生活相談を受けているところへ、久しぶりの方が来る。数日前に「赤羽の街に一千万円ぐらい使った」と話していた元経営者の方。仕事関係の接待で、赤羽のキャバレーや居酒屋を利用していた。会社が傾き、今は日雇労働をしながら、ネットカフェで暮らす。このところ見かけなかったので心配していた。
「3日ぶりですよ、お兄さん」日雇の現場が遠かったので、その近くのネットカフェにいたらしい。公園にいた足の悪いホームレスを心配して、自主的に弁当を持って行ってくれたことのある、優しい方である。「お兄さん、実は来月から、しばらく来られないかもしれない」「どうかしたんですか?」「昔の仕事していた関係の会社に呼ばれて…フクシマです」「え?」
「来月から、福島の原発に行きます」「原発の作業員ということですか?」「ええ。5次受けか、6次受けなんだけどね。元の取引先の関係で仕事がまわってきて、しばらく向こうにいることになると思う」福島へ行くのは初めてだと言う。「向こうでも、食事は弁当らしいんだけどさ、ここの弁当の方が美味しいよな、きっと」
戦時中ならば「御国のために頑張って下さい」という場面かもしれないが、とてもそんな言葉は出てこない。「また戻って来て下さい。というか……行ってほしくないです。本音を言えば」「線量測るから心配ないよ」「でも」「お土産持って、営業時間に呑みに来るよ」そんなのいらないです。何より一番のお土産は、あなたが元気に戻って来ることです。
「今月中は東京にいらっしゃるんですよね?明日からも毎晩弁当出してるんで、また来て下さい」今は身体が動くし、まだ日雇で働けるので生活保護は受けないと、以前に彼は言っていた。持っていたマンションを売って会社をたたみ、借金を抱え、恐らく今も返済している。だが、金の為に行くのではないのだろうと想像する。
何度も逃げられて踏み倒されているのに、金の無心をしてきたキャバ嬢には金を貸してしまうという話や、従業員には迷惑をかけないようなタイミングで会社をたたんだという話を聞いてきた。そんな、情に厚い彼のことだ。原発の仕事も、世話になった取引先の方からの依頼で、断われなかったのだろう。
彼が東京にいるという今月中の残された時間で対話を重ね、できることなら引き止めたい。
愛のこもった無料弁当か、命の危険をかけた原発行きか。
弁当対原発の勝負が始まる。
(4/22のTwitterより 一部修正)
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