ゲンドー博士は
精神科の医者。
最近どうも患者が少ない。
なので…暇を持て余し
夕焼けの中を散歩していた。
真っ赤な夕焼け。
雲までも紅く染まっていた。
と…電柱に
頭を打ちつけている
男がいた。
ゴンゴンゴン
ゲンドー博士は
男の前にまわりこんで
観察した。
『ふむ…』
ゴンゴンゴン
充血した目…
怯えた態度…
不安な表情…
間違いありません。
カモ様…
いや…患者様です。
ゴンゴンゴ…
はっしと両手で
男の頭を受け止める。
『顔色が悪い…
具合はどうです?
私は医者です。
何か手助けが
出来るかもしれませんよ』
「えっ医者?
たたた…
助けけけて
…くくく下さい!
ぼぼぼく…く…く…
く…狂っているんです」
うん…たまには
散歩も必要ですね!
こんなところで
患者が釣れるんですから。
診察室
落ち着かない彼に
椅子をすすめる。
『まあ…おかけ下さい。
で…どうして狂ったのですか?」
「知りませんよそんなこと」
男は…頭をかかえこむ。
『発狂するような事が
あったのでしょう?』
「狂いそうなほど…
気が狂っているのですよ!」
ううむ…てごわい!
『何か心当たりがあるはずです』
「原因ですか…?」
『ええ…』
「あっ!もしかしてアレかな…」
『そうそれです!
で…アレって何です?』
「配線ミス!
神経の配線…見てください!」
なるほど…
そういう患者でしたか…
ま…何てことはない
常日頃から診ている
普通のパターンの患者です。
『はは…
しかしねえ…
私は神経科ですから…
身体を切るわけには
いかんでしょう…』
「いや…
鼻を左にひねってみてください」
『君の鼻を?
ひねると…どうなるのかね?』
別に逆らうこともない。
私は彼の鼻をつまみ
軽くひねった。
わ!
カチッ!
鼻が九十度…回転した。
ポンッ
後頭部から首にかけて
ボンネットのように
頭が開いた。
「配線…合ってますか?」
彼はうしろを向いた。
首の骨に並んでコードの束。
赤…黄…紫…緑…青…黒…白…
『え?
あ…う…うん…合ってる…』
「コネクタが逆になってませんか?」
コネクタをつまみ外す。
うお!
光の線が…
赤…黄…紫…
光が天井を
ぶすぶすぶす
あながあく。
うあっとっとと…
光が壁を走り絵に当たり
ばちばち
額縁ごと絵が落ちた。
レーザー光線だ!
あわてて
コネクタを元に戻す。
「どうです?
光の色と
コードの色は
合ってましたか?」
『んあ?
むう…大丈夫だ!
しかし…
何故…身体の中に光が…?』
「何を言っているんです?
光がないと
夢を見れませんよ!」
『はは…は…なるほど!
夢は…ハイビジョンなのか?
ははひゃひゃ…!』
「そうか…!
配線じゃないとすると…?」
男は…自分で
鼻を逆方向にひねった。
「目玉かな…?」
スポンッ
コロコロコロ
『のわぁ!』
両目が飛び出し
机の上を転がった。
彼は手探りで
それを掴み…
机の角で
コンコン…パリンッ!
目玉が割れて
白身と黄身が流れ出た。
『うひゃ…うひゃひゃひゃ…』
「先生…
鮮度を見てください!
黄身が腐ってませんか?」
『いひゃ…大丈夫だよ…
うん美味そうだ…あひゃ…』
「そうですか…」
鼻を元に戻した。
カチッ
すると
時間が逆転しだして
黄身と白身は殻の中に
目玉は顔に戻った。
ぎゅるる
目玉が回転して私を見る。
『にゃーーーーー!』
「いて!目にゴミが入った!」
『にゃはっ…
しばらく掃除して
なかったからね…ごめんね』
「目でもないとすると…
やはり頭ですよ先生!」
彼は
ポケットから
紫の鍵を取り出すと
私に手渡した。
「頭の中に
虫がいるかもしれない。
いたら
赤いボタンを
押してください!」
そして前髪をかき上げると
髪の生え際に鍵穴がある。
おそるおそる
鍵を差し込む。
回す。
ピィーン!
頭がパカッと開き
同時に彼が
私のほうに
倒れかかってきた。
動かない。
脈もない。
ひゃあ!
し…し…し…死んでる?
むき出しの脳。
その隙間から…
虫がピョコッと顔を出す。
トンボのような目の
イモムシみたいな奴。
私は…そいつを
捕まえようとするが
脳の中を
すばしっこく逃げ回る。
ふと赤いボタンが目につく。
押してみる。
デンデンデンデッデ♪
デンデンデンデッデ♪
何の曲だ?
脳の中から聞こえる。
ぱーぱーぱらぱーぱぱっぱっぱ♪
やがて右脳の中から
紫と黒と緑をモチーフとした
ヒーローが現れた。
体長十センチ
そいつは虫と格闘を始めた。
殴って
叩きつけ
虫は口から火炎
乱闘の舞台となった脳は
踏み散らかされ
潰れて千切れて
私の顔に飛んでくる。
やがて人型の決戦兵器は
虫を倒して喰っている!
そして
エヴァ…違った…
人型の決戦兵器は
頭のフタに手をかけ
パタンッ
と閉めた。
しばらく沈黙…
今のは夢かと思い…
おそるおそる
もういちど頭を開けてみる。
すると体長十センチの
おっさんが…
人型の決戦兵器の
着ぐるみを脱いでいた。
「きゃー!
エッチスケッチワンタッチ!
ちょ…閉めてっ閉めてっ!
やぁだ…最低なんですけどっ!」
パタンッ
『ど…ど…ど…どうです?
虫は人型の決戦兵器が
やっつけてくれましたよ!
ひゃはは…ホキー!』
私は…
意識を取り戻した
彼に話しかけた。
「何のことです?
ん…ここはどこだ?
なんでこんなところに…?」
『忘れたんですか?
狂ってたあなたの
頭の中の使徒を
エヴァンゲリオンが
退治したのですよ?』
「さっきから
おかしなことばかり言う。
あなたの方こそ
狂っているのじゃ
ありませんか?」
『いや…私は…
あなたの頭の中を…』
と言って
彼の髪の毛をかき上げたが…
『鍵穴が…ない…?』
鼻を…ひねってみる。
「いててて…いて!
やめろ離せ!
ばか…いたい…帰る!」
彼は
怒って帰っていってしまった。
『はて…?』
さっぱりわけがわからない。
夢だったのか。
ううむ…
なんだか頭が痛い…
思わず頭をかきむしると
ひたいの辺りに
違和感がある。
鍵穴だ…!
ポケットの中に…
紫の鍵があった。
改過〓たまこ〓自新