アルバム・カバー曲5曲めは、美空ひばりさんの「ひばりの佐渡情話」です。Kiinaの歌唱はこちら↓
https://m.youtube.com/watch?v=LxA_G9DICvo
歌詞は歌ネットより。
https://www.uta-net.com/song/198769/
1962年、ひばりさん主演の映画「ひばりの佐渡情話」の主題歌として発表されました。
この曲には、下敷きになったふたつの物語があります。
1)ひとつは佐渡に伝わる悲恋です。佐渡の漁師の娘が、海の向かいの柏崎から仕事に来た船大工の男と恋仲になった。仕事が終わり男は柏崎に帰っていったが、娘はたらい舟を漕いで夜な夜な柏崎まで逢いに行く。実は妻子があった男はその執念が怖くなり、ある晩目印になる岬の常夜灯を消してしまう。目印を失った娘のたらい舟は海を彷徨い、とうとう沈んでしまう。深く後悔した男も海に身を投げて娘の後を追う、という物語です。
2)この伝説を下敷きに、新潟県出身の浪曲師の寿々木米若さんが台本を制作し大ヒットしたのが、浪曲「佐渡情話」です。
浪曲では、娘に横恋慕した島の男にたらい舟を壊され、柏崎に渡れなくなった娘は気が狂ってしまったまま子供を産むが、ある日島を訪れた高僧の助けで正気に戻り、やがて恋人も佐渡へ戻ってくれて再会するというハッピーエンドになっています。
この浪曲としての「佐渡情話」が広く知られているので、映画も曲も「"ひばりの"佐渡情話」というタイトルになっているのでしょう。ひばりさんの数ある曲の中でも難曲中の難曲ですね。
船村徹先生がひばりさんに挑むように作られた複雑なメロディー構成になっています。この2年前に発表されて大ヒットした「哀愁波止場」と同様にひばりさんの美しいファルセットが耳に響きます。
ひばりさんを「世界的な歌手」と大変高く評価されていた評論家の吉本隆明さん(ばななさんのお父様)は、この曲の冒頭部分について「〜高い声で伸ばす部分がある。音に過ぎないのだけれど、ひばりは言葉として歌い、日本の聴衆は言葉として聴いている。美空ひばりさんの歌い声は単なる音でなく、表面に表れない意味がいっぱいに詰まっている。」(「現代日本の詩歌」毎日新聞社刊)と、古くから虫の声や風の音を情緒として捉えてきた日本人の感性に結びつけて論じられました。
「日本現代思想の巨人」とも称された吉本さんの心をも掴んで離さなかった「ひばりの佐渡情話」。ひばりさんは冒頭部分を含め随所にファルセットを駆使することで、叶わぬ恋の辛さ切なさを切々と歌い上げています。
この難曲に挑んだKiinaは、カラオケ誌のインタビューで「まだまだだな、と言われるのは分かってはいても、挑戦したかったんです。やっぱり名曲であり難しいですね。でも偉大な美空ひばりさんを常に感じていたいな、と思いまして、畏れ多くも歌わせていただきました」とお話ししています。
ファルセットが聴かせどころでもあるこの曲を、Kiinaは全編地声で通して歌っています。Kiinaご本人なりレコーディングスタッフなりの考えがあって、敢えて「地声で」としたのでしょうね。Kiinaの中では未熟・未完成の部分があったとしても、この歌はしっかり「"きよしの"佐渡情話」になっていたと思います。
いつか、ファルセットで歌う「佐渡情話」も聴いてみたいです。Kiinaのファルセットは絶品ですから。
ところで。
この翌年の「旅サラダ」のKiinaのロケは、偶然にも佐渡でしたね。楽しそうにたらい舟を漕いだり稲刈り経験したしたり…
そんな楽しいロケの中、厳粛な表情で歌っていた「佐渡情話」が忘れられません。いったん気持ちを切り替えて襟を正して歌う。ひばりさんの曲はKiinaの中でそれだけ重みを持っているのだと思いました。