原発再稼働ありき、安全対策置き去りの「新規制基準」決定に抗議する(談話)
2013年6月21日
日本自治体労働組合総連合
書記長 猿橋 均
原子力規制委員会は6月19日、原子炉等規制法の改定に伴う災害・重大事故への対応などを示した「新規制基準」を決定した。電力各社は現在稼働中の大飯原発(福井県)を含め7原発の再稼働を来月にも申請するとしている。福島第一原発事故の原因究明も終わっておらず、多くの国民からの意見も無視して拙速に決められた「新規制基準」は、「原子力発電の活用」(日本再興戦略)を進める安倍内閣の方針にそった「再稼働ありき」の基準であると言わなければならない。自治労連は、「新規制基準」の決定に断固抗議するとともに、政府に対して、原発即時ゼロ、再生可能エネルギー政策への転換を強く求めるものである。
原子力規制委員会が決定した「新規制基準」は、福島第一原発事故の教訓をふまえず、安全対策が手抜き、先送りされる重大な問題をもっている。地震対策では、真下に活断層が走っていても地表に露出していなければ原発を設置できるとした。事故に対応する「第2制御室」や「フィルター付きベント」の設置には5年間の猶予が設けられている。電力会社の強い要請に応え、原発の運転期間を最長60年間まで認めた。原子力規制委員会の田中委員長は「世界でも一番厳しい規制基準をめざした」と言うが、安倍内閣と電力会社の求めに応じて「再稼働しやすい基準」を定めたものと言わざるをえない。
さらに問題なのは、「新規制基準」が、原発立地・周辺の自治体や住民を無視して決定されたことである。原子力規制委員会は「新規制基準」の策定に当たり、原発立地・周辺の自治体や住民を対象にした説明会や公聴会を一切開催しなかった。NHKが、電力会社が再稼働申請を予定する原発30キロ圏内の自治体からアンケートを取ったところ、65%が「規制委員会の説明は不十分だ」と答えている。原発立地・周辺の自治体では、原発事故を想定した実効ある防災計画が確立していない。原発30キロ圏内に100万人が住む茨城県では、バスを1000台確保しても1回で5万人の避難にとどまり、対象となる住民全員を避難させる計画は立てられていない。高浜・大飯原発から30キロ圏内にある京都府舞鶴市では、住民を避難させるのに2000台のバスが必要だが、確保できるメドは立っていない。県庁所在地に原発がある島根県では、県庁の移転先も確保できていない。
原発立地・周辺の自治体首長からは「避難計画に無理があるということになれば、原発の立地そのものに問題があるということになる」(東海村・村上村長)、「少なくとも実効ある防災計画が立てられない間は、原発再稼働は行うべきではない」(静岡・浜岡原発周辺の自治体首長)という意見が上がっている。しかし原子力規制庁は、6月7日の自治労連との交渉で「防災計画は自治体の責任で策定するもの」と回答し、事故に対応する責任を自治体に転嫁する姿勢を示している。原発立地・周辺の自治体や地域住民が抱えている不安や意見に耳を傾けることなく、一方的に「新規制基準」を決定した原子力規制委員会の責任は重大である。
自治労連はこれまで、原発の即時廃炉、再稼働・原発輸出反対、再生可能エネルギーへの転換をめざして、国民とともに運動を進めるとともに、原発立地・周辺自治体を含む自治体首長とも懇談を重ねて「原発ゼロ」への共同を広げてきた。原発が立地する地域、自治体においても地域調査や財政分析を行い、京都自治労連や佐賀自治労連は、原発なしで地域経済と自治体財政を再建するための調査・提言づくりの取り組みを進め、地域住民との共同も広げている。
原発再稼働へ本格的に動き出した安倍内閣に対し、原発ゼロの国民的世論をさらに広げ、再稼働阻止、原発輸出を許さないたたかいを前進させることが求められている。自治体においては、原子力安全協定に基づく立地自治体の「再稼働同意権」を住民本位に活用させるとともに、「同意権」を原発事故の影響を受けるすべての自治体に拡張させることが必要である。
自治労連は、原発ゼロの実現、再生可能エネルギーをいかす地域・自治体をめざして国民との共同を広げるとともに、「新規制基準」による原発再稼働に対しては、原発立地・周辺自治体とも共同も広げて、阻止するためにたたかうものである。
以上