2014年衆院選の結果が指し示すもの
昨年の日本の政治・軍事の動きには大きな結節点があった。それは、12月総選挙での与党の圧勝・安倍政権の継続と集団的自衛権の行使容認、それにかかわる安全保障法体制の骨格が明らかになったことである。
与党の圧勝とは言うものの、自民党幹部自身が「地元で有権者に直接接触している実感と違う」という意見もある中で、ではなぜ与党が圧勝したのか。小選挙区制度が自民党に有利に働く面があることは、よく言われている通りである。また直接の要因に株高があげられる。都市圏でも圧勝の根拠に、有権者の2割が株を保有しておりアベノミクスで株価が7割上昇したと言われる。
日経の公示直前の世論調査(12・2~3、日経と読売)によると自民党が300議席の勢い与党で3分の2(317)維持の可能性、野党では日共が公示前(8)の倍増の勢いで、他は伸び悩みとある。アベノミクスの負の影響(急激な円安や実質賃金低下)を訴える戦略が奏功していないという。内閣支持率は42%(マイナス2ポイント)、自民党支持率43%(8ポイント上昇)でこの議席なのだ。支持政党なしが13%。この調査はほぼ当たっている。
外交に関する世論調査(12・20、内閣府)で「親しみを感じない」が中国に83・1%、韓国に86・4%に上昇。中韓への安倍外交の国家主義的やり方とマスコミの排外主義宣伝などに影響されている。米国への親近感は82・6%である。
総選挙後の世論調査(12・26)では第3次安倍内閣を支持するは51%、衆院選告示直後より9ポイント下がった。アベノミクスで景気は良くなるとは思わないが53%。憲法改正に前向きな首相の姿勢を評価する41%、評価しない44%。集団的自衛権に関する法整備に賛成34%、反対48%、消費税率10%引き上げに賛成43%、反対49%。原発再稼動を進めるべき33%、進めるべきでない55%。憲法改正葉44対41、集団的自衛権の法整備は48対34、原発再稼動は55対22、アベノミクスは53対29でいずれも反対が多い。
また投票率52・66%、60代が6・04%減少(比13年参院選)であり、中高年の棄権が増加している(コラム「風見鶏」、12月21日)。
上記のような数字は表層的なものであるが、それでも安倍政権の圧勝という実体が実際には脆弱なものでしかないことがよく示されている。選挙戦渦中で書いた私の考えが間違ってはいなかったことが確認できる。日本の労働者人民は自公を打倒した時の受け皿となる党をもっていないという問題に苦しんでいる。そのため真の対決構造が表面に出ずに争点が隠されてしまうのである。下記にそれを掲げておく。
2015年1月16日
博多のアイアン・バタフライ
……………………………………………………………………………………………
衆院選での自公との対決へ(2014年12月4日 記)
(1)解散・総選挙をめぐって
12月4日現在、総選挙の真っ只中にある(12月2日公示、14日投開票)。
安倍政権は総選挙で「15年10月における10%消費増税の延期への国民の判断を仰ぐ」として、「アベノミクスの成否を問う」と記者会見で大見得を切った。しかし、消費増税先送りは法律改正が必要だが、日銀追加金融緩和と株高・円安局面では今の時点での国債暴落は回避できると踏んでおり、おそらく消費増税延期で反対は考えられず、安倍の言う「国民に信を問う」論は説得力がない。安倍政権の狙いは議席の減少を最小限に減らし過半数を維持することで、安倍政権が信任されたとして、集団的自衛権行使・原発再稼動・憲法改正を強行する狙いがある。これが衆院選の真の対立点であり、それが隠されているのである。
それに対しては、集団的自衛権や原発再稼動、憲法改正問題などの隠された争点を表に出すことがカギになる。集団的自衛権(具体的には沖縄新基地建設、沖縄の戦場化)・原発再稼動・憲法改正・アベノミクスへの批判を押し出し、安倍政権の姑息なやり方への批判を強めることが求められる。アベノミクス批判は消費増税延期での長期金利高騰などの危機を指摘するだけではなく、希望を持てる対案として自民党政治への怒りと若者が働くことができ、結婚して将来展望を見通せる社会への変革を語ることだろう。
日経は、消費再増税延期がクレジット・デフォルト・スワップ市場(信用リスクの移転を目的とするデリバティブ取引)で日本国債に対する信認が低下し、長期金利の意図しない急上昇リスクがありうるとして、消費再増税延期に反対している。一方で「リーマンショックのような深刻な事態が起きないための再増税延期は妥当である(反面、アベノミクスの継続はリーマンショックの再来となるという含意だが)」とも言っている。
日経は安倍にイラついてもいる。政治とカネの古くて新しい腐敗構造をもつ自民党政治の自壊や成長戦略に全く展望がないことは資本主義社会の生命力のなさの反映でもあるにもかかわらず、日経はイラついている。
かつて1930年代に共産主義運動(実はスターリン主義なのだが)とその組織を暴力的に壊滅させることで労働者階級の階級的背骨を叩きおり、世界経済の行き詰まりをブロック化と排外主義と侵略戦争に労働者人民を動員することで資本家階級の支持をえたのがヒットラーであった。ヒットラーは合法的に選挙で政権を獲得しその道を突き進んだ。
今、安倍政権は、国家権力や破防法などの治安法で叩き潰すべき革命的左翼は自壊・分散していると認識している。集団的自衛権の解釈変更の閣議決定と原発再稼動などで右からの国家改造を強行しようとしている。しかも総選挙という合法的手段をとったかたちでそれを強行しようとしている。日経などマスコミはそれを後押ししている。
街頭でのデモが何波も重ねられているだけでなく、世論調査でもアベノミクスや増税延期にも反対の声が大きい。世論調査では原発再稼動も集団的自衛権行使で戦争のできる国への転換にもまだ半数以上の労働者人民が反対している。にもかかわらず議会内野党の無力さは著しく、おそらく過半数を大きく下回る得票率でしかないと思われ、過半数以上の議席を占める小選挙区制で安倍政権が勝利しかねいない危機でもある。本物の前衛党不在を嘆くよりもまず、安倍政権・自公の総選挙での過半数獲得をとめなければならない。
集団的自衛権行使容認の問題では、自民党の政権公約には「集団的自衛権」という言葉が一言もない。それに対して、具体的に日本政府が中国との戦争を準備しているという現実と、「反テロ」と称して世界の被抑圧民族の解放闘争を叩き潰すために軍事力を強化している現実の暴露が必要である。
アベノミクスの最大の弱点は、一方では異次元金融緩和での国家財政破綻であり、いま一方ではできもしない賃上げ・消費拡大にある。また何よりも沖縄の自己決定権を叩き潰し辺野古新基地を押し付けようとしていること、福島第1原発の現状を棚上げした「安全」宣言で原発再稼動に向かっていることなどを鋭く暴露していくことだ。
日経がコラム「風見鶏」で1920年代のドイツのハイパー・インフレによって生活が崩壊し、ナチスが登場した歴史を教訓にして、税収が支出の4割でしかない現状は消費税を35%まで上げなければ「ジャパン・クライシス」が起こると警告している。また安倍があっさりと増税延期し、それまでの論議を解散という「伝家の宝刀」で一気に覆したことを批判し、このまま増税延期すればハイパー・インフレで極端なナショナリズムを掲げるナチスのような政治勢力が登場すると警告している(政治部次長・高橋哲史署名)。
もちろん日経が左傾化したのではない。日本社会のあり方への大衆の不安が充満しているということである。その論は正しい、ただし一箇所を除いて。それは安倍のやり方そのものが新しいナショナリズム、異民族蔑視を掲げた政治勢力、つまりナチス型の極右であることを見ようとしていないことだ。
今度は、サッチャーとナポレオンに安倍晋三をたとえ(11・24付「核心」)、フォークランド戦争に勝利し支持率上昇と新自由主義に突っ走ったサッチャーになれ、と激励している。が、やっぱり不安におびえている。それはアベノミクスが日銀・黒田の超金融緩和だけが頼りだからだ。このまま行けば破綻は目に見えている。超金融緩和の出口論だ。長期金利が米国並みの2・5%になれば国債利払費は8年後に14兆円、消費税5%分に相当する。田中角栄の金融緩和で1974年のCPI(消費者物価指数)は23%に上昇した。ハイパーインフレだ。日銀が国債金利上昇を抑えるために更なる緩和を迫られ、それは現実になる。08年世界恐慌では株価だけが下落した。今度は円と債券の日本売り・暴落が起こるだろう。安倍の弱点は日銀の金融緩和である。
日経新聞とテレビ東京の世論調査(11・21~23)では次のような数字が出ている。①投票先は自民党35%( 前回25%)、民主党9%(前回16%)、維新・公明・共産党3%(前回3%)、決めていない等45%。②アベノミクスを評価しない51%、評価する33%。実感していない75%、実感している16%。期待しない49%、期待する41%。③消費税先送りに賛成51%、反対36%。④内閣支持率44%(-4ポイント)。⑤原発再稼動に賛成33%、反対54%。
景気の回復を期待していない人が7割で、アベノミクスを評価しないが5割。この数字が示すように、人々の景気とアベノミクスへの不安は大きい。円安・株高宣伝に惑わされてはいるが……。原発再稼動に反対が5割を超えており、内閣支持率も5割をきった。
しかし、取って代わる政党がいない。この根底には革命党の不在と闘いの弱さがある。可能なところでは対自公の共闘陣形をつくり出すように努力していこう。今日的な日本―沖縄関係、日米安保の沖縄差別構造という中で怒りを集中して形成されている「オール沖縄」のような反自民の共同戦線形成は、本土ではそのまま再現できることではない。しかし、自民党安倍政権打倒へどのように闘うのかをもっと模索することがなければならない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/19/63/f2bf7519d298a98bd36fb2d94b612f93.jpg)
(2)日米同盟について
「第二次安倍改造内閣と日米同盟の新展開」と題して10月30日に日本経済新聞社・CSIS米戦略国際問題研究所の共催でシンポジウムが行われた。
講演したミシェル・フロノイ元国防次官はリバランス政策を成功させることが今後50年の米国の繁栄と安全保障で重要だとして、①日本との同盟や防衛協力を強化し、同時に中国が紛争を起こした場合に「現実的代償」を示す条件付で中国との協力関係が必要、②経済面では自由貿易を掲げたTPPの推進と、軍事面では21世紀に見合った安全保障として予算を絞った将来への軍事力の投資と同盟国への配慮を主張した。当面するリスクとして「イスラム国」・ロシア・エボラ出血熱を挙げているが、「強い決意」しか有効策はないことを認めている。オバマのリバランス政策が日米同盟の強化と同じ比重をかけた中国との協力、それもいざというときの軍事的打撃を条件に推し進めるという。リバランスにおいて日中への同じ体重をかけるというオバマの考え方に、安倍は賛同していない。それを承知で、フロノイ元国防次官は安倍政権に米国主導でのリバランスの推進を求めている。フロノイが自認するように、当面する3大リスクに対しては何の具体策もない。
参加者は米国がリチャード・アーミテージ元米国務長官、カート・キャンベル前米国務次官補、ミシェル・フロノイ元米国防次官、マイケル・グリーン米CSIS上級副所長、ジョン・ハムレ米CSIS所長、ジョセフ・ナイハーバード大特別功労教授、ジェームス・スタインバーグ前米国務副長官、日本から菅儀偉官房長官、小野寺五典前防衛相、北岡伸一国際大学学長。
参加者の顔ぶれは民主・共和の垣根を越えた米国の安全保障政策に影響力をもつ人物たちとの触れ込みを出し、その実績もある。オバマ政権の安保防衛策と米国支配者階級の意思を知る材料になる。日本の参加者は安倍・集団的自衛権行使容認の3悪人である。
「日米同盟を取りまく課題」としての議論で、①安倍政権の集団的自衛権行使容認では、「自分の運命を自分で決める」(アーミテイジ)、「軍国主義への回帰ではなく責任を果たす普通の国」(ナイ)と支持し、前回半年前の講演会であった米国の主導権の強調などはない。②日韓関係についてはナイが「河野談話の蒸し返しや靖国神社大臣参拝は1930年代の日本を髣髴とさせるイメージ」と安倍バッシングのチャンスを与えるとして批判し、アーミテイジは「(歴史問題を)もう過去の問題にしたいのも無理はない」と安倍に蒸し返すな、過去の問題でいいじゃないかと詰め寄っている。③対中関係ではナイが米国はウクライナでは軍事行動を取らなかったが、「尖閣」(釣魚台)では抑止力があることを強調、対ロでの冷戦状態は対中では避けるべきと言っている。明らかに対ロと対中を使い分けている。歴史認識に関しては、安倍の主張は第2次世界大戦で米国が血を流して勝ち取った世界秩序への挑戦は許さない、として批判している。
パネル討論では、北岡が対中脅威をあおり、防衛力の強化を叫ぶことに対して、「国際社会で大きな役割を果たせるように中国への支援」(グリーン)、「北朝鮮問題に積極的に取り組むように圧力」(キャンベル)と主張している。小野寺が「北朝鮮問題を中国任せにするな」と批判、グリーンが対ロシアでの日米外交の隔たりを指摘し、北岡はオバマの対ロ強硬姿勢を批判している。
全体として、対中国で安倍のような脅威論一辺倒ではなく、米国のコントロールの下での中国の大国の役割を支援するとし、それを外れたウクライナ的問題では「現実的代償」を強調している。21世紀は財政問題のみならず、かつての米国の復活の困難さを「強い決意」の強調で乗り切るとしている。米国のこの現実的な力の喪失と現実とのギャップに凶暴さが出てくる。
米国のスタンスの基調は、安倍の集団的自衛権行使容認を積極的に容認・支援しているが、北岡的(安倍的)な対中脅威強調と対ロ独自外交には不安を持っていると言える。
その一方で、在日米軍基地内での環境調査の新ルール作りがされた(11・2)。沖縄米軍基地の返還に向けて、米軍の運用に支障がないことを条件に基地返還3年前から自治体の土壌検査などでの立ち入りを認め、軍事機密にかかわる場所は半年程度前からとする。但し、基地内の環境対策や汚水漏出防止装置などの施設建設費用は一定の目安は設けるものの日本が負担するという。
結局は米軍軍事機密を理由に環境汚染調査さえも制限するというものだ。
2014年12月4日
博多のアイアン・バタフライ
昨年の日本の政治・軍事の動きには大きな結節点があった。それは、12月総選挙での与党の圧勝・安倍政権の継続と集団的自衛権の行使容認、それにかかわる安全保障法体制の骨格が明らかになったことである。
与党の圧勝とは言うものの、自民党幹部自身が「地元で有権者に直接接触している実感と違う」という意見もある中で、ではなぜ与党が圧勝したのか。小選挙区制度が自民党に有利に働く面があることは、よく言われている通りである。また直接の要因に株高があげられる。都市圏でも圧勝の根拠に、有権者の2割が株を保有しておりアベノミクスで株価が7割上昇したと言われる。
日経の公示直前の世論調査(12・2~3、日経と読売)によると自民党が300議席の勢い与党で3分の2(317)維持の可能性、野党では日共が公示前(8)の倍増の勢いで、他は伸び悩みとある。アベノミクスの負の影響(急激な円安や実質賃金低下)を訴える戦略が奏功していないという。内閣支持率は42%(マイナス2ポイント)、自民党支持率43%(8ポイント上昇)でこの議席なのだ。支持政党なしが13%。この調査はほぼ当たっている。
外交に関する世論調査(12・20、内閣府)で「親しみを感じない」が中国に83・1%、韓国に86・4%に上昇。中韓への安倍外交の国家主義的やり方とマスコミの排外主義宣伝などに影響されている。米国への親近感は82・6%である。
総選挙後の世論調査(12・26)では第3次安倍内閣を支持するは51%、衆院選告示直後より9ポイント下がった。アベノミクスで景気は良くなるとは思わないが53%。憲法改正に前向きな首相の姿勢を評価する41%、評価しない44%。集団的自衛権に関する法整備に賛成34%、反対48%、消費税率10%引き上げに賛成43%、反対49%。原発再稼動を進めるべき33%、進めるべきでない55%。憲法改正葉44対41、集団的自衛権の法整備は48対34、原発再稼動は55対22、アベノミクスは53対29でいずれも反対が多い。
また投票率52・66%、60代が6・04%減少(比13年参院選)であり、中高年の棄権が増加している(コラム「風見鶏」、12月21日)。
上記のような数字は表層的なものであるが、それでも安倍政権の圧勝という実体が実際には脆弱なものでしかないことがよく示されている。選挙戦渦中で書いた私の考えが間違ってはいなかったことが確認できる。日本の労働者人民は自公を打倒した時の受け皿となる党をもっていないという問題に苦しんでいる。そのため真の対決構造が表面に出ずに争点が隠されてしまうのである。下記にそれを掲げておく。
2015年1月16日
博多のアイアン・バタフライ
……………………………………………………………………………………………
衆院選での自公との対決へ(2014年12月4日 記)
(1)解散・総選挙をめぐって
12月4日現在、総選挙の真っ只中にある(12月2日公示、14日投開票)。
安倍政権は総選挙で「15年10月における10%消費増税の延期への国民の判断を仰ぐ」として、「アベノミクスの成否を問う」と記者会見で大見得を切った。しかし、消費増税先送りは法律改正が必要だが、日銀追加金融緩和と株高・円安局面では今の時点での国債暴落は回避できると踏んでおり、おそらく消費増税延期で反対は考えられず、安倍の言う「国民に信を問う」論は説得力がない。安倍政権の狙いは議席の減少を最小限に減らし過半数を維持することで、安倍政権が信任されたとして、集団的自衛権行使・原発再稼動・憲法改正を強行する狙いがある。これが衆院選の真の対立点であり、それが隠されているのである。
それに対しては、集団的自衛権や原発再稼動、憲法改正問題などの隠された争点を表に出すことがカギになる。集団的自衛権(具体的には沖縄新基地建設、沖縄の戦場化)・原発再稼動・憲法改正・アベノミクスへの批判を押し出し、安倍政権の姑息なやり方への批判を強めることが求められる。アベノミクス批判は消費増税延期での長期金利高騰などの危機を指摘するだけではなく、希望を持てる対案として自民党政治への怒りと若者が働くことができ、結婚して将来展望を見通せる社会への変革を語ることだろう。
日経は、消費再増税延期がクレジット・デフォルト・スワップ市場(信用リスクの移転を目的とするデリバティブ取引)で日本国債に対する信認が低下し、長期金利の意図しない急上昇リスクがありうるとして、消費再増税延期に反対している。一方で「リーマンショックのような深刻な事態が起きないための再増税延期は妥当である(反面、アベノミクスの継続はリーマンショックの再来となるという含意だが)」とも言っている。
日経は安倍にイラついてもいる。政治とカネの古くて新しい腐敗構造をもつ自民党政治の自壊や成長戦略に全く展望がないことは資本主義社会の生命力のなさの反映でもあるにもかかわらず、日経はイラついている。
かつて1930年代に共産主義運動(実はスターリン主義なのだが)とその組織を暴力的に壊滅させることで労働者階級の階級的背骨を叩きおり、世界経済の行き詰まりをブロック化と排外主義と侵略戦争に労働者人民を動員することで資本家階級の支持をえたのがヒットラーであった。ヒットラーは合法的に選挙で政権を獲得しその道を突き進んだ。
今、安倍政権は、国家権力や破防法などの治安法で叩き潰すべき革命的左翼は自壊・分散していると認識している。集団的自衛権の解釈変更の閣議決定と原発再稼動などで右からの国家改造を強行しようとしている。しかも総選挙という合法的手段をとったかたちでそれを強行しようとしている。日経などマスコミはそれを後押ししている。
街頭でのデモが何波も重ねられているだけでなく、世論調査でもアベノミクスや増税延期にも反対の声が大きい。世論調査では原発再稼動も集団的自衛権行使で戦争のできる国への転換にもまだ半数以上の労働者人民が反対している。にもかかわらず議会内野党の無力さは著しく、おそらく過半数を大きく下回る得票率でしかないと思われ、過半数以上の議席を占める小選挙区制で安倍政権が勝利しかねいない危機でもある。本物の前衛党不在を嘆くよりもまず、安倍政権・自公の総選挙での過半数獲得をとめなければならない。
集団的自衛権行使容認の問題では、自民党の政権公約には「集団的自衛権」という言葉が一言もない。それに対して、具体的に日本政府が中国との戦争を準備しているという現実と、「反テロ」と称して世界の被抑圧民族の解放闘争を叩き潰すために軍事力を強化している現実の暴露が必要である。
アベノミクスの最大の弱点は、一方では異次元金融緩和での国家財政破綻であり、いま一方ではできもしない賃上げ・消費拡大にある。また何よりも沖縄の自己決定権を叩き潰し辺野古新基地を押し付けようとしていること、福島第1原発の現状を棚上げした「安全」宣言で原発再稼動に向かっていることなどを鋭く暴露していくことだ。
日経がコラム「風見鶏」で1920年代のドイツのハイパー・インフレによって生活が崩壊し、ナチスが登場した歴史を教訓にして、税収が支出の4割でしかない現状は消費税を35%まで上げなければ「ジャパン・クライシス」が起こると警告している。また安倍があっさりと増税延期し、それまでの論議を解散という「伝家の宝刀」で一気に覆したことを批判し、このまま増税延期すればハイパー・インフレで極端なナショナリズムを掲げるナチスのような政治勢力が登場すると警告している(政治部次長・高橋哲史署名)。
もちろん日経が左傾化したのではない。日本社会のあり方への大衆の不安が充満しているということである。その論は正しい、ただし一箇所を除いて。それは安倍のやり方そのものが新しいナショナリズム、異民族蔑視を掲げた政治勢力、つまりナチス型の極右であることを見ようとしていないことだ。
今度は、サッチャーとナポレオンに安倍晋三をたとえ(11・24付「核心」)、フォークランド戦争に勝利し支持率上昇と新自由主義に突っ走ったサッチャーになれ、と激励している。が、やっぱり不安におびえている。それはアベノミクスが日銀・黒田の超金融緩和だけが頼りだからだ。このまま行けば破綻は目に見えている。超金融緩和の出口論だ。長期金利が米国並みの2・5%になれば国債利払費は8年後に14兆円、消費税5%分に相当する。田中角栄の金融緩和で1974年のCPI(消費者物価指数)は23%に上昇した。ハイパーインフレだ。日銀が国債金利上昇を抑えるために更なる緩和を迫られ、それは現実になる。08年世界恐慌では株価だけが下落した。今度は円と債券の日本売り・暴落が起こるだろう。安倍の弱点は日銀の金融緩和である。
日経新聞とテレビ東京の世論調査(11・21~23)では次のような数字が出ている。①投票先は自民党35%( 前回25%)、民主党9%(前回16%)、維新・公明・共産党3%(前回3%)、決めていない等45%。②アベノミクスを評価しない51%、評価する33%。実感していない75%、実感している16%。期待しない49%、期待する41%。③消費税先送りに賛成51%、反対36%。④内閣支持率44%(-4ポイント)。⑤原発再稼動に賛成33%、反対54%。
景気の回復を期待していない人が7割で、アベノミクスを評価しないが5割。この数字が示すように、人々の景気とアベノミクスへの不安は大きい。円安・株高宣伝に惑わされてはいるが……。原発再稼動に反対が5割を超えており、内閣支持率も5割をきった。
しかし、取って代わる政党がいない。この根底には革命党の不在と闘いの弱さがある。可能なところでは対自公の共闘陣形をつくり出すように努力していこう。今日的な日本―沖縄関係、日米安保の沖縄差別構造という中で怒りを集中して形成されている「オール沖縄」のような反自民の共同戦線形成は、本土ではそのまま再現できることではない。しかし、自民党安倍政権打倒へどのように闘うのかをもっと模索することがなければならない。
![](https://blogimg.goo.ne.jp/user_image/19/63/f2bf7519d298a98bd36fb2d94b612f93.jpg)
(2)日米同盟について
「第二次安倍改造内閣と日米同盟の新展開」と題して10月30日に日本経済新聞社・CSIS米戦略国際問題研究所の共催でシンポジウムが行われた。
講演したミシェル・フロノイ元国防次官はリバランス政策を成功させることが今後50年の米国の繁栄と安全保障で重要だとして、①日本との同盟や防衛協力を強化し、同時に中国が紛争を起こした場合に「現実的代償」を示す条件付で中国との協力関係が必要、②経済面では自由貿易を掲げたTPPの推進と、軍事面では21世紀に見合った安全保障として予算を絞った将来への軍事力の投資と同盟国への配慮を主張した。当面するリスクとして「イスラム国」・ロシア・エボラ出血熱を挙げているが、「強い決意」しか有効策はないことを認めている。オバマのリバランス政策が日米同盟の強化と同じ比重をかけた中国との協力、それもいざというときの軍事的打撃を条件に推し進めるという。リバランスにおいて日中への同じ体重をかけるというオバマの考え方に、安倍は賛同していない。それを承知で、フロノイ元国防次官は安倍政権に米国主導でのリバランスの推進を求めている。フロノイが自認するように、当面する3大リスクに対しては何の具体策もない。
参加者は米国がリチャード・アーミテージ元米国務長官、カート・キャンベル前米国務次官補、ミシェル・フロノイ元米国防次官、マイケル・グリーン米CSIS上級副所長、ジョン・ハムレ米CSIS所長、ジョセフ・ナイハーバード大特別功労教授、ジェームス・スタインバーグ前米国務副長官、日本から菅儀偉官房長官、小野寺五典前防衛相、北岡伸一国際大学学長。
参加者の顔ぶれは民主・共和の垣根を越えた米国の安全保障政策に影響力をもつ人物たちとの触れ込みを出し、その実績もある。オバマ政権の安保防衛策と米国支配者階級の意思を知る材料になる。日本の参加者は安倍・集団的自衛権行使容認の3悪人である。
「日米同盟を取りまく課題」としての議論で、①安倍政権の集団的自衛権行使容認では、「自分の運命を自分で決める」(アーミテイジ)、「軍国主義への回帰ではなく責任を果たす普通の国」(ナイ)と支持し、前回半年前の講演会であった米国の主導権の強調などはない。②日韓関係についてはナイが「河野談話の蒸し返しや靖国神社大臣参拝は1930年代の日本を髣髴とさせるイメージ」と安倍バッシングのチャンスを与えるとして批判し、アーミテイジは「(歴史問題を)もう過去の問題にしたいのも無理はない」と安倍に蒸し返すな、過去の問題でいいじゃないかと詰め寄っている。③対中関係ではナイが米国はウクライナでは軍事行動を取らなかったが、「尖閣」(釣魚台)では抑止力があることを強調、対ロでの冷戦状態は対中では避けるべきと言っている。明らかに対ロと対中を使い分けている。歴史認識に関しては、安倍の主張は第2次世界大戦で米国が血を流して勝ち取った世界秩序への挑戦は許さない、として批判している。
パネル討論では、北岡が対中脅威をあおり、防衛力の強化を叫ぶことに対して、「国際社会で大きな役割を果たせるように中国への支援」(グリーン)、「北朝鮮問題に積極的に取り組むように圧力」(キャンベル)と主張している。小野寺が「北朝鮮問題を中国任せにするな」と批判、グリーンが対ロシアでの日米外交の隔たりを指摘し、北岡はオバマの対ロ強硬姿勢を批判している。
全体として、対中国で安倍のような脅威論一辺倒ではなく、米国のコントロールの下での中国の大国の役割を支援するとし、それを外れたウクライナ的問題では「現実的代償」を強調している。21世紀は財政問題のみならず、かつての米国の復活の困難さを「強い決意」の強調で乗り切るとしている。米国のこの現実的な力の喪失と現実とのギャップに凶暴さが出てくる。
米国のスタンスの基調は、安倍の集団的自衛権行使容認を積極的に容認・支援しているが、北岡的(安倍的)な対中脅威強調と対ロ独自外交には不安を持っていると言える。
その一方で、在日米軍基地内での環境調査の新ルール作りがされた(11・2)。沖縄米軍基地の返還に向けて、米軍の運用に支障がないことを条件に基地返還3年前から自治体の土壌検査などでの立ち入りを認め、軍事機密にかかわる場所は半年程度前からとする。但し、基地内の環境対策や汚水漏出防止装置などの施設建設費用は一定の目安は設けるものの日本が負担するという。
結局は米軍軍事機密を理由に環境汚染調査さえも制限するというものだ。
2014年12月4日
博多のアイアン・バタフライ
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