※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
新世界に生き残った大多数の人間は、このような退廃した居住区から離れ、より共同経済圏の中枢地区のコロニーに移り住んでいた。中枢に近づくほどAIロボットによるオートメーションサービスによるサポートが得られて、何不自由のない生活を送ることができるからだ。
しかし、ごく一部の人はそれまで慣れ親しんだ住まいにとどまった。中枢地区への移住は強制ではないので自分で選ぶことができるが、中枢地区へと移住することを受け入れた人間は便利で不自由が無い生活を送れる代わりに、その生活の中で行った自分の行動の全てがセンシングされ、オートメーションサービスの利便性や効率の向上を名目に記録される。食事も、トイレも、睡眠も。そして、おそらくは男女の行為さえも。
もちろん、プライバシーの侵害につながるような情報の操作・漏洩の危惧は無いという前提で、長たらしい規約を読んだ上で自分でサインするのが決まりだが。
ただ、全面的にそれら規約を受け入れて諸手を上げてコロニーに移り住むことに一抹の不安を感じ、躊躇する人はいる。カヲリはその一人だ。
もちろん、最初は皆不安をいだきながら中枢地区に移り住んでいったものの、すぐにそこの便利で防護服のいらない快適なコロニーでの暮らしに馴れ親しみ、次々と仲間を集めるように中枢地区への移住を周囲の人間に勧めていった。
そうやって、今では、大多数が中枢地区に移り住み、相変わらず元の居住区に住んでいる人たちを影で“変わり者”と呼んで訝しんだ。
そんな”変わり者”の象徴でもある分厚い防護服をまとったカヲリは、愛車の電気駆動のバイクにまたがって、少し自分を嘲笑うような気持ちになる。この防護服もバイクもぜんぶコロニーのAIロボットたちがつくったものだった。こんな自分も、彼らのロボット無しでこの世界で生きていくことはきっと難しい。
停電の影響でバイクのバッテリーの残量が心配だったが、大丈夫だった。昨夜のうちに充電は完了していた。
「よし」そう言ってカヲリはバイクを走らせた。
こうやってたまに買い出しのためにコロニーに行く時、カヲリはその前に決まって寄り道してい行く場所があった。
退廃した街のコンクリートの建物の合間に、不思議と木や草の緑がすごい勢いで元気よく生い茂る場所が点在していることにある日カヲリは気がついた。そして、そこは必ずと行っていいほど昔ながらの神社のある場所だった。人口が激減してから明らかに人の手入れが入らなくなっている分、草や花が元気に伸び放題生い茂っていた。その事を知ってから、なんとなくカヲリは家から一番近い神社に行って、なるべく神社としての体を保つように一人草刈りやゴミ拾いなどを行って掃除をしていた。防護服を来ながらの作業には限界があるので、無理をしない範囲で。
昔の人は、この場所に自然の精気が満ちている事が判って神社を建てたのだろうか。ふとそんな事を思いながら、カヲリはいつものように掃除をしたあと、最後に誰も居ない社殿に手を合わせて、神社を後にした。
・・・つづく
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主題歌 『The Phantom City』
作詞・作曲 : shishy
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