※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
「あ、あの、マルコが、どうかしたんですか?」
一体、マルコの何に感動を覚えたのか。カヲリが不思議に思い白崎ゆりに聞いた。
「カオリちゃん、そうか、そうよね、判らないわよね。本当にすごいことなの。でも・・・そうねえ、今その話をはじめるよりも、もっと先にあなたたちが聞きたいこと、あるんじゃないかしら?その流れで、マルコのことも話せるかもね」
白崎ゆりはカヲリとケンを交互に見て言った。
そうだ。ケンもカヲリも、聞きたいことは山ほどある。
ケンは、白崎ゆり自身がかつて身を置いていた「ノア」の中枢委員会のこと。なぜ、ゆりはそこから離れ、さらには逃れるかのようにこのQuiet Worldへと来ることになったのか。
カヲリは、白崎ゆりとも親交がある、自分の父親のこと。どうやって二人は知り合い、どんな関係なのか。カヲリはまだ何も知らないでいる。
「さてと、わたしも珈琲飲もうかしら」そう言って白崎ゆりはドリンクカウンターのマシンで挽き立てのブレンドコーヒーをカップに入れ、三人の待つ席へとやってきた。日の当たる窓際の席から4人の影が伸びる。
「さあて、何から話そうかしら」
白崎ゆりは日に当たった自身の髪の毛を掻き上げて博士含めて三人を見渡すようなそぶりを見せた。
「一番最初は、姫の年齢じゃないか?はっはっは!」
博士は茶化すように言うと、白崎ゆりも声を上げて笑い、つられてケンもカヲリも顔が思わずほころんだ。
「ちょっと、なんで今あたしの年齢が大事なのよ!もう、こんな若い子たちを前にして"姫”ってのもなんか、ねえ」カヲリとケンをみる白崎ゆりの目はくしゃっと三日月型になり笑顔が花咲いた。
「冗談だよ!」と笑う博士。「もう。じゃあ、そうね・・・」と少し気を取り直すようにして白崎ゆりは話しをはじめた。
『ノア』は、宇宙災害以降、AIとロボットの開発研究を担う生き残った人々が集まり結成したテクノロジストの義勇団体だ。
彼らは世界に放置され残されたリソースを元に、そのAIとロボットのテクノロジーの種火を徐々に大きくしていった。やがてロボットがロボットを作り、次々と数を増やしながらあらゆる仕事をこなしはじめ、世界の生産活動の肩代わりをしていったのだった。そうやって世界の基幹的なインフラシステムを再構築し始めた。
もともと人が減った中で、世界中に点々としたコロニーのような経済圏を、それらAIとロボットを中心に再構築していくまでに、それほど時間がかからなかった。
その最も重要な働きをしたのは、ノアの「マザーAI」だったと言える。
指数関数的に増えていく自らの分身とも呼べるAIとロボットによってこの世界は非常に短期間でコロニー生活圏を世界各地に構築していった。
そのマザーAIを、白崎ゆりはノアの発起人である量子コンピューターを用いた人工知能研究の権威レオナルド・トーマス博士らと共に開発したというのだから、まず驚きだ。
「それで、先に言っちゃうけど、そのマザーAIの開発のために、わたしはカヲリちゃんのお父さん、秋夫君に色々とアドバイスをうけていたのよ」
カヲリの目が大きく見開いた。
なんと、父はノアの創成に大きく関わっていたのだ。
確かに、AIエンジニアだというのは聞いたことがあった。しかし、仕事の内容はその殆どが守秘義務で話すことができないためカヲリは何も知らなかった。
・・・つづく
主題歌 『Quiet World』
作詞・作曲 : shishy