※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
コロニーは街区が地下に向かって縦方向に伸びる街なので平面的にはコンパクトにまとまっている。それでも東西で横断しようとしたら恐らく3km程はある。これをドームで囲っているのだから異様というほかない。
そのカフェは広場から歩いて200m程の所にあった。カヲリが入ってきた東23という出入口にやや近づく形だ。旧世界のパリのオシャレなカフェのように前面はテラス席となっており、白い建物に赤いファサードとサンシェードがコントラストとなっており、一際目をひく。
コロニー内きっての人気カフェということではあるが、完全予約制なのでスムーズに店内へ。先頭のマルコが店内のアテンドロボットと瞬間的に通信でやりとりすると、マルコは言った。
『このカフェはこれより私マルコの安全管理管轄下となりましたので、お二人にはどうぞお気兼ねなくプライベートでティータイムをお過ごしくださいネ!』
一番奥の扉つきのプライベートルームに通されたカヲリとケンは、座り心地の良いデザインチェアに腰を下ろし、それぞれお薦めのエスプレッソ&スウィーツのスペシャルセットを頼んでから、1ヶ月の間どう過ごしていたか、しばし当たり障りのない会話をした。
その中でケンは、かつてコロニーに暮らす前にカヲリと訪れたことがある“思い出の場所”に二人で出掛けたいとマルコに相談して、外出許可の取得や仕事の休みを取ったりと準備をしていた事をカヲリに話した。
このような会話は普段は恐らくこの場を安全管理を管轄するエッジAIがモニタリングしているはずだが、今はコーディネートの最適化を優先する形でマルコが管轄している。マルコにはケンから相談を持ちかける形でこの偽の予備情報を予めインプットしているので、ここはそれに話を合わせていればいいのだろう。
カヲリはそれとなく悟り、その場所が例の場所だと判り相づちをうっていた。
そのあと、運ばれてきたおいしいスウィーツを食べながら、カヲリの父親はどんな人だったのか、何故海外に行っていたのかなど聞いてくるケンに、カヲリは思い出せる限りのことを伝えていた。
しかし、カヲリも自ら拍子抜けするほど自分の父親に対する情報が少なかった。兄と弟に挟まれて唯一の娘だったカヲリには、特別優しくしてくれていた事は覚えている。自分から欲しいと言わないのに人形やアニメのグッズもよく買って貰った。そうすると必ず兄や弟からずるいと言われた。周りからみても自分には甘い父親だったのだろう。そんな兄弟たちの様子を母はよく笑っていた。
カヲリが中学校に上がると同時くらいに父親の海外赴任が決まった。家族は日本に残り、単身で海外へと旅だった。フランスだったと思う。
父の仕事は子供の自分にはよくわからなかったが、今思えばAIのプログラムエンジニアをしていたのだと思う。守秘義務が特に厳しい世界だから家族も詳しいことは知らない。
勿論、この後の旅先で父親に会えるかも知れないという事はおくびにも出さずに話していた。
話を聞き終えて、ケンがエスプレッソを飲み干そうかという時、部屋の窓の外からのキラリとした光の反射に気がついて外を見た。
窓の向こうに、マルコとはまた別のドローン型の青いAIロボットが浮いて、レンズの目でこちらを捉えているのを見た。ケンの視線を追ったカヲリもその姿に気づく。
ケンは鋭い目線でカヲリと目配せすると「さて、そろそろ行こうか」と席を立つ。カヲリも慌てて飲みかけのエスプレッソをテーブルに置いて立ち上がる。
プライベートルームを出るとマルコが横から現れて言った。
『おや、お二人ともずいぶんとせわしないですね、せっかくですからもうちょっとユックリされたらいかがです?せっかく予約をしたのに・・・』
そのマルコの言葉を遮るように、何かに気がついたケンはカヲリの手を取り、慌てて店の出口へと急ぐ。
『どうされました、ケン!?』
バタンと懐古趣味の手動ドアを勢いよく開けて外に出たケンとカヲリ。
そかし、それとほぼ同時に、全長2メートルほどもあるいかつい治安維持AIロボットが2台と、警察の制服を着たアンドロイド型ロボットが1台が道を塞ぐように現れた。その後ろには、先ほどの青いドローンAIロボもいる。
遅れてマルコも店の外に出た。
『ケン!レディの腕をそんなに強く引っ張ってはいけませんよ!・・・アレ?何ですかアナタたち』
まん中に立つ警察のアンドロイドロボが一歩前へ出て近寄り話し出す。
『ノア・メンバーノ 葉山ケン デスネ。アナタに一般家屋ヘの不法侵入の嫌疑がカケラレテイマス。オトナシク署マデご同行クダサイ』
・・・つづく
主題歌 『The Phantom City』
作詞・作曲 : shishy