青森の弁護士須藤のブログ

主に判例を勉強します 
その他,日々の業務について などなど

定期金賠償

2022年02月24日 | 判例

最高裁判所令和2年7月9日第1小法廷判決/平成30年(受)第1856号 損害賠償請求事件

交通事故の被害者が後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合に、同逸失利益が定期金による賠償の対象となるとされた事例

(判決要旨)

交通事故の被害者が後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、不法行為に基づく損害賠償制度の目的および理念に照らして相当と認められるときは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となる。

交通事故の被害者が後遺障害による逸失利益について定期金による賠償を求めている場合において、同人が事故当時4歳の幼児で、高次脳機能障害という後遺障害のため労働能力を全部喪失し、同逸失利益の現実化が将来の長期間にわたるなど判示の事情のもとでは、同逸失利益は、定期金による賠償の対象となる。

 

 民法には,不法行為に基づく損害賠償について,金銭賠償とするの定めがありますが,支払方法については規定がありません。

 このうち,交通事故に関する定期金賠償については,死亡逸失利益では否定され,将来介護費用では肯定されてきましたが,後遺障害逸失利益では結論が出ていませんでした。

 今回の最高裁判決は,被害者が定期金賠償を求めている場合に,後遺障害逸失利益を定期金賠償による賠償とすることを認めました。

 昭和40年に倉田卓次判示が定期金賠償について提言を発表してから,特に裁判官から,定期金賠償についての積極的利用についての複数の提言が発表されてきましたが,今回,最高裁が定期金賠償の意義を認めたことは,交通事故の被害者救済にとって大きな意味があるといえます。

事務所のホームページです

須藤真悟法律事務所 | 青森での交通事故 離婚 借金 相続 労災事故 顧問弁護士 等のご相談は須藤真悟法律事務所 (sto-law-office.com)


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

判例読みますか

2018年01月29日 | 判例




【事件番号】 最高裁判所第1小法廷判決/昭和58年(オ)第678号

【判決日付】 昭和62年4月16日

【判示事項】 一 取締役を辞任したが辞任登記未了である者と商法(昭和56年法律第74号による改正前のもの)266条ノ3第1項前段にいう取締役としての責任の有無

       二 取締役を辞任したが辞任登記未了である者が商法14条の類推適用により同法(昭和56年法律第74号による改正前のもの)266条ノ3第1項前段にいう取締役としての責任を負う場合

【判決要旨】 一 株式会社の取締役を辞任した者は、辞任したにもかかわらずなお積極的に取締役として対外的又は内部的な行為をあえてした場合を除いては、特段の事情がない限り、辞任登記が未了であることによりその者が取締役であると信じて当該株式会社と取引した第三者に対しても、商法(昭和56年法律第74号による改正前のもの)266条ノ3第1項前段にいう取締役として所定の責任を負わないものというべきである。

       二 株式会社の取締役を辞任した者は、登記申請権者である当該株式会社の代表者に対し辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情がある場合には、商法14条の類推適用により、善意の第三者に対し、当該株式会社の取締役でないことをもって対抗することができない結果、同法(昭和56年法律第74号による改正前のもの)266条ノ3第1項前段にいう取締役として所定の責任を免れることはできない。

【参照条文】 商法12

       商法14

       商法(昭和56年法律第74号による改正前のもの)266の3-1


       主   文

 本件上告を棄却する。
 上告費用は上告人の負担とする。

       理   由

 上告代理人河合弘之、同西村國彦、同井上智治、同池永朝昭、同栗宇一樹、同堀裕一の上告理由第一及び第六のうち被上告人打本幸吉、同中山昭、同下清二に関する部分、第二、第四について
 株式会社の取締役を辞任した者は、辞任したにもかかわらずなお積極的に取締役として対外的又は内部的な行為をあえてした場合を除いては、辞任登記が未了であることによりその者が取締役であると信じて当該株式会社と取引した第三者に対しても、商法(昭和五六年法律第七四号による改正前のもの、以下同じ。)二六六条ノ三第一項前段に基づく損害賠償責任を負わないものというべきである(最高裁昭和三三(オ)第三七〇号同三七年八月二八日第三小法廷判決・裁判集民事六二号二七三頁参照)が、右の取締役を辞任した者が、登記申請権者である当該株式会社の代表者に対し、辞任登記を申請しないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情が存在する場合には、右の取締役を辞任した者は、同法一四条の類推適用により、善意の第三者に対して当該株式会社の取締役でないことをもつて対抗することができない結果、同法二六六条ノ三第一項前段にいう取締役として所定の責任を免れることはできないものと解するのが相当である。
 これを本件についてみるに、被上告人打本幸吉、同下清二、同中山昭が、訴外宇野鍍金工業株式会社の代表取締役である訴外宇野登に対し、取締役を辞任する旨の意志表示をした際ないしその前後に、辞任登記の申請をしないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情の存在については、原審においてなんら主張立証のないところである。そうすると、右被上告人らは上告人に対し商法二六六条ノ三第一項前段に基づく損害賠償責任を負うものでないとした原審の判断は、結論において是認することができる。論旨は、独自の見解に基づき原判決を論難するか、又は判決の結論に影響のない原判決の説示部分の違法をいうものにすぎず、採用することができない。
 同第一及び第六のうち被上告人田中哲夫に関する部分、第三について
 所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。右の事実関係のもとにおいて、被上告人田中哲夫は上告人に対し商法二八〇条、二六六条ノ三第一項前段に基づく損害賠償責任を負わないとした原審の判断は、首肯するに足りる。論旨は、採用することができない。
 同第五について
 上告人の本件損害賠償責任を棄却した原審が過失相殺の点につき審理判断しなかつたのは当然であり、原審に所論の点につき審理不尽の違法は認められない。論旨は、採用することができない。
 よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
 (裁判長裁判官角田禮次郎 裁判官高島益郎 裁判官大内恒夫 裁判官佐藤哲郎 裁判官四ツ谷 巖)


・・
・・・
最高裁は,退任取締役に会社法908条2項の責任を負わせる要件として,「取締役を辞任する旨の意思表示をした際ないしその前後に,辞任登記の申請をしないで不実の登記を残存させることにつき明示的に承諾を与えていたなどの特段の事情の存在する場合」と限定的に解釈しました。

取締役を退任した際には,内容証明郵便などによって退任登記について直ちに申請するよう意思を明確にして,不実の登記について明示的な承諾があったと言われないようにしましょう!

~事務所のホームページです~
http://www.sto-law-office.com/

~弁護士ドットコムにご依頼者の方から感謝の声を頂きました!ありがとうございます!~


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

判例読みますか

2017年04月05日 | 判例
【事案の概要】
原告は,もともと被告会社の発行済株式総数8000株のうち,4350株を有する株主で,かつ代表取締役であった。訴外Dは,2350株を有する共同経営者であった。
原告は,昭和52年9月21日,訴外Dに所有株式全部を売り渡した。その際に,原告が代表取締役を辞任し,訴外Dが後任の代表取締役に就任することが取り決められた。
その後,原告は,訴外Dからの売買代金支払いを2回も拒絶したため,訴外Dは口頭の提供をしたうえ,売買代金を法務局へ供託した。
被告会社は,昭和52年10月31日,臨時株主総会を開催し,取締役である原告及び訴外Aを解任し,新たな取締役として訴外B及び訴外C及びを選任した。

原告は,当初,昭和52年10月31日の臨時株主総会の無効確認と取消を求めて提訴しましたが,控訴審になって商法257条1項但書に基づき任期までの役員相当額の損害賠償請求を追加しました。

まず,地裁の判断です。
【事件番号】 福岡地方裁判所判決/昭和53年(ワ)第6号
【判決日付】 昭和55年7月11日
【判示事項】 被告会社の臨時株主総会において,取締役たる原告及び訴外Aを解任し,訴外B及び訴外Cを取締役に選任する旨の決議の無効確認(予備的に取消し)を求めた事案について,原告は,その所有全株式を訴外Dに売り渡したことにより,本件株主総会当時には,すでに被告会社の株主たる地位を失っていたと認め,株主総会の招集が取締役会の決議を経ていなくとも,招集権者である代表取締役によって招集されている以上,株主総会の決議が当然不存在,無効であるということはできないとして,原告の請求をいずれも棄却

次に, 高裁の判断です。
【事件番号】 福岡高等裁判所判決/昭和55年(ネ)第454号、昭和55年(ネ)第572号
【判決日付】 昭和56年6月16日
【判示事項】 控訴人は,持病が悪化したので,被控訴会社の業務から退き療養に専念するため,その有していた被控訴会社の株式を被控訴会社の取締役訴外Dに譲渡し,訴外Dと代表取締役の地位を交替したこと,そして,訴外Dは臨時株主総会において,経営陣の一新を図り控訴人を取締役から解任したことが認められるとし,被控訴会社が控訴人を取締役から解任したのは会社運営上しごく当然のことであるとして,原判決を相当と認めた

最後に,最高裁の判断です。
【事件番号】 最高裁判所第1小法廷判決/昭和56年(オ)第974号
【判決日付】 昭和57年1月21日
【判示事項】 商法257条1項但書にいう「正当ノ事由」がないとはいえないとされた事例
【判決要旨】 T株式会社の代表取締役であった甲が持病の悪化により療養に専念するため、その有していた右会社の株式を取締役乙に譲渡し、乙と代表取締役の地位を交替し、その後乙が、経営陣の一新を図るため臨時株主総会を招集し、右株主総会の決議により、甲を取締役から解任したときは、右解任につき商法二五七条一項但書にいう「正当ノ事由」がないとはいえない。

参考条文
旧商法第257条 取締役ハ何時ニテモ株主総会ノ決議ヲ以テ之ヲ解任スルコトヲ得但シ任期ノ定アル場合ニ於テ正当ノ事由ナクシテ其ノ任期ノ満了前ニ之ヲ解任シタルトキハ其ノ取締役ハ会社ニ対シ解任ニ因リテ生ジタル損害ノ賠償ヲ請求スルコトヲ得
1 前項ノ決議ハ第343条ノ規定ニ依ルニ非ザレバ之ヲ為スコトヲ得ズ

会社法339条 役員及び会計監査人は,いつでも,株主総会の決議によって解任することができる。
 2 前項の規定により,解任された者は,その解任について正当な理由がある場合を除き,株式会社に対し,解任によって生じた損害の賠償をすることができる。



・・
・・・
取締役の解任については,平成17年改正前の商法では,取締役の地位の安定を図るべく,特別決議が要求されていましたが,会社法では,取締役に対するコントロールを重視して,普通決議に改められました。
2項の損害賠償請求については,平成17年改正前の商法で定められていた「任期ノ定アル場合」の要件が掲げられていないことから,定款又は株主総会による具体的な任期の定めがない場合にも,法定任期(332条,334条,336条,338条)の満了前に正当な理由なく解任された場合には損害賠償請求することができます。

そして,正当な理由とは,役員の職務執行上の不正行為や法令・定款違反行為,心身の故障,職務への著しい不適任(能力の著しい欠如)などが該当するとされています。たとえば,①取締役が故意に会社に対して現実の損害をもたらした事情があるとき,②経営者としての能力に著しく欠けることが明らかな事情があるとき,③重病に罹患したときなど体力的に職務に耐えることが困難なときなどはその例ですが,一方で,経営陣の一新という理由だけで多数派株主が取締役を解任することは問題となる可能性が高いといえます。

本件においては,原告は,持病が悪化したため,共同経営者であった訴外Dに全株式を譲渡して,代表取締役を辞任したようですが,株式譲渡後に何らかの事情(原告の気持ちでしょうか?)が変わったため,本件一連の提訴に至ったものと推測されます。
しかし,原告が株式を全部譲渡してしまえば,原告は株主ではなくなってしまうため,その後譲渡を受けた株主が何をしようと,原告にとっては全く関与できないことになってしまうのです。株主の権利,特に,100%株主の権利は絶大なのです。

事業承継などに伴って株式の譲渡する場合もありますが,株式譲渡の際には,譲渡数や譲渡時期だけではなく,譲渡先についても細心の注意を払う必要があるということになりますね。

  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

判例読みますか

2016年08月18日 | 判例

【事件番号】 最高裁判所第2小法廷判決/平成27年(受)第118号

【判決日付】 平成28年6月3日

【事案の概要】
 原審の確定した事実関係の概要は,次のとおりである。
 (1) 上告人Y1,同Y2及び被上告人は,いずれも亡Aの子である。
 (2) Aは,平成15年5月6日付けで,第1審判決別紙1の遺言書(以下「本件遺言書」という。)を作成した。本件遺言書は,Aが,「家督及び財産はXを家督相続人としてa家を継承させる。」という記載を含む全文,上記日付及び氏名を自書し,その名下にいわゆる花押を書いたものであるが,印章による押印がない。
 (3) Aは,平成15年7月12日,死亡した。Aは,その死亡時に,第1審判決別紙物件目録記載の土地(以下「本件土地」という。)を所有していた。本件土地につき,Aを所有者とする所有権移転登記がされている。

【争点】
 本件は,被上告人が,本件土地について,主位的に本件遺言書による遺言によってAから遺贈を受けたと主張し,予備的にAとの間で死因贈与契約を締結したと主張して,上告人らに対し,所有権に基づき,所有権移転登記手続を求めるなどしている事案である。
 上記のとおり,Aは,本件遺言書に,印章による押印をせず,花押を書いていたことから,花押を書くことが民法968条1項の押印の要件を満たすか否かが争われている。

【原審】
 原審は,次のとおり判断して,本件遺言書による遺言を有効とし,同遺言により被上告人は本件土地の遺贈を受けたとして,被上告人の請求を認容すべきものとした。
 花押は,文書の作成の真正を担保する役割を担い,印章としての役割も認められており,花押を用いることによって遺言者の同一性及び真意の確保が妨げられるとはいえない。そのような花押の一般的な役割に,a家及びAによる花押の使用状況や本件遺言書におけるAの花押の形状等を合わせ考えると,Aによる花押をもって押印として足りると解したとしても,本件遺言書におけるAの真意の確保に欠けるとはいえない。したがって,本件遺言書におけるAの花押は,民法968条1項の押印の要件を満たす。

【最高裁の判示】
 原審の上記判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
 花押を書くことは,印章による押印とは異なるから,民法968条1項の押印の要件を満たすものであると直ちにいうことはできない。
 そして,民法968条1項が,自筆証書遺言の方式として,遺言の全文,日付及び氏名の自書のほかに,押印をも要するとした趣旨は,遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに,重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解されるところ(最高裁昭和62年(オ)第1137号平成元年2月16日第一小法廷判決・民集43巻2号45頁参照),我が国において,印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難い。
 以上によれば,花押を書くことは,印章による押印と同視することはできず,民法968条1項の押印の要件を満たさないというべきである。


・・
・・・
(自筆証書遺言)

第九百六十八条  自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない。

・・・遺言書を作成する際に必要な「印」について,最高裁は,花押はハンコと同じとは認めない,と判断しました。

花押という言葉をこの判決で初めて知り,そういえば,大河ドラマで,登場人物の誰かが書いていたなぁ・・・と思い出しました
花押(かおう)とは,「署名の下に書く判。初めは名を楷書体で自署したが,次第に草書体で書いた草名となり,さらに様式化したもの」(広辞苑第6版)だそうですが,
皆様は,花押を書くことと,印章による押印が同じ行為だと思いますか?

・・・ハンコは大切に扱いましょう

 

事務所のホームページです

須藤真悟法律事務所 | 青森での交通事故 離婚 借金 相続 労災事故 顧問弁護士 等のご相談は須藤真悟法律事務所 (sto-law-office.com)


  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

判例読みますか

2015年10月30日 | 判例

労働基準法
(解雇制限)
第十九条 使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかり療養のために休業する期間及びその後三十日間並びに産前産後の女性が第六十五条の規定によつて休業する期間及びその後三十日間は、解雇してはならない。ただし、使用者が、第八十一条の規定によつて打切補償を支払う場合又は天災事変その他やむを得ない事由のために事業の継続が不可能となつた場合においては、この限りでない。
(打切補償)
第八十一条 第七十五条の規定によつて補償を受ける労働者が、療養開始後三年を経過しても負傷又は疾病がなおらない場合においては、使用者は、平均賃金の千二百日分の打切補償を行い、その後はこの法律の規定による補償を行わなくてもよい。
(療養補償)
第七十五条 労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかつた場合においては、使用者は、その費用で必要な療養を行い、又は必要な療養の費用を負担しなければならない。


【判決】平成27年6月8日最高裁判所第2小法廷判決

【判示事項】 労働者災害補償保険法に基づく療養補償給付を受ける労働者が,療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には,使用者は,当該労働者につき,労働基準法81条の打切補償を支払って,同法19条1項ただし書の適用を受けることができる 。

【判決要旨】
(1) 労災保険法は,業務上の疾病などの業務災害に対し迅速かつ公正な保護をするための労働者災害補償保険制度(以下「労災保険制度」という。)の創設等を目的として制定され,業務上の疾病などに対する使用者の補償義務を定める労働基準法と同日に公布,施行されている。業務災害に対する補償及び労災保険制度については,労働基準法第8章が使用者の災害補償義務を規定する一方,労災保険法12条の8第1項が同法に基づく保険給付を規定しており,これらの関係につき,同条2項が,療養補償給付を始めとする同条1項1号から5号までに定める各保険給付は労働基準法75条から77条まで,79条及び80条において使用者が災害補償を行うべきものとされている事由が生じた場合に行われるものである旨を規定し,同法84条1項が,労災保険法に基づいて上記各保険給付が行われるべき場合には使用者はその給付の範囲内において災害補償の義務を免れる旨を規定するなどしている。また,労災保険法12条の8第1項1号から5号までに定める上記各保険給付の内容は,労働基準法75条から77条まで,79条及び80条の各規定に定められた使用者による災害補償の内容にそれぞれ対応するものとなっている。
 上記のような労災保険法の制定の目的並びに業務災害に対する補償に係る労働基準法及び労災保険法の規定の内容等に鑑みると,業務災害に関する労災保険制度は,労働基準法により使用者が負う災害補償義務の存在を前提として,その補償負担の緩和を図りつつ被災した労働者の迅速かつ公正な保護を確保するため,使用者による災害補償に代わる保険給付を行う制度であるということができ,このような労災保険法に基づく保険給付の実質は,使用者の労働基準法上の災害補償義務を政府が保険給付の形式で行うものであると解するのが相当である(最高裁昭和50年(オ)第621号同52年10月25日第三小法廷判決・民集31巻6号836頁参照)。このように,労災保険法12条の8第1項1号から5号までに定める各保険給付は,これらに対応する労働基準法上の災害補償に代わるものということができる。
 (2) 労働基準法81条の定める打切補償の制度は,使用者において,相当額の補償を行うことにより,以後の災害補償を打ち切ることができるものとするとともに,同法19条1項ただし書においてこれを同項本文の解雇制限の除外事由とし,当該労働者の療養が長期間に及ぶことにより生ずる負担を免れることができるものとする制度であるといえるところ,上記(1)のような労災保険法に基づく保険給付の実質及び労働基準法上の災害補償との関係等によれば,同法において使用者の義務とされている災害補償は,これに代わるものとしての労災保険法に基づく保険給付が行われている場合にはそれによって実質的に行われているものといえるので,使用者自らの負担により災害補償が行われている場合とこれに代わるものとしての同法に基づく保険給付が行われている場合とで,同項ただし書の適用の有無につき取扱いを異にすべきものとはいい難い。また,後者の場合には打切補償として相当額の支払がされても傷害又は疾病が治るまでの間は労災保険法に基づき必要な療養補償給付がされることなども勘案すれば,これらの場合につき同項ただし書の適用の有無につき異なる取扱いがされなければ労働者の利益につきその保護を欠くことになるものともいい難い。
 そうすると,労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者は,解雇制限に関する労働基準法19条1項の適用に関しては,同項ただし書が打切補償の根拠規定として掲げる同法81条にいう同法75条の規定によって補償を受ける労働者に含まれるものとみるのが相当である。
 (3) したがって,労災保険法12条の8第1項1号の療養補償給付を受ける労働者が,療養開始後3年を経過しても疾病等が治らない場合には,労働基準法75条による療養補償を受ける労働者が上記の状況にある場合と同様に,使用者は,当該労働者につき,同法81条の規定による打切補償の支払をすることにより,解雇制限の除外事由を定める同法19条1項ただし書の適用を受けることができるものと解するのが相当である。


・・
・・・
労働基準法19条は,労働者が労働能力を喪失している期間及び労働能力の回復に必要な期間の解雇を制限し,労働者が生活の脅威にさらされないよう保護することや休業に専念できるようにすることを目的としています。
ただし,療養開始後3年を経過しても傷病が治癒しない場合には使用者に一定額の補償をさせ,それ以後の補償責任を免れさせることにしてバランスと取っています。

本件の事実経過は大まかに以下のとおりです。
H9    労働契約
H14.3 肩こり等の症状
H15.3 頸肩腕症候群との診断→欠勤を繰り返す
H16   1年間の休職
H17.6 復職
H18.1 長期欠勤
H19.3 一旦退職
H19.11 労災認定(H15.3時点)
H20.6 復職
H21.1 長期欠勤3年経過→2年間の休職
H23.10 打ち切り補償金1629万3996円(平均賃金の1200日分)を支払→解雇

以上の経過で,解雇の有効性を争っていたわけですね。
この方が稼働していた期間はトータルで実質6年間ぐらいでしょうか。
実質的な稼働期間に対して打ち切り補償が1629万円というのは高すぎる気がしますね。

体には気をつけて働きたいものです。

事務所のホームページです

須藤真悟法律事務所 | 青森での交通事故 離婚 借金 相続 労災事故 顧問弁護士 等のご相談は須藤真悟法律事務所 (sto-law-office.com)







  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする