椅子になってから5時間が経つ
上に座った主人は昼寝をしていた
主人が散歩に行ってからは婦人が周りを掃除したり、息子が馬乗りになり激しく前後にゆすった
同じ態勢のまま夢を見る
とてつもなく大きなオペラハウス
好意をよせていた全ての女性たちが着席し、舞台の中心にいる自分を見ている
自分は全細胞に「椅子であれ!」と命じるが、静まり返った客席から洋服の擦れる音や鼻をすする音が聞こえる度に対内の血液が興奮し、女性たちの顔を拝みたくなる
自らに下した命令がシャボン玉のようにはじけてしまう
はじけた言葉は自身の中の壁でこだまする
また命令を下すがまたはじけてはこだまして恥が上塗りされ自己嫌悪が永遠に続く
やがてオペラハウスの壁を突き抜けて戦車がやってくる
舞台上の自分を残し、客席の女性たちは残らずさらわれる
戦車から兵隊があらわれ、自分に向けて発砲する
痛みは感じないがピストルの音で耳が聞こえなくなる
恐怖で目は開けず状況が全く分からない
すると今が夢なのか現実なのかわからなくなってくる
心の中で呟く 「やっと人間以外のものに変身出来たでござる」
彼は気がつくまい。すぐ傍のテーブルも古時計も忍者であることを