天路歴程

日々、思うこと、感じたことを詩に表現していきたいと思っています。
なにか感じていただけるとうれしいです。

如月の夜

2019-02-25 14:23:42 | ショート ショート
うとうとしていたけれど、目が覚めた。枕元の窓から雨の音が聞こえる。夜半から雨が降りはじめたらしい。まだ冬の気配が強いが、雨の音は柔らかい。春の雨だ。季節の変わり目。季節の結び目。胸が痛くなる時期だ。感傷といえばそれまでだが。

私は、息を潜めて隣をうかがう。規則正しい寝息。眠りを妨げはしなかったようだ。よかった。愛しい人。私の恋人。今の私の最優先の人。最近、忙しかったのか、ストレスが多かったのか、疲れた顔をしていた。健やかな寝息を聞いて、ほっとした。

そっとあの人の手に触れる。温かい手。私に注ぎ込まれる熱。あの人のすべてを守りたいと思いながら、それはかなわないことも知っている。

あの人も私の盾になりたいと言っていた。けれど、それは無理な相談だ。私には私の、あの人にはあの人の世界があって。自分のことは、自分で対処するしかない。それでも、お互いに慰め合い、支え合い、抱き合うことはできるのだ。それは、些細な、吹けば飛ぶような関係だろうか?

私は、そうは思わない。

世界は、無慈悲で強情だ。それでも、生きていかなければならない。そんな時、愛しい人の慰撫が、「私」という人間への強い肯定が、どれほど力になることだろう。

甘え、甘えられ、頼り、頼られ、与え、与えられ。そんな関係をあの人と築けているのは、幸せなことだ。

あの人が寝返りをうった。あの人の香りが漂う。私の体は、反応する。心と体は繋がっている。

私は、恥ずかしくて、くすぐったくて、どきどきする。

雨の音は、甘やかに窓を叩いている。そんな、如月の夜。