみた。
鍵屋さんは笑って、「まあ、やってみらんとわからんです」と言った。その表情には、余裕が漂っていた。
鍵穴に鍵を突っ込んで、その根元が折れたとあっては、もうどうしようもないだろう。ぼくの常識では、そういうものを直すということは不可能である。シリンダを割って取り出すしか、方法はないじゃないか。
もしそれで取り出せたとしても、もうそのシリンダは使い物にならないだろう。
「ということは、鍵ごと交換するしかないか。これは高くつくぞ」
ところがである。それからしばらくして、鍵屋さんは戻ってきた。
「やっぱり出来なかったんかなあ」などと思っていると、「はい」と何かをぼくに手渡した。
見てみると、何と、折れたキーの根元とその先の部分ではないか。
「ええっ!? 取れたんですか?」
「ちょっと難航したけど、何とか」
「おおーっ」
ぼくは息を呑んだ。
「凄いですねえ」
「ははは…」
鍵屋さんはこともなげに笑って、帰って行った。