※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。
マザーAIが人間を試している。
マルコがそう言ったことに対して、ユリは黙ったままだった。
マルコはそのユリの沈黙に、同じく沈黙で応えた。
ユリとマルコの対話がはじまって既に15分ほど経過していた。
「・・・なるほどな」
二人の会話を聞いていた博士のつぶやく一言が合図となったかのように、ユリはトリプルSのプロトコルのもと行われたこのモニタリングの終了をマルコに宣告した。
ケンとカヲリにとっては終始難しい話であったが、最後のマルコの言葉は妙に胸に重くのしかかっていた。
この星にとって最適な答え・・・。
人間は、地球にとってどのような存在なのか。その問い掛けが心に響くと同時に、カヲリの脳裏に恐ろしい考えが浮かんでしまった。
もしも、人間が地球を蝕む存在であったとしたら、時の宇宙災害はその地球を蝕む人間を駆除するための自浄作用と、地球の目線からは言うことができてしまう。
そして、今の各コロニーを生活拠点とした新世界はその宇宙災害で駆除できなかった人間を集めて隔離・管理するための、まさに鳥かご。
地球の覇者のように振る舞っていた人間は、いつのまにか自然界の叡智とAIの理知によって駆除させられてしまう寸前なのではないかと。
このような現在の状況に至るまでに、一体どんな人間の、どんな作為が関与しているのか?それとも、これはもう人知の及ばない摂理なのか。
今の自分には、答えを知り得ることのない疑問。
カヲリの胸には虚しい隙間ができるばかりだった。
思わずうつむくカヲリ。
その様子をどう見たかは判らないが、ケンが横でカヲリに向かってつぶやいた。
「試すも何も、俺たちはこの星に生まれた以上は、地球の一部ってことなんじゃないのかなあ」
カヲリは思わずケンの顔を見る。
その顔は、気が抜けるほどにあっけらかんとしていた。
「人が地球をどうするとか、そういう話はなんだかピンとこないなあ。逆だよね。少なくとも今生きてる人は皆、地球に生かされているんだから」
ケンは、モニタリングを終えて部屋をでようとしているユリとマルコをガラス越しに眺めながら、ボソッと呟くように言った。
カヲリはそんなケンのことを、何か意外なものでも見つけたかのような顔で見ていると、ケンがそれに気がついて「え、なになに」と若干その腰を引くような素振りをした。
カヲリは自分でも不思議なくらいにケンの言葉が腑に落ちた。
ケンが言った言葉の中に、すべての答えがあるような、そんな気がした。
なぜだろう。その言葉をなんのてらいもなく言うケンの顔が、とってどこか”懐かしいもの”に感じられる自分がいた。
心の何かが剥がれる。自分独りの価値観の中で静かに暮らす日々が長かったために久しく忘れていたそういう感覚が、今のカヲリにはとても新鮮で、また懐かしくも感じられたのかもしれない。
今、自分の隣りにケンがいてよかったと、カヲリは密かに思ったことは、口には出さなかった。
・・・つづく
主題歌 『Quiet World』
うたのほし
作詞・作曲 : shishy
唄:はな