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誰も知らない、ものがたり。

オリジナル小説「Quiet World」 29

※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。


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「いえいえ、博士、あれはどこからどう見ても人間の若者ですよ」

 実際にその目で若者を見ている赤いシャツの男は言ったが、博士は相変わらず考え事をしているようで遠くを見ながら小さくうなずくのみだった。

 

「とにかく、俺は検疫棟にいきます。博士とユリさんはどうされますか」

 ダイがそう言うと、博士はようやく思索の世界から戻ってきてユリを見て頷き「わしらも行こう」と言ってから、すぐさま傍に浮かんでいるマルコに向かって「お前さんもちょいと来てくれ」と声を掛けた。

 

『ハイ、わかりました』

 ダイと博士はすぐに表に出て行き、ユリとマルコも続く。

 つられるように、ケンもカヲリと目配せして二人も後に続いた。

 

「コウタくんはお家に帰る?」

 カヲリが聞くと、コウタは首を横に振り、すでに一緒に出ていく準備を終えている様子ですぐに外に向かって駆け出した。

 それぞれ自分の電動バイクに乗り込んで検疫棟へと向かう。

 

 検疫棟と呼ばれる建物は集落の一番外れ、いわゆる町の入り口と言える場所にあった。

 旧世界で敷設された国道から山の上の方に向かって伸びる細い山道の先に、人知れず廃墟となったとある町。そこにこのQuiet Worldはある。

 町の入り口にたどり着くまでには切り立った山の斜面を削って作られた山道を通る以外に、乗り物を使ってアクセスできる道はない。

 その山道からQuiet Worldの集落へと入っていく入り口に、検疫センターがあった。 

 ケンとカヲリも、コロニーから命からがら抜け出してQuiet Worldへとたどり着いた時、最初に検疫センターで保護され、近くの施設で自己免疫回復のための療養プログラムを暫くの間受けていた。

 自然免疫機能を失っている状態の人間の体内でウイルスや細菌が活性化していた場合、Quiet Worldの住民にもその害が及ぶ恐れがあるため、外部からの来場者は数カ月間はほぼ隔離されたような生活を送らなければならない。

 

 もちろん、それは、友好的な来訪者に限っての話だ。

 

 今のところ、訪れてきた人間は皆、ケンやカヲリと同じように、新世界のありかたに疑問をいだき、危険を犯してコロニー圏から抜け出してきた者ばかりがここに訪れてくるのみであったが、いつ新世界側の手の者が訪れるかはわからない。

 そのため、その療養プログラムの期間中には、同時に徹底的な身辺調査が行われる。

 博士率いるQuiet Worldの精鋭ハッキングチームによって得たコロニー圏の生活者個人情報のデータやサービス利用データの履歴を照らし合わせながら、その人物が言っている言葉の真贋を見定めるプログラムが抜かり無く運用されている。もちろん、これらのチェックにも高度なAIが用いられる。 

 ただし、最後は”人の目”によって、それら人物像を見極められるのであった。

 

 20分ほど電動バイクを走らせた皆が、続々と検疫棟へとたどり着く。

 エントランスから建物に入ってきた博士達を見て、事務管理を行うメガネを掛けた小柄な中年女性が出迎えた。

 

「ああ・・!博士、すみません、こんな夜遅い時間に、こちらへ!」

 メガネの女性は足早に廊下を歩き、通路の奥にある特別監視室と呼ばれるモニタールームへと向かって皆を案内した。

 扉が開いた中の部屋には、検疫棟のスタッフが2名。

 そして、分厚いガラス越しのクリーンルームに、その”来訪者”の姿があった。

 博士一行がその姿に気がついたと同時に、特別監視室の部屋の中に、スピーカーごしで若い男性の声が響く。

 

 『おやおや、ずいぶんと大勢の方がいらっしゃいましたね』

 

 一見、女性にも見えるその姿は華奢な印象で中性的だった。肩までは届かないが少し長めの髪は真っ直ぐでシルバーのストレートヘア。瞳は青い。

 声からして、男性だろうが、にわかには判断しがたかった。

 とても遠路はるばるやってきたかのようなくたびれた様子はなく、どこか優雅で美しささえ漂う風貌ととても軽やかなカジュアルスタイルの服装。

 このシチュエーションにまったく合わないその意外な姿に、ケンとカヲリも思わず面食らった。

 

 『こんばんは、Quiet Worldの皆さん、お会いできてうれしいです』

 

 ガラスの奥から青い瞳がまっすぐとこちらを見据えて、柔らかく微笑む。

 

・・・つづく。

 


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主題歌 『Quiet World』

うたのほし

作詞・作曲 : shishy

唄:はな 

 

 

 

 

 

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