◯ アップル一強を切り崩せるか !
「Amazfit」(アマズフィット)ブランドのスマートウオッチを日本市場に投入している中国のZepp Health(ゼップヘルス)は、注目が高まっているスマートリングデバイスの「Amazfit Helio Ring」を国内に投入するとともに日本法人を設立。日本市場に注力する姿勢を見せている。
国内のスマートウオッチ市場は、米Apple(アップル)の「Apple Watch」シリーズが圧倒的なシェアを握っている。ゼップヘルスはどこに商機を見出したのだろうか。
スマートリングの新製品を投入。
国内でも利用が増えているスマートウオッチ。いくつかの調査を見ると日本の市場シェアは、「iPhone」シリーズの高いシェアにけん引される形で、Apple Watchが過半数を占めているのが現状のようだ。
ただスマートウオッチのプレーヤーは年々増加傾向にある。その1つがゼップヘルスである。
同社はAmazfitブランドでスマートウオッチを世界的に展開しており、国内でも既にいくつかの製品を販売している。スポーツや健康管理に特化したスマートウオッチに力を入れているのが特徴だ。LTEによる通信機能や決済機能などは搭載しない代わりに、5万円以下の比較的購入しやすい製品を多く取りそろえ、国内でも利用者を徐々に増やしているようだ。
同社は華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)や小米科技(シャオミ)といった同じ中国の競合とは異なり、これまで日本法人を設立していなかった。アースリボーンという代理店を通じての販売にとどまっていた。それ故日本市場に対する力の入れ具合は、競合ほど強くないと見られていた。だが、その戦略を大きく転換するようだ。
ゼップヘルスは2024年7月30日に記者向けラウンドテーブルを開催し、国内市場に向けた2024年下半期の事業方針を説明した。その中で明かされたことの1つが、新製品Amazfit Helio Ringの国内投入である。2024年秋ごろを予定している。
Amazfit Helio Ringは、スマートリングと呼ばれる指輪型デバイスの一種。リングの内側に心拍数や温度、皮膚電気活動(EDA)などを測定するセンサーを備えている。これにより睡眠やフィットネス、ストレスなどの状態を測定できるので、健康管理に役立てられるという。
こうした機能はスマートウオッチも備えている。だがスマートリングはスマートウオッチよりも小さい。また指に装着するので、装着時に体にかかる負担が小さくストレスを抑えられる。
それ故同社では、Amazfit Helio Ringと同社製スマートウオッチのデータを統合できる仕組みを用意。場面に応じてそれぞれのデバイスを装着し、身体情報を測定できるようにしているという。
日本法人の設立でブランド認知の向上へ。
ゼップヘルスのラウンドテーブルでは、既存スマートウオッチの価格改定も明らかにされた。同社は2024年8月1日から5製品の販売価格を戦略的に変更する。中でも最も値下がり幅が大きいのが、ランニングに注力した「Amazfit Cheetah」と「Amazfit Cheetah Pro」の2モデルである。共に価格が1万5000円引き下げられ、それぞれ2万4900円及び2万9900円で販売される。
今回値下げされるのは、およそ1年前に発売されたモデルが多い。だが2024年3月発売の「Amazfit Active Edge」のように、比較的新しいモデルも対象になっている。円安などによる値上がりが進む中にあって販売価格を引き下げるのは、日本市場の開拓に力を入れていることを示している。
そしてもう1つ、戦略面で大きな施策となるのが日本法人の立ち上げである。ゼップヘルスはこれまで日本法人を設けておらず、販売代理店を通じて販売していた。2024年7月にゼップヘルスのジャパンゼネラルマネージャー、つまりは日本側の代表に薗部晃二郎氏が就任。さらに2024年の10月前後には日本法人を立ち上げる予定だという。
薗部氏は、日本でのアンバサダーを起用するなどしてブランド認知を高める活動を進める方針を明らかにしている。というのも薗部氏は、日本でのAmazfitブランドの認知度が低いことに課題感があるとしているからだ。日本法人の立ち上げとともにブランド認知の向上、そして販売向上に向けた積極的な施策を打っていく考えのようだ。
主要なスマートウオッチメーカーは日本法人を設立している。ゼップヘルスが競合に本格的に対抗するためには、日本法人の設立が必要不可欠なことは間違いない。日本のユーザーの声を聞いて、現地に根差した戦略を取る必要があるからだ。
ただ先にも触れた通り、日本のスマートウオッチ市場はアップルが圧倒的なシェアを獲得している。なおかつ少子高齢化で人口が減っているので、市場拡大の余地はあまり大きくないように見える。
アップル一強でも日本市場には開拓の余地。
では一体なぜ、ゼップヘルスはこのタイミングで日本法人を設立するに至ったのだろうか。薗部氏は理由の1つとして、市場としてのポテンシャルが高いことを挙げている。日本人は健康意識が高い傾向にあるので、健康管理に特化した同社製品のニーズは高いと見ている。
それに加えて、アップルが圧倒的なシェアを持っていてもなお、日本では市場を開拓できる余地があるためと薗部氏は答えている。例えば韓国の場合、アップルに加え韓国Samsung Electronics(サムスン電子)の2社で9割近いシェアを取っているため、開拓の余地は小さい。
だが日本の場合、アップル以外の複数のメーカーが数パーセント程度のシェアを獲得している。ゼップヘルスも代理店販売経由での販売のみながら、これまで市場の3~5%程度のシェアを獲得できているという。今から市場開拓を進めても、シェア拡大の余地が十分あると判断したようだ。
とはいえ日本でのシェアを高めるためには、従来の販売代理店経由では限界があるという。従来ゼップヘルスは、日本を含むAPAC(アジア太平洋)地域の戦略は、本部機能がある中国で担っていた。だが「日本市場はユニークで難しい。それを理解していないまま本部で戦略を立てても、市場を取ることは難しい」と薗部氏は話す。
その一例として示したのが、2024年6月に販売された「Amazfit Bip5 Unity」の販売戦略である。価格は1万円台で、同社製品ではエントリークラスに位置する。ゼップヘルスでは収益性などの観点から、この製品をECサイト限定で販売している。日本でも同様だ。
だが薗部氏は、「エントリーモデルの製品は、広く消費者に購入機会を提供するべきだと思う」と話し、日本では2024年9月から実店舗で扱う方針を打ち出している。販売戦略面で機会損失が生じていると感じる部分を改善していくことが、日本法人の大きな役割となるようだ。
それ故日本法人の設立後は、Amazfitブランドとスマートウオッチが消費者の目に触れる機会は増える可能性が高いと考えられる。ただスポーツや健康管理に重点を置いた手ごろな価格のスマートウオッチで市場を開拓するという戦略は、より規模が大きいファーウェイ・テクノロジーズや、最近であれば米Garmin(ガーミン)なども力を入れてきており、競争が激しくなってきている。
そして何より、日本においてはApple Watch、ひいてはアップル製品にしか興味を示さない消費者をいかに切り崩すかという非常に大きな課題がある。より日本に根差す戦略を取る決断をしたゼップヘルスだが、越えるべきハードルはまだまだ多い。