パパね、中身が女の人らしい💁🏻‍♀️

性同一性障害MtF
恋愛対象は女性
強烈な男性拒絶でさらに複雑

女性名として生きる

2020年06月02日 | 男から女性へ💁🏻‍♀️
彼女と一日置きにホテルへ行き、買い込んだお洋服のコーディネートを考えては着てを繰り返した。おかげでスカーチョにも慣れたし、下着をつけるのもだいぶスムーズになってきた。
お化粧も何度も練習して、ようやく一人でそれなりに仕上げられるようになった。

いよいよ当日が来た。
彼女が付き添ってくれると言ってくれた。診察室へは一人で行くが、病院までの往復を一人でこなす勇気はまだない。病院の駐車場からエントランスまではほんの十メートル程度の距離。もう何度も来ているのに、今日は受付に行くことすら気持ちを整える必要がある。エントランス前で深呼吸をして、ドアに手をかけようとするが、そこから踏み込めない。

「大丈夫だよ、一緒に入ろう」

躊躇している私の手に手を重ねて、彼女がドアを開けた。
受付へ向かい、診察券と予約表を出した。事務員さんがニコッと微笑んで受け取ってくれた。特に妙な表情などはない。それもそうだろう、ジェンダー専門外来がある病院なのだ、性別移行の途中経過にある患者は何人も来院しているのだ。
待つように促され、ソファに腰を下ろした。彼女は隣で私の様子を見ながら微笑んでいる。

「ね、ぜんぜん平気じゃん。誰も気にしないよ」
「でもなんかやっぱり恥ずかしいよ」
「大丈夫だよ、堂々としてればいいんだよ。そのための病院でしょ?」
「そうだけどさぁ」

囁くように話す自分の声でさえ、周りに聞こえてるのではないかと不安になる。
しばらくして名前を呼ばれた。
すっと立ち上がったつもりだったが、緊張しているせいで足元がふらついた。
彼女が私の太腿にさっと手を当てて支えてくれた。今この動きを周りが不自然に思ったのではないかと神経が昂る。だが見回す余裕すらない。彼女が立ち上がった。

「行こ、一緒に行くよ」

彼女が診察室のドアを開けた。彼女の後について中へ入る。

「お待たせしました」

先生が立ち上がって迎えてくれた。

「すみません、ちょっとこの人緊張しちゃってて、私立ち合いしてもいいでしょうか?」
「そうでしたか。本来は立ち会いはご遠慮いただいているのですが、今日はいいですよ」

先生は穏やかな笑みを浮かべ、座るよう促してくれた。

「今日は女性として来てくださったんですね、ありがとうございます」
「いえ、あの、まだ慣れてなくて、恥ずかしくて」
「最初はそういうものですよ。でもご自身の本来の姿、本当の姿だと思ってしてらっしゃるんですから、何も気にせず堂々と、自信を持ってくださいね」

頭では理解しているものの、なかなかすぐには馴染めない。
だが、先生の一言、“女性として来てくださったんですね”という言葉が嬉しかった。
とても嬉しかった。
高揚しているという感じではない。
それが自分なのだと思えたこと、それ自体が嬉しかった。
先生の目を見た。
いつもと変わらない穏やかで優しい目だ。
ここでは自分を、本当の自分を曝け出していいのだ。

「先生、まだ慣れてないんですけど、私やっぱり女性として生きたいって思います」

涙が溢れてきた。
よくわからない。
悲しいわけでもなく、辛いわけでもなく、恥ずかしいわけでもなく、この感情をどう表現していいのかわからない。
ただ、涙が溢れてきた。

「それでいいんですよ。それがあなた本来の姿、気持ちなんです。だからこそ性別移行が必要ということなんですよ」

先生の言葉に自分が吸い寄せられていく。
彼女が手を握ってきた。
大粒の涙でお化粧が崩れるのがわかった。
看護師さんがティッシュを渡してくれた。
手に取ったが、涙を拭うことはしなかった。

今なら全てを話せる。
体裁を繕った言葉ではなく、苦しみを乗り越えた自負の言葉ではなく、心の中に響いた自分自身の言葉で、全てを話せる。

「先生、私・・・」
「大丈夫。ゆっくりでいいんです」

先生が看護師さんからカルテを受け取り、私の前に差し出した。

「ここ、見てください」

ぼやけた視界で先生の指が指している箇所を見た。
私の名前が書いてある。

「これまで通名を使っていたこともあるんですよね?ここ、ほら、苗字は書いてありますけど、下の名前は書いてないでしょ?」

確かにそうだ。
先生がボールペンを差し出してきた。

「ここにこれからの自分、本来の自分として生きるための、女性としての名前を書いてください」

驚いた。
戸籍上の本名ではなく、女性として生きていくための名前。
女性名をここに書く。正式なカルテに書く。
意味することはすぐにわかった。
震える指先を押さえながら、ゆっくり漢字で女性名を書いた。

「ありがとうございます。今日から当院では保険証や戸籍上の名前は別として、当院の記録上は全てこの女性名に変更させていただきますね」

また涙が溢れてくる。
今日、この瞬間から、私はこの女性名で生きていくのだ。
少なくともこの病院ではこの女性名で扱われるのだ。

「性同一性障害の診断が確定したら、戸籍名の変更を申し立てしましょう。戸籍上の性別を変更しなくても、名前が変わるだけで生活や公式な記録、全てが変わります。気持ちも変わります。ここ数年で社会性別という考え方、認識が広まってきています。それだけでも、あなたの生き方は変えられるんです。女性として生きることができるんです。女性としていきたい、その気持ちを正式に表明して、女性として生きていることを表に出していけるんです。まだまだこれから道のりは長くなりますが、その第一歩が今日ということにしましょう」

さっきまでの不安がすっと消え去ったのがわかった。

「今日はこの後カウンセリングですよね。過去のことはカウンセリングで行い、私とは未来についてを考えていきましょう」

舵を取る先生の言葉が嬉しかった。
気がつけば彼女も隣で泣いていた。

一緒に泣いてくれる人がいる。
一緒に前へ進んでくれる人がいる。
その方法を考えてくれる人がいる。

「では早速ですが・・・」

舵を取る先生の言葉に、自分の未来を重ねていった。

女性の容姿で病院へ行く

2020年05月28日 | 男から女性へ💁🏻‍♀️
女性の容姿で診察を受ける気持ちは固まった。
友達に手伝ってもらい、洋服を選び、下着を選び、髪型は行きつけのヘアサロンに相談をした。

上はゆったりした白のカットソーに、トップスをアプリコットのカーディガン。下はスカートにしたいと思いながらも、まだその勇気がなかった。友達はスカーチョだったらそれっぽく見えると言って、黒のスカーチョを選んでくれた。靴は黒のローファーにした。いろいろ見て回ったが、合うサイズが見つからず、選択肢はほとんどなかった。

友達とホテルでヌードサイズを測った翌日、彼女が休みだったので、朝から待ち合わせをした。早速、下着売り場へ行ってブラとショーツのセットを二つ買った。
化粧品売り場へ移動し、肌の色に合わせてプランを考え、化粧水、化粧ベース、ファンデーション、フェイスパウダー、アイシャドウ、アイブロウ、アイライン、口紅、リップグロス、一通り揃えた。
そのまま同じホテルへ行き、部屋で着替えとお化粧をしてもらった。ファンデーションを塗ったところで自分の滑稽な様が可笑しくなったが、何度かパターンを変えてメイクしていくうちに慣れた。

鏡に映った自分の姿は、ここまでやっても中性的な人という印象だ。これでも私としては頑張ったつもりなのだが、今はこれが限界なんだと痛感した。

「最初は違和感あると思うけど、自分でするようになれば慣れてくるし、コツとかもわかってくるからね。最初はみんなそうなのよ。お化粧って女にとっては毎日のことだから、いろいろ試して自分なりの形みたいなのができてくるの。だからこれからはできるだけ毎日お化粧して練習しないとね。わかった?」

わかってはいるが、自分自身がお化粧に慣れるのかどうか自信が持てない。だがそれでは駄目だ。これから女性として生きていくのだ。こんなところで躓いていては意味がなくなってしまう。意識を高めていこう。

ホテルの部屋から出る前にお化粧を落として元の服装に戻ろうとすると、彼女が制してきた。

「今日はこのまま帰ろうよ。慣れるためにも」

戸惑ったが、彼女の言う通りだ。
思い切ってそのままの容姿でホテルから出た。駐車場で車に乗り込み、彼女を送るために家へと向かう。

「ねぇ、食材のお買い物しないといけないから付き合ってよ」
「えっ、このままの姿で行くの?」
「うん、私が一緒だから大丈夫だよ」

覚悟をつけさせるためだろうとすぐに察した。

スーパーへ着き、店内に入る。買い物籠を手に取ったが、周囲の目が気になって挙動不審になっているのが自分でもわかる。
彼女は私の手を取り、平然と売り場を連れ回していく。商品を見ながら話しかけてくるが、全く頭に入らない。私が混乱しているのも、意識過剰になっていることもわかっているが、彼女は普通に話しかけてくる。鮮魚売り場でお刺身の盛り合わせパックを覗き込んだ時、彼女が耳元で囁いた。

「みんな商品を見てるだけ。あなたのこと見たりしてないのよ。周りと同じように商品を見て、普通にしてれば誰も変に思わないよ」

手に取ったパックを買い物籠に入れる時、それとなく周りを見てみた。彼女が言う通り、私を見ている人などいない。私だけが自分の見た目を気にしているだけなのだ。

「ね、誰も見てないでしょ」
「うん、別にじろじろ見られてるとか、そういうのは無さそうだよね」
「いないよ、変な行動したりしてなきゃ目立たないし、みんな自分の買い物のことが最優先なんだから。あそこの試食のところ行ってみようよ」

目線の先を見ると、出入り業者が試食を振る舞っている。
ゆっくり歩きながら近づくと、販売の女性が私たちの方を見た。

「ねぇ、プルコギ風のお肉だって」

彼女が試食品を指差して、声をかけてくる。
すかさず販売の女性が小さなトレーにのせた試食品を取り、勧めてきた。
彼女が頬張る。目を丸くして美味しい表情をすると、

「お姉ちゃん、これ美味しいよ、食べてみなよ」

と私に試食品を差し出してきた。
“お姉ちゃん”と言われたことに驚いたが、言われるがまま手に取って食べてみた。

「お姉ちゃんのところの息子がお肉大好きなんですよ」
「あら、そうなんですね。これあんまり辛くないから食べやすいですよ、どうですかお姉さん、辛くないからお子さんでも大丈夫そうでしょ?」

販売の女性は、彼女が私のことを“お姉ちゃん”と呼んだことで女性として認識した。

「えぇ、辛くないし、あの子の好きな感じの味だからいいですね」

動揺しているのがわからないよう、一生懸命応えた。

「奥様、背が高いから、息子さんもおっきいんですか?」
「はい」

精一杯だったが、自然に微笑むことはできたと思う。
彼女は私がやり取りしているのを見ながら、別の試食品を頬張っている。
プルコギ風焼肉のパックを一つ手に取り、籠に入れる。販売の女性がにこやかに送り出してくれた。

「ちょっと、いきなり振らないでよ、びっくりしたよ」
「でも大丈夫だったでしょ?」
「わかんないけど、たぶんね」
「女だって決めて振る舞ってれば、そう見えるんだよ。気にしないんだよ」

かなり強引な方法ではあったが、確かにその通りだと思った。
もちろん、これで普通の女性に見えるようになったと言うわけではないだろう。
肝心なのは、自分が女性であると自覚することなのだ。これから女性として生きていくということは、そういうことなのだ。

そのまま店内をしばらく歩き回り、適当に買い物を済ませて車へ戻った。

「ありがとね、なんか少し踏み出せたような気がするわ」
「うんうん、そうだと思うよ。あたし時間作るから、次の診察の日まで毎日あちこち行って女性として出歩くのに慣れようよ」
「ごめんね、忙しいのに。助かるよ、ありがとう」
「ぜんぜん大丈夫だよ。そしたら明日は駅前のお店に行こうよ。洋服もこれ1セットだけじゃ無理だから、他のも探したりしないとだし」
「うん、助かる。お礼になんか洋服買ってあげるよ」
「えー、なんか安上がりにされてるー」

あっけらかんとしている彼女に救われ、二人で大笑いした。
彼女の家の前に着いた。

「ちょっと待ってて」

そう言って家に入ると、すぐに出てきた。
助手席に戻ると、

「ね、もう一度お部屋行きたい」

悪戯っぽい笑みを浮かべた横顔。
彼女の気持ちを余さず受け取ろうと、ホテルへ向かって車を走らせた。

女性になる準備

2020年05月25日 | 男から女性へ💁🏻‍♀️
診察の帰り際に、女性の容姿で来てみれば?と言われた。
確かに、これから女性化をするために病院へ行っているのだから、ホルモン療法の開始は関係なく、自分らしい姿として女性の容姿になることは当たり前だ。
ただ、今の状態で女性の洋服、お化粧をしてというのはとてつもなく勇気がいる。

今の容姿は、あまりにも中途半端だ。
スキニーのデニム、ゆったりしてシルエットが分かりにくいブラウス、フラットシューズ。どれもレディースだが、肝心の私が女性化していない。
髪は肩甲骨の下端あたりまで伸びてワンレングスになっているが、それでもこれだけで女性的に見えるかと言われれば、全く見えないだろう。お化粧もしていない。

なぜだろう、性別違和を解決するために性同一性障害の診断を受けようとジェンダー専門医の元へ足繁く通っているのに、どこか心の迷いがあるのか、治療で女性に見えるようになってから全てを進めようとしている。
確かに今の時点でお化粧をして女性の服装を纏っても、中途半端すぎて滑稽にしか見えない。それ以前に、私自身が女性の容姿になることへの踏ん切りがついていない。

あと一週間ちょっとで次の診察、その後にカウンセリングがある。
女性の容姿になるのは女性化してからでもいいと考えるか。それともこれを一つのきっかけにして思い切ってみるか。
院長先生が言っていたが、ホルモン療法を開始してもすぐに効果は現れない。数ヶ月から、人によっては一年以上、或いは効果が現れない人もいる。副作用で治療中止になる人もいるのだ。ある程度の結果、効果の現れ方を見てから女性の容姿に変えるとすれば、それまでずっと今のままでいることになる。

もしホルモン療法に入れなかったら?
そもそも性同一性障害の診断確定が出なかったら?

それも不安だが、もっと本質的なところだ。
治療で女性化できるから女性になるのか。
違う。
自分の心の性別、自認性別が女性であることは確信している。
だから女性化を施すための治療をするのだ。

頭ではわかっている。だが行動に移す勇気、最初の一歩が踏み出せない。自分が間違ったことをしようとしているのかとすら思えてくる。

あれこれ考えていると、会社の同僚からメッセージが入った。
なんだろうと思い、返信してみる。
少しだけ会社の話をした。彼女が連絡してきた本題が別にあることは想定済みだ。

「最近、体調どう?あたしさぁ、なんか不安定すぎちゃってちょっと休みたいなって思ってるんだよね」
「そっか、俺もなんか不調でね。この前、病院行っていろいろ検査したんだけど、歳も歳だし、ちゃんと身体のメンテナンスしないといけないなって痛感してるよ」

古い友人には話してあるが、会社関係には一切カミングアウトしていない。同僚には男として接していた。

「そういえばこの前教えてもらった化粧水、すごく入る感じでいいよ。凄いよね、女子力高くて。あたしなんて化粧水とか適当すぎてもう女終わってる感じだよ」

女子力が高い、か。
この同僚は同期入社で、隣県に住んでいることや、離婚歴あり、一人で子供を育てているなど、私と似た状況を抱えているので、プライベートでも親しく接していた。
いずれにしてもこの先、女性化するのだ。彼女にはカミングアウトしておいた方がいいのではないか。迷いもある。でも彼女は信頼できるし、信頼したい。
うちの会社は外資系で、社風自体、性的マイノリティに理解が深く、差別や偏見は一切排除されている。LGBTに対しても全く問題なく、特に本国ではカミングアウトも積極的で、全て本人の意思を尊重し、自認性別も尊重されている。
彼女はどうだろうか。わからない。

「あのね、ちょっと変な話ししていい?」
「うん、いいよ。どした?」

小さい頃から性別違和があり、自分の心、性自認が女性であること、数年前から血圧の薬を飲むようになり、その副作用で女性化乳房を発症、少しずつ膨らんできた胸を見て、本格的に女性になりたいと思ったこと、体調不良を医師に相談したところ、カウンセリングで性同一性障害の疑いがあると言われ、今はジェンダー専門医の診察を受け始めたところで、性同一性障害の診断が確定したらホルモン療法で女性化をして、容姿も完全に女性になることを考えていること、全てを話した。

「だと思ってた。女子力高いのもそうだけど、考え方とかすごく女性的だしさ、なんかこう話してても男の人と話してるって感じじゃなくて、女子同士で話してる感覚だったのよ」

彼女は楽しそうに微笑んでくれた。

「ごめんね、変な話しちゃって」
「ぜんぜん変な話じゃないよ。話してくれてありがとう。すごく嬉しいよ」

彼女が本心で理解してくれていることが嬉しかった。
その流れで、次回の診察とカウンセリングに行く際、女性の容姿で行くかどうか悩んでいる事を話した。

「いいじゃん、もう女性なんだから女性の格好してて当然だよ。あたし、手伝おうか?」

思っても見ない展開だ。

「そしたら洋服とお化粧だよね。まずはそこをちゃんと作っちゃおうよ」

早い方がいいと言われたが、いきなりお店へ行って採寸してという勇気はない。

「確かにいきなりは勇気いるよねぇ。とりあえず洋服はネットでいろいろ探してみようよ。お化粧はそれからでもいいし。あと大切なこと。下着は?」

そうだ。下着だ。今はショーツこそ女性ものを穿いているが、胸が無いのでブラはしていない。

「胸が出来てからでいいよね、ブラは」
「そこよそこ、意識の問題だよ。女性になりたいんでしょ?副作用で少し出来てるんだし、もうブラはしておいたほうがいいよ」

説得力が凄い。
確かにそうだ。女性の胸というほどまではいってないものの、男の胸としては乳房の膨らみがあるので、普通のTシャツを着ると形がはっきりわかるくらいだ。
だが選び方もサイズも全くわからない。アンダーバストの測り方を教えてもらったが、これで合ってるのかどうかもよくわからない。

「誰か見てもらえそうな女の子いないの?」

そうだ、会って測ってくれるような友達がいれば話が早い。
彼女にすぐ探してみると伝えると、ネットでサイズが合いそうな洋服を探しておいてくれると言ってくれた。ありがとうと伝えて、すぐに携帯の連絡先をチェックした。

思い当たる子が一人いた。
以前、手伝いがてら仕事をしていた会社の、後輩の女の子。家も近所で、彼女も離婚歴ありで子育てをしている。両親と同居しているので一人で育てているわけではなかったが、その分、時間は作りやすい。すぐにメッセージを入れてみた。
相談があるとだけ書いておいたが、ちょうど今夜空いているというので、会うことになった。

夜、息子の夜ご飯の支度をしておき、彼女の仕事終わりで待ち合わせをした。
車に乗せると、すぐに相談の内容を聞かれた。これで彼女にもカミングアウトとなるわけだ。受け入れてくれるか全く見当がつかない。だが、いずれ知ることになるのだから、仲がいいだけに早い方がいいだろう。
同僚に話したように、簡単にここまでの経緯を話し、相談の目的を伝えた。

「やっぱりなぁ、そんな感じしてたんですよ。だって女子力高いんだもん。それにあたしよりちゃんとお母さんしてるしね。いいですよ、じゃあ下着選びから手伝いますよ」

同僚と同じような反応で拍子抜けした。
そうなのか、特に意識もせず普通にしていたが、他の人から見るとこれまでの状態でも女性っぽいところが出ていたのか。無意識に出ていると知って、なおのこと自認性別が女性なのだと痛感した。

「どこでやります?」
「どこがいいかな、車の中かな」
「いやぁ、ここじゃちゃんとした姿勢で測れないから正確じゃなくなっちゃうもん、お部屋とかがいいと思うなぁ」
「そうだよね。でもさすがに今の段階で息子がいるところっていうのは厳しいよねぇ」
「あの・・・ホテル行きましょ」
「えっ?」

突然の言葉に、あまりにも驚いて声が出てしまった。

「だって、ヌードサイズで測らないと駄目だし、ファミレスで脱ぐわけいかないでしょ。ホテルならご飯も食べられるし、なんならシャワーも浴びられるし」
「そ、そうだけど、なんか誤解されないかなと思って」

狼狽ている私の隣で、彼女は楽しそうに微笑んでいる。
確かに言う通り、ちょうどいい場所だと思う。
躊躇う気持ちもあったが、ホテルが建ち並ぶ、近くのインターチェンジへ向かって車を走らせた。

派手な外観のホテルの駐車場へ車を滑り込ませる。
まるで普通の恋人同士のように装い、手を繋いでエントランスへ入っていった。
彼女に好きな部屋を選ばせ、エレベーターに乗り、6階のボタンを押す。

やましいことをするわけでもないのに、なぜか気持ちが高揚してくる。
エレベーターが止まると、手を握る彼女に力が入る。

少し汗で濡れた掌を、お互いに摺り合わせながら部屋へと向かった。

院長先生の診察

2020年05月22日 | 男から女性へ💁🏻‍♀️
院長先生の診察はこれで3回目になる。
初診では性同一性障害とは何か、これからどうしていきたいのかということを話した。
2回目の診察は、カウンセリングを受けてみてどうだったかという程度の浅い話。
おそらく、実際に診断が進む中での心境変化を確認しているのだろう。
今のところメインはカウンセリングだ。ここに至る前での経緯、性別違和の原因を突き止めていく。となると、診察は何をするのか。診断確定は2名の専門医が同一の所見、判定、診断を出して初めて可能となると聞いているが、そこに到達するまで何をするのだろうか。普通の病気とは全く違うプロセスだ、わからないことだらけで不安にもなる。ストレートに訊いてみるほうがいいだろう。

名前を呼ばれて診察室へ入る。
いつも通り、院長先生が穏やかな笑顔で迎えてくれた。

「カウンセリングは順調に進んでいるようですね。かなり昔のことから記憶を辿っていくので大変だと思いますけど、大切なことなので頑張ってくださいね」

記憶の反芻は確かに辛いが、今まで打ち明けたことがないような話をしていくと、話終わった後で気持ちが軽くなるということを覚えたので、さして苦にならない。

「まだ始まったばかりですが、自分は性同一性障害だと思いますか?」

いきなりストレートに訊かれた。唐突なので驚いた。
正直なところ、そうだとは思うがどうなのかよくわからない、と答えた。

「十代とかの若い方だと、思春期の一時的な中性感で性別違和のような感覚になることがよくあるんです。大半は年齢が上がるにつれて自然に解消していくんですけどね。でも中には継続的に性別違和が維持される人がいる。じゃあそういう人は性同一性障害なのかというと、全てがそうとは限らない。そこでいろいろな検査をしたり、カウンセリングをおこなって、見極めていくわけです」

そこまでは理解している。

「診断確定までに行うことを説明しますね。カウンセリングはもう開始しているのでいいでしょう。次は血液を採取して染色体に異常がないかを確認します。もし染色体に異常がある場合は性同一性障害ではなく、別のものになりますので、その際は別途案内させていただきますね。その後、MtFの場合は泌尿器科で生殖器の検査を受けていただきます。生殖器に異常がなければ問題ありませんが、異常があればこれもまた別途案内となります。並行して精神疾患がないかどうかの確認も進めていきます。特に性的倒錯に関わる精神疾患がなければ問題ありません。問題がある場合は治療を行いますが、性同一性障害の診断は出せなくなります。それと、思考や性質などをこういった診察で判断していき、あなたの心の性別がどちらかを確認していきます。心理テストのようなものも行っていきますが、あまり難しく考えなくて大丈夫ですよ」

かなりのボリュームがあるように思えた。

「では早速始めましょう。今の服装は何か意図がありますか?」

思っても見ない質問にたじろいだ。
今日はスキニーのデニムを穿き、上はシルエットがわからないような緩めのカットソーに、カジュアルなジャケットを着ている。どれもレディースものだ。髪は肩甲骨あたりまで伸ばしているが、今時はロングヘアの男もいるし、メイクもしていない。男っぽさを出さないように意識はしているが、かと言って女性の容姿にしているわけでもない。今まで女性に見えるような容姿にしていたこともあったが、胸もないし、顔つきも男を隠せないので、無理に弄ろうとはしていなかった。

「今の容姿は男性ですよね。中性寄りではありますが、ご自身でも女性の容姿にしている意識はないと思います。その理由は、この時点で容姿を女性にしても無理があると感じている。違いますか?」

その通りだ。

「じゃあどうすれば女性の容姿になれるのか。顔や胸、身体のライン、全てが女性化していくことが必要になります。逆に言うと、女性としての自信が無いから女性の容姿をしていないということでしょう。自認している性別は関係なく、これは正常な判断です。少なくともこの時点で、異性装癖はないと考えられます」

納得できる。
女性としての容姿にしたいが、いくら化粧をしても、いくらレディースの服を着ても、肉体が女性化していなければ違和感が出る。そんな状態で女性の容姿をして外に出れば、周囲の人の目が気になって仕方ない。変な人と思われるだけでなく、単なる変態と思われるだろう。

「以前お話ししたように、性同一性障害の治療というのは、自認性別に身体的特徴を合わせていくことになります。性同一性障害の診断が確定したら、まずはホルモン療法で女性ホルモンを投与して女性化を進行させる。次は豊胸手術、声帯手術などの外科的アプローチで女性としての身体的特徴を施す。最終的には性別適合手術で生殖器の外観を形成する。生殖器の外観を女性器にすれば、家庭裁判所へ戸籍上の性別変更を申し立てることができるので、完了すれば戸籍上も女性になります。また、診断確定していれば、性同一性障害を理由に戸籍上の名前を女性名に変更することが可能になりますので、性別適合手術をしなくても、戸籍上の名前だけを先に変更しておくこともできます」

名前の変更ができる?性別適合手術をしなくても女性名に変更できるのか。知らなかった。

「恋愛対象は女性と聞いていますが、そういう方の場合、性別適合手術は受けないことが多いんですよ。治療は自費診療の範囲なので、どこまでやるかは患者さんの意思になるますが、どうしたいですか?」

一瞬で心が決まった。

「性別適合手術はしなくていいです。ホルモン療法で女性化することと、名前を変更したいです。名前はすぐにでも変更したいのですが、診断確定してからになりますから結構時間がかかりますよね?」

「そうですね、診断確定まで少なくとも半年から一年はかかりますから、それからになりますね。裁判所へ名前の変更を申し立てるのは、手続き的には簡単ですし、名前変更を目的とした診断書を作成しますので、あとは必要な書類を用意して申立書を出して裁判官の許可が下りるかどうかという流れになります。まだ先の話ですが、名前の変更許可申立は法務省のホームページに書式や案内が載っていますので、あとでお知らせしますね」

「名前の変更はとにかくすぐにでもしたいです。もうこの名前で呼ばれるのが嫌でしかたなかったんですよ」

「皆さん、そう仰いますよ。最近の病院は受付番号で呼ぶところが増えていますが、見た目が女性なのに男性の名前で呼ばれるとか、苦痛になりますからね。うちの診察券、名前と性別が空欄になっているでしょう?性同一性障害で受診される方の診察券は、あえてそうしているんです」

そういえばそうだった。
なぜ空白になっているか気になってはいたが、そういう配慮があったのか。

「あと、名前の変更をしていると言うことは、既に診断確定して裁判所で名前の変更許可が降りて戸籍名が変更されていることを証明しますので、日常生活でとても大きな影響が出るんですよ。今は社会性別という考え方が広く認知されてきていますし、気持ち的にも正式に女性名になれば、女性として生活していく励みにもなりますからね」

本当にその通りだ。

「どうでしょう、診断確定をして名前の変更や女性ホルモンの投与をしたら、女性として生きていく勇気が出そうですか?」

「はい、もうそこまで出来れば充分です。早くそうしたいですね」

名前の変更はとても大きい。一刻も早く変更したいと気が急いてくる。

「わかりました。じゃあその方向として考えていきましょうね。ただ、後で後悔するような事がないよう、毎回のように意思確認していきますので、心情に変化があったらどんなことでも話してください。慎重な判断が必要な大切なことですので、遠慮なく話してくださいね」

ここで終わった。
部屋を出る時、院長先生が呼び止めた。

「今後、もし可能であればですが、女性としての容姿で来てみてはどうでしょう。もちろん無理しなくていいですよ。ご自分で女性として外出する気持ちになれたらで構わないので」

院長先生の穏やかな笑顔に、勇気づけられた気がした。

車に乗り、ルームミラーで顔を見る。
次は二週間後。カウンセリングの前に診察だ。
二週間でどこまで準備ができるかわからない。
でも女性としての容姿で来たいと思っている。
何をどこまでやるかは友達に相談してみよう。
でもその前に、息子に見てもらわなければ。まずはそこからだ。

二週間後の自分を想像しながら、母親の顔に戻り、家路を急いだ。

性同一性障害のカウンセリング 第二回

2020年05月20日 | 男から女性へ💁🏻‍♀️
診察室へ入ると、先生は席について待っていてくれた。
挨拶をして席につくと、前回のカウンセリングの後、自分でいろいろ考えたかと聞かれた。
改めて性同一性障害とは何か、自分がそういう状態なのかどうかを確認しながら、記憶を辿ったり、自問自答を繰り返した、と答える。

「自分でそうだって確信して受診開始しても、みんな自問自答して深く考えていくものなのよ。若い人はとにかく早く診断確定して治療を開始したいって人がほとんど。ある程度年齢が高い人はその時点での社会的地位とか立場もあるから、経験値が高いだけにここで深く考えていく。影響大きいからね、反対の性別で生きていくっていうことは」

まさにその通り。
それまではただ単純に自分の身体に対する違和感のことばかり考えていたし、どうすれば払拭できるのか、違和感なく生きていくためには女性になればいいのかとか、実際の解決策ばかりに目がいっていたと思う。
カウンセリング自体は他のことで受けたことはあったが、性別違和についての受診自体初めてなので、前回のカウンセリングの後は今までにないほど深く掘り下げて考えていた。
正直なところ、反対の性別で生きていくこと自体をそこまで現実に当てはめて考えていなかったのだと思う。
先生に対して安堵感が高いのか、それとも自分が初めてここまで動いたことでの依存心があるのか、この先生には正直に胸の内を話すことができることがありがたい。

「前回は小さい頃に性別違和を感じたこと、当時の辛かったところを話してもらったんだけど、今日は当時、どういう時に自分が女の子みたいだなと思ったかを話してもらえるかな」

思い当たることはたくさんある。
前回も話したが、好きなおもちゃや遊び、色の好みが、周りの他の男の子と全く違っていた。
例えば色。
今はそんなこともないとは思うが、当時は男の子は青系、女の子は赤系が半ば自動的に割り振られる。トイレや鞄、洋服の色もそうだし、小さい子が使うちっちゃくて可愛いお箸やフォーク、スプーンもそうだ。

幼稚園の頃、お絵かきの時間に自分の好きなものの絵を描いてと言われて苺を描いた。
描き終わると先生が褒めてくれて、“よくできました”と書いてあるシールを貼ってくれる。男の子は青、女の子は赤のシールだった。
青いシールを貼られるのが嫌で、先生に赤いのを貼って欲しいというと、男の子は青でしょと言われてそのまま貼られた。好きになれなかった。

近所に住んでいる母方の伯母が、私が洋服を買ってもらえないのを知っていて、従姉妹と一緒に買いに連れて行ってくれた。デパートの子供服売り場には、男の子は全て青系の物しかなかった。選べずにいると、伯母が好きな色は何か聞いてくれた。赤とか桃色が好きと言うと、女の子の洋服が並んでいるハンガーと棚から好きな色の服を選ばせてくれた。
伯母の家につき、従姉妹と一緒に着替えた。薄いピンクのシャツと少し裾が広がったショートパンツ。嬉しかった。
そのままの服装で家へ帰った。叔母と従姉妹と一緒に家へ入り、母に新しい服を着た私を見せて、喜んでいる私の様子を話してくれた。しばらくして二人が帰ると、母は乱暴に服を脱がせ、天袋に放り込んだ。手が届かない。諦めるしかなかった。

幼なじみの男の子がいた。
家はすぐ近所で、そこの家族もよく知っていた。幼なじみは活発な男の子だった。いつも外で遊んでいるので、明るい時間はよく遊んでいる公園へ行けば、大抵そこにいた。
私がお家遊びが好きなことを知っていたので、遊びに誘う時は迎えに来てくれて、その子のお家で遊ぶようになっていた。
彼のお姉さんはかなり歳が離れていて、私たちが通う幼稚園の先生をしていた。いつも綺麗にお化粧をしていた。憧れの存在でもあった。
お家へ遊びに行くと、お姉さんがおやつを作ってくれたり、世話を焼いてくれた。
ある時、お姉さんの部屋で遊んでいると、三面鏡の前にお化粧品が並んでいるのに気がついた。ちらちらと見ていると、お姉さんが口紅をとって、私の唇へ綺麗に塗ってくれた。髪留めもつけてくれた。鏡に映る自分の顔を見た。控えめな赤色の唇が艶々になっていた。嬉しかった。

幼稚園の友達や、周りの人から、女の子みたいで可愛いと言われることが多くなった。色の好みも遊びも、服装も、自分が好むものは全て女の子のもので、それを選ぶ自分は普通のことだと思っているのに、周りからは“女の子みたい”と言われるのが不思議だった。
自分が女の子みたいな男の子だと自覚した。

「なるほどね。もうその頃には完全に性別違和があったっていうことよね。昔は男は青、女は赤って自動的に決まってたもんね」
「そうですね。馴染めなかったんですよ。もう何十年も前のことなのに、そういうことって覚えてるんですよね」

45年も前のことをよく覚えているもんだと自分でも感心したが、それほど違和感が印象深かったのだと思う。それを理解してくれた人とのこともよく覚えている。

「身体についてはどうだったの?」

身体的特徴。要するに生殖器だ。
そのくらいの歳頃だと、男女関係なく一緒にお風呂へ入ったりする。もっとも、自分の家では身体の洗い方だけ口で言われて、あとは全て自分でやるしかなかったので、覚えている範囲でも幼稚園生の頃から一人でお風呂に入っていた。姉は母親と一緒に入っていたが。

従姉妹の家にはよくお泊まりをさせてもらっていた。最初は母が何か用がある時などだけだったが、私がいない方が可愛い娘と二人きりで良かったのだろう、少なくとも週に二日はお泊まりに出されていた。
従姉妹の家ではいつも一緒にお風呂へ入っていた。叔母と従姉妹と私の三人で入り、お風呂の中で遊んだり、歌ったりするのが楽しかった。
お風呂で身体を洗っている時、従姉妹と私の身体が違うことに気がついた。伯母はこれが男の子、これが女の子と言って、わかりやすく教えてくれた。
不思議だった。なぜ私の身体には従姉妹と同じものが付いていないのか。ここが違うだけで男のと女の子は違うものと判別されることも不思議でならない。従姉妹が羨ましかった。
伯母は自分の胸を私に見せて、女の子が大人になるとおっぱいがおっきくなって、これで赤ちゃんを育ててあげるのよ、と教えてくれた。あなたもおっぱいで育ったのよとも言っていた。記憶になかったが、そう言うのであればそうなのだろうと思った。自分も大人になればおっぱいが出来て、股の間の変なものも女の子のみたいになるのかな、なればいいなと思った。

お風呂から上がると伯母は私の部屋着にと花柄のワンピースを用意してくれていた。パジャマも同じ柄で、たぶん伯母が手縫いで作ってくれたものだと思う。従姉妹は色違いで、二人でいると姉妹のようだった。
女の子のお洋服を着れば、私だって女の子になれるだろう、と思った。

「もうその頃から自分は女の子なのになんでっていう疑問があったんだね。性同一性障害の人って、特に幼少期にそういう感覚や考え方を持っていることが多いの。あなたの場合も当てはまるもんね。当時はもちろんだけど、童顔だから今も年齢よりかなり若く見えるし、多分青年期なんかもちょっといじれば女性に見られたんじゃない?」

中身は51歳のおじさん。
先生が言う通り、確かに若く見られるし、おばさん顔と言われるくらい、顔つき自体、厳つさがないらしい。加えて第二次性徴期に声変わりが遅く、喉仏は未だに全く出ていない。二十代の頃は声が高くて女の子みたいとよく言われていたので、当時は男として生きていかなければと思っていたこともあり、意識して低い声を出すようにしていた。
今は気にせず、普通のトーンで話をしているので音域が高くなってはいるが、加齢の影響で昔よりは低いとは思う。

「そういえば喉仏ないもんねぇ」

先生が前屈みになって私の喉元を見る。なんとなく照れ臭くて笑うと、先生も笑ってくれた。

ここで終了となった。
次回はもう少しあと、小学生の頃の様子を聞きたいと言われた。ここは複雑な事、嫌な事も多かったので少し気が重くなったが、話すことで共有感が出るからなのか、三回目のカウンセリングの日程を決めると、ちょっと楽しみに思えた。

帰りの車。
幼少期の事はとっくに乗り越えたものと思っていたが、先生に話したことで完全な過去として整理がついたような気がする。不思議なものだ。

次回は一ヶ月後。
それまでに話す内容を整理しておこうか。
いや、あえて考えないようにしよう。

今は夜ご飯の献立をどうするか。
ルームミラーに映った顔で、母親モードに切り替わったのがわかる。
安堵と高揚でアクセルを少し深く踏み込んだ。