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「天才バカボン」おまわりさんは偽警官?

2024-01-18 20:18:00 | 赤塚不二夫
赤塚作品の名脇役No.1といえば?と聞かれたら、おそらく僕は「目ン玉つながりのおまわりさん」と答える。

一般的には「本官さん」の名前でも知られる、「日本一ピストルの弾を消費するおまわりさん」とも言われる、あの人だ。

ところで、皆さんは彼について、こんな話を聞いたことはないだろうか?

言い回し自体は様々にあるが、ざっくり言えば、
「あの人は私設交番のおまわりさんで、民間人が警官のふりをしているだけ」
…というような話だ。

これは結構いろんなところで語られており、意外と有名な話であるようだ。
赤塚ファンとして気になるところもある件なので、今回はこの話題について取り上げてみたい。
一応は一ファンによる解釈に過ぎないので、そこは注意されたし。


さて、目ン玉つながりのおまわりさんは偽警官であるという件についてだが、結論から述べると、
「誤情報やデマなどではないが、誤解が含まれている」
と言いたい。

最初に、僕は赤塚作品名脇役No.1を挙げるなら目ン玉つながりのおまわりさんを選ぶ、ということを述べた。
これは、そのキャラクターに個性が濃縮されているから、というのもあるが、「おそらく赤塚キャラの中でレギュラー出演作品数最多」というポイントが大きい。
「天才バカボン」への登場が最も知られており初出もそこでほぼ間違いないわけだが、それ以外にも彼は数多くの赤塚作品に登場しており、これが今回の偽警官の件においても重要になってくる。

まず、赤塚不二夫先生本人による正規作品にて、目ン玉つながりのおまわりさんを偽警官として描いた作品がある、これは間違いなく事実である。
しかしそれは「天才バカボン」ではなく、赤塚先生の別の代表作「もーれつア太郎」での話である。

現在は「警官の生活らくじゃない」というタイトルで単行本にも収録されており比較的容易に読めるエピソードにそれは描かれている。
(週刊少年サンデー1970年6月21日26号、竹書房文庫第7巻、ebookjapan第10巻)

ある日交番に10万円の落とし物が届けられ、おまわりさんは大喜び。交番を臨時休業にし、妻と息子を連れてその10万円で外食に出かける。実はあのおまわりさんの交番は個人経営であり、民間人が警官になりすまして落とし物で生計を立てていたのだ!という衝撃の事実が明かされる…といった内容だ。

間違いなくこのようなエピソードは存在しており、内容が衝撃的な上にしっかり証拠画像もあるため、どんどん独り歩きして広まっていったんだろうと思う。

だが先に述べた通りこれはあくまで「もーれつア太郎」での話であり、「天才バカボン」には同様のエピソードはない。
また、「天才バカボン」の方では、目ン玉つながりのおまわりさんの交番に新任の警官が赴任してきたり(「おまわりさんのシンマイなのだ」)、警官としての彼をクローズアップし一時的に警官をやめた彼の苦労なども描いたエピソードがあったり(「拳銃をすてた目ン玉警官なのだ」)と、本物の警察官であるとみられる描写が散見される。

そして当の「もーれつア太郎」においても微妙なところなのだ。
「警官の生活らくじゃない」が掲載されたのは、週刊少年サンデー1970年6月21日26号。これは「もーれつア太郎」サンデー連載分最終回の一つ前にあたる。次週に掲載された最終回「キョーレツかわい子ちゃん」にはおまわりさんは一切登場せず、"偽警官"設定が掘り下げられたこともない。
それ以前のエピソードでも伏線のようなものや偽警官であることを裏付けるような描写も特にないのだ。
かつ、こちらもこちらで、本物の警察官でないと不自然な描写がいくつかある(「ニャロメのいかりとド根性」「ニャロメがうばった警官のピストル」など)。

赤塚漫画は基本的にギャグ漫画であり、その場限りの設定や描写というのは多くある。
イヤミがおまわりさんになったり、デカパンがギャングのボスになったり、チビ太が教師になったり…など、主に「おそ松くん」で見られる"スターシステム"もそうだが、「天才バカボン」ではパパでさえ一度明確に死んだことがある、と言えばわかりやすいだろう(「実物大のバカボンなのだ」)。当然、次の回ではまたピンピンで現れる。食べられても別の回では復活するウナギイヌも同様だ。
そして「もーれつア太郎」でも、レギュラーキャラであるココロのボスが突然とある会社の社長として登場し、ニャロメがそこの副社長になるというオチがつく話がある(「ニャロメを消せ」)が、勿論そんな設定は後にも先にもこの回でしか出てこない…なんて例がある。

おまわりさんが偽警官だという設定も、これらと似たようなものと考えていいのだ。

以上をまとめると、

・目ン玉つながりのおまわりさんが偽警官であるという設定が登場したことは確かにある。
・しかしそれが描かれたのは「天才バカボン」ではなく、「もーれつア太郎」である。
・いずれにしても、その回限りの設定と考えた方が良い。

といった感じになる。
あくまでギャグとしてそういう話があったというだけで深く考えるものではない…と、そう思う。

知ってる人からすれば「何を今更」というような話題だったかもしれないが、ぼんやりとこの噂を把握していた方にこの記事がある種の"気づき"となれば幸いである。


これは補足になるが、アニメは例外である。
「警官の生活らくじゃない」は、「もーれつア太郎」アニメ第1作の第87回放送分にて「ニャッポン一のへんな交番」としてアニメ化されており、原作同様、おまわりさんが偽警官であるという事実が明かされる内容になっている。それ以前の話に伏線や裏付ける描写がないというのは原作と同じだが、明かされるのみでそれっきりであった原作とは異なり、アニメではそれ以降の話数では一貫して"偽警官"という設定で登場するようになっている。