過去を生きた先祖の記憶の時系列はバラバラのようだったが、大きな流れとしては現代に近いものから、徐々に古い記憶へと流れているようだった。
戦国時代と思わしき武士の姿や、山奥でひっそりと暮らす尼の姿もあれば、もっとも古そうな時代の記憶で再現されるビジョンは文明の無い太古の時代のものかと思われるものまであった。一瞬で流れていくそれらの記憶の断片に触れながら、これらの異なる時代に生きた人たちの全ての記憶の中に、必ず観ることができるものがある。
それは、人の命の輝き。
生きる喜びを素直に感じられるような、良いことばかりではない。
自分や大切な人の命を失うことへの恐怖を感じ、必死にあがきながら、時にはそのことを静かに受け入れなければならない人たちもいる。
過ちを犯してしまった自分に対する猛烈な後悔と懺悔の気持ちで生まれ変わろうとする人もいれば、そんな自分の人生からも逃げてしまう人もいる。
それでも、その最後の瞬間まで、懸命に生きてきたのだ。いや、この過去の記憶の連なりを観ると、こう思わずにはいられない。『生かされてきた』のだと。奇跡のような、この星の上の数々の巡り合わせによって。
太古の昔から途切れることなく必死につないでもらった、生命のリレーの一番先端に、今の自分がいる。
「ありがとう、ありがとう・・・」
私はいつしか過去の先祖たちの記憶のビジョンの怒涛のような走馬灯から解き放たれ、道の真ん中でうずくまりながら、涙を流して無心につぶやいていた。
「だいじょうぶ!?イナダくん、しっかりして・・・!」
ヒカルの声が聞こえた。どうやら、突然うずくまってしまった私を心配して、手で背中を擦ってくれているようだ。
自らを未来から来た存在だと言ったヒカルの手は、温かかった。
過去と未来をつなぐもの。
それが、今を生きる私たちなのだ。
この先、まだ不確定な未来の世界には、きっとたくさんの未だ見ぬ子どもたちがいる。
私は涙でくしゃくしゃになった顔を上げた。
見上げた先の空に、この星の全ての生命を育む、太陽の眩しい光をみた。
その眩しさに、思わず手をかざした。
この手には、おばあちゃんと同じ形をした指がある。
日が照らす自分の手にうかぶ赤い血潮。
私は、生きている。もう迷わなかった。
「ああ、もう大丈夫・・・行こう」
私は立ち上がり、涙を袖で拭きながら心配するヒカルを見た。
先程まで透明になりかけていたヒカルは、いつの間にかもとに戻っていた。
私は、自然と笑顔になった。
そして、一度だけ月が浮かぶ反対側の夜空を見てから、すぐに前を向き、明るい太陽の光が照らす方向へと歩き出した。
全ての命を育むその光に導かれるように。
ヒカルはそんな私の様子を少し不思議そうに見てから、もとに戻った自分の手に気づいたようだった。そして、静かに微笑み、すぐに小走りで私の横に並び、一緒に歩きだした。
・・・つづく
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