〔よしなしごと)『言葉の宝箱』《かくしごと》

※不定期公開

運の良い方、縁の有る方、勘が働く方。

ご覧戴けたら幸いです。

吉永南央【ありのままの自分を認めれば、力は抜ける。力が抜ければ、押し上げてくれる力に気付く。いい大人が素直になるには恥もともなう】

2025-01-31 10:00:14 | 吉永南央


『初夏の訪問者 紅雲町珈琲屋こよみ⑧』吉永奈央(文藝春秋2020/8/30)

 

5月、草が営むコーヒー豆と和食器の店『小蔵屋』の
近所のもり寿司は味が落ちた上、新興宗教や自己啓発セミナーと組んでの商売を始め、評判が悪い。
店舗一体型のマンションも空室が目立ち、経営する森夫妻は妻が妊娠中にも関わらず不仲の様子。
それを見て、草は自らの短かった結婚生活を思い出したりしている。
そんな折、紅雲町に50歳過ぎの男が現れ、
新規事業の調査のためといって森マンションに短期で入居している男は親切で、街中で評判になっていた。
その男が草のもとにやってきた。店の売却・譲渡を求められるのかと思った草に対し、男は「自分は良一だ」と名乗る。
良一とは草の息子。
夫や婚家との折り合いが悪く、草が一人で家を出た後、3歳で水の事故で亡くなったはずだったが、その男によると
「良一は助け出されたものの、父と後妻の間に子供が生まれ居場所がなくなり、女中だったキクの子として育てられた」という。
その証拠として草と別れた夫との間で交わされた手紙や思い出の品を取り出して見せる。
男の言うことは本当なのか、本当に我が子なのか。草の心は千々に乱れる。
嘘は人生の禍となるが、救いとなることもある。甘いばかりではなく苦みを伴う。シリーズ第8弾。


・時のふるいにかけられたら、いいものしか残れないでしょう? P17


・恋愛は人を変える。
身と心で否応なく学ぶからだ P19

・人を偽るのと、自分を偽るのと、どちらが難しいのだろう P23

・隠しごとは、騙していることになるのだろうか。
嘘のうちに入るのだろうか。
嘘になるのだとしたら、それは誰に対しての嘘なのだろう P40

・変な顔をしていると、声まで変になる P50

・正しさに縛られていては、味わえないものがある P88

・良きにつけ悪しきにつけ、人の口には戸は立てられない P95

・時は流れ、いいことも悪いことも永遠には続かない P98

・きちんとした服装が鎧に見えた P100

・考え抜いた末の答えだろう重みがあった。
経営が苦しいのは今なのに、一ノ瀬はその先を見据えている。
彼の態度には、自由さと、揺るがないものとが同居していた P102

・日本のテレビのあれ、
ニュースかい? 
天気、グルメ、芸能。
肝心なことは、ろくに報道しやしない。
御上に気を使ってるつもりかね(略)
戦争の時、ニュースが嘘だとわかっていても信じました?(略)
信じたふりをしたほうが楽だからね。
あとで言い訳もできる。
騙されたんだ、私は悪くない、って P112

・離婚しようと、
子を亡くそうと、
接客に集中すれば忘れていられ、
客が笑顔になればうれしく、
その時間の積み重ねが傷を癒す薬になった P118

・命って、
私たちが思うより、
もっと自由なのかもしれないわね P190

・嘘は千里を走り、真実はおいてけぼり(略)
自分の目で確かめるのは、いいことです P196

・きっかけは嘘でもいい。
そんなことでだめになるようでは、だめなんだと思います(略)
再浮上するには、まず自分の非力を認めなくては(略)
ありのままの自分を認めれば、力は抜ける。
力が抜ければ、押し上げてくれる力に気付く(略)
いい大人が素直になるには恥もともなう P199

・夫婦は縄跳びね。
いつか女でも男でもなくなって、
違う方を見て走りながら、
でも来る縄を迎えて、
その時だけ息を合わせて、
手に手をとって、
どうにか跳び越える。
その繰り返し。
馬鹿馬鹿しいようだけど、
そんなこと他の人とは無理なのよ P213



吉永南央【楽しがる癖をつけると、結局、自分が救われる】

2025-01-28 08:20:41 | 吉永南央


『花ひいらぎの街角 紅雲町珈琲屋こよみ⑥』吉永南央(文春文庫2019/6/10)

 

秋のある日、草のもとに旧友の初之輔から小包が届く。
中身は彼の書いた短い小説に絵を添えたもの。
これをきっかけに初之輔と再会した草は彼のために短編を活版印刷による小本に仕立て贈ることにした。
そんな中、本作りを頼んだ印刷会社が個人データ流出事件に巻き込まれ、行き詰まる印刷会社を助ける。
その過程で草は印刷会社周辺の人々の過去に触れ、ある女性の死にまつわる不可解を解きほぐす。
「一つほぐれると、また一つほぐれてゆくものよ」逃した機会、すれ違い、あきらめた思い。
長い人生、うまくいくほうがまれだったけど、丁寧に暮らすのが大切。
北関東の小さな町で珈琲豆と和食器の店『小蔵屋』を営むおばあさんの周囲に温かく描かれる人間の営み、
日常にふと顔をのぞかせる闇が読む者を引き込むシリーズ第6弾。
『花野』『インクのにおい』『染まった指先』『青い真珠』『花ひいらぎの街角』5話連作短編集。


・昔話をしていると表情が生き生きしてくるから不思議だった。
死は悲しいばかりでなく、時には、幾つもの生を結び直してくれる P24

・あれもこれもなくなった、これもあれも嫌だ、となげくより、
これが一つ残った、あれは好き、じゃあ何ができるかな、と考えるほうが楽しい。
楽しがる癖をつけると、結局、自分が救われる P48

・あなた、案外、鈍いのね P58

・年をとっても、今だからこそできることがある P67

・言いたくはないが、言わずにはいられない P72

・自分をなだめて、苦しい時を生きてゆくのだ。
いつか抜け出せる日が来る P83

・逃がした機会。すれ違い。あきらめた思い。
思えば、長い人生、うまくいくほうがまれだった P104

・自分のために、動物を飼うようなものだわね。
こういうおばあさんを一日でも健康で長く働かせるには、どうしたらいいか。
面倒を見てやるの。
一人二役(略)
時には父親にもなるから三役かしらね。
なまけ心が出てきたおばあさんには、
こうパシッとムチを入れてね P122

・傷つけたくないし、傷つきたくない(略)
私、断られたことはあっても、断るのは初めてで(略)
だから、断られる気持ち、すっごくよくわかるんです。
やっぱだめかみたいな、
自分に価値がとことんなくなっちゃったみたいな、あの感じ P130

・やればできるのよ、が口癖ですね P141

・捨てたもの、失ったもの、
いっぱいあって、この店が残っていた P159

・うちでも外でも機嫌とってなんぼだからね P174

・お見合いは、条件合わせじゃないの? P184

・一つ何かがほぐれると、また一つほぐれる P192

・どんなことも、流れてゆく P230

・好きなものを大切にする人だった。
気に入ったものなら、何年でも待てる人だった。
人に対しても、同じだったのではないだろうか(略)
疎遠な親やきょうだいが近づいてきてくれるのを、ずっと、ずうっと待っていた P234

・妻を信じ、一緒にいたいと願う P242




吉永南央【正義を振りがさして、さぞかしいい気分でしょうね。正しいからなんだっていうのさ。正しさが、人を苦しめることだってあるんだよ】

2025-01-27 14:18:33 | 吉永南央


『まひるまの星 紅雲町珈琲屋こよみ⑤』吉永南央(文春文庫2018/3/10)

 

紅雲町では山車蔵の移転問題が持ち上がり、草が営む小蔵屋の敷地が第一候補に。
話し合いが必要だが、草は母の言いつけで『うなぎの小川』とは絶縁状態で、話し合いが出来ない。
かつては親友だった女将と亡母の間に何があったのか。
紅雲町を歩き回るうち、草は町全体に関わる重い事実にたどり着くシリーズ第5弾。
『母の着物』『探しもの』『冷や麦』『夏祭り』『まひるまの星』5話連作短編集。


・相手のあることは難しい P10

・始まりがあれば、終わりがある。
変わらないものはない。
それが納得できなくて悔しがったり悲しがったりすることが、
自分には、めっきり少なくなった P49

・夫婦には、他人にはわからない決定的な出来事がある P62

・正義を振りがさして、さぞかしいい気分でしょうね(略)
正しいからなんだっていうのさ。
正しさが、人を苦しめることだってあるんだよ P125

・過去にならないものなんて、この世に一つもない P158

・過去は過去。
変えられるとしたら、この只今、そして、その先 P249




吉永南央【一生ついて回るわよ。何とかできたものを放り出した後悔は】

2025-01-24 08:22:18 | 吉永南央


『その日まで 紅雲町珈琲屋こよみ②』吉永南央(文春文庫2012/11/10)

 

北関東の紅雲町でコーヒー豆と和食器の店小蔵屋を営む老女草は最近くさくさしている。
小蔵屋の近くに安さと豊富な品揃えが売りの和雑貨店つづらが開店し、露骨な営業妨害を仕掛けたりしてくるからだ。
しかもつづら出店の裏には詐欺まがいの不動産売買の噂があって、草はほっておけなくなる。
シリーズ第2弾、
『如月の人形』『卯月に飛んで』『水無月、揺れる緑の』『葉月の雪の下』『神無月の声』『師走、その日まで』6話連作短編集。


・多少の不安材料はやる気の原動力 P11

・人の役に立ちたいなら、自分がしっかりしなきゃだめだって P82

・四十を過ぎると、女として選んだ道の違いがくっきりと表れてくる(略)
二十代で失ったものの大きさをつくづく感じた。
後ろを振り返っても何もない。
先を見ても失うだけの人生のように思えてくる P94

・「変な大人!」
「変じゃない人なんていないの!」P100

・進む道を決めていたからか、視野が広く大胆だった P105

・過去にこだわる時って、今が幸せじゃないからのような気がして P116

・家族って、面倒なものですね P124

・全部知っていて味方になってくれる人が、一人いる。
それだけで、こんなに気持ちが落ち着くものなんですね P160

・金の貸し借りは、人間関係を壊してしまう P180

・一生ついて回るわよ。
何とかできたものを放り出した後悔は P202