のんびり行こう!

3歩進んで2歩下がる。
そんな感じでやっていこう。
思いついたら更新。気ままに気長に。

SS 5

2015年07月20日 | 銀魂 テキスト(完)
ふらりと万事屋に桂がやってきた。
銀時からすればふらりだが、桂としては勧誘のための定期ルートらしい。
「今日は夕方から予定が入ってるからさっさと帰ってよね。」
予定にかこつけてパチンコにこそ行っていないが仕事もサボっている。それでも、子供たちに怒鳴られないのは今日が特別な日と知っているからか。
特別ではないが、特別になった日…。いや、それ自体は特別でもなんでもない。
「茶も出んのか。」
いまさらなことを言う馴染みに読んでいた雑誌から視線を上げるとずいとその前にビニール袋が差し出された。
「貴様のことだから実用品のほうがよかろうと思ったのでな。」
「トイレットペーパー…?」
何と比べて”実用品のほうがいい”のか?相変わらずこいつの考えはさっぱり分らんと黙っていると逆の手に持っていたこちらは小さい紙袋も差し出される。
銀時の優れた嗅覚は、そこから甘い香りを探る。
「…はちみつ。」
「なんだ、お前、単語しかしゃべれなくなったのか?」
「ちっげーよ。てめえとろくな会話なんか諦めてるだけだよ。っつか、何?」
「小倉屋のドラ焼きだ。」
いや、そうじゃなくてと言いかけたとき、桂が不遜な笑みを浮かべ、一転、真面目な顔になる。
「誕生日。おめでとう。」
珍しい男からの珍しい言葉に銀時は顔を赤くした。

照れ隠しに夕方から出かけるから少しだけな、と念を押して茶を出してくれた。
出がらしなのはしょうがない。茶葉も買って来ればよかったかと黙ってうっすい液体をすする。夕方からの誕生日会ではケーキも用意されているはずだ。それでも子供たちにも分けてやろうと多めに持ってきたドラ焼きは3個だけ冷蔵庫にしまい、残りはもって行くつもりらしい。
「10月10日、か。」
「あ?なに。」
「先生がお前の誕生日をこの日と決められたのだったな。」
「ああ、俺と会った日だからと後でな。まあ、ちょっとした思い付きだったんだろう。先生も結構イベント好きだったし。」
貧乏寺子屋でイベントと言うほどのことはなかった。ただ、その日は、おはようございますの後、必ず言ってくれた。
「お誕生日おめでとう。」
子供たちも気づいて口々に後からおめでとうと声を掛けた。
今年も一年元気にすごせておめでとう。来年もまた、おめでとうと言えるよう願いをこめて。
「俺だけ誕生日がないのもかわいそうと思ったんじゃねえか。」
「そうかもしれんが、俺、や高杉からすれば先生に誕生日をもらえるなんて随分うらやましいことだったんだぞ。」
「ンなわきゃあるか。高杉なんか、結構きつかったぞ。てめえは親に捨てられたんだ、とか木の股から生まれたんだとか、散々だったからな。」
言いながらも確かにそうだったかしれないと思う。二親がいて裕福な家庭に育ちながらなぜか家を疎んじていた高杉のことだ。先生が親になってくれた銀時をうらやましく思っていても不思議ではない。そしてだから、あえて侮辱するようなことを言っていたとしても。
「とつきとおか。」
ぽそりと桂が呟く。
「あ?」
「10月10日は、言い方を変えればとつきとおか、だ。母親の胎内で生まれるまでの時間。」
「…俺の本当の両親は年末年始、勤しんでいた訳か。」
「ば、ばか者!先生がそんな下品なことを考えるわけがない!」
「い、いや、おれもそこまで考えては。」
桂の熱血ぶりに目の前で手をひらひらさせながらあわてて否定する。
ただの思いつきであってもこの男の前では先生がらみのシモネタは厳禁だ。だいたい”初めて会った日”がたまたま10月10日だっただけでだれもそこまで深く考えはしない。
急に立ち上がったから持っていた湯飲みの茶がこぼれてしまったと、着物のすそをはたきながらソファに座る。
「銀時、お前にも間違いなく親はいる。そして、母親は少なくとも、『とつきとおか』、その腹の中で大切にお前を守っていた。それも間違いない。お前が無事生まれてきたことがその証だ。」
今、生きていることこそが。
「誕生日、おめでとう。」
先生の面差しを乗せ、ゆったりと桂が言えば、すとんと、銀時の心に想いがあつらえたように収まる。
「ありがとう。」
答えた後で照れてしまったけれど、胸のうちが温まったようで照れ隠しは言わない。
じんわりと、自身が発した言葉がまた、心に広がり暖かい。
誕生日が、特別な日だと心から思った。

END

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