カバー曲の最後を飾るのは、三波春夫さん「大利根無情」です。
https://columbia.jp/artist-info/hikawa/discography/COCP-34503-4.html
Kiinaの歌唱はこちら↓
https://m.youtube.com/watch?v=Y6HDQi7p5A4
歌詞は歌ネットより。
https://www.uta-net.com/song/230986/
Kiinaは、このアルバムに収録する前に2001年のファーストコンサートでこの曲を披露していますね。セリフの部分は司会のガダルカナルタカさんだったかな?
レコーディングしていない曲を敢えてセットリストに入れたのは、「氷川きよしは、この若さで『大利根無情』を歌えるほどの大器だ』と」世間へ向けてのデモンストレーションの意味もあったのかなと思います。
そして、23歳のKiinaは見事にこの難曲を歌い上げてみせました。
「大利根無情」は、実在した人物が主人公です。
天保年間に下総に一家を構える笹川の繁蔵と飯岡の助五郎の間に大喧嘩があり、笹川の繁蔵側の死者として平手造酒(本名は違うようです)の名前が記録されていたことから、講談や浪曲を介して現在までその名前が残りました。
江戸時代、家を継げない下級武士の次男、三男は他家へ婿養子に入るか、腕に覚えがあれば剣の技を磨き剣術師範として迎え入れられるかしか生きる道がありませんでした。
紀州から江戸の千葉道場で修行を積んだ平手造酒は、あと一歩で師匠から仕官先を紹介してもらえるというところでしくじり、流れ流れてやくざの食客に身を落とした挙句に無惨な死を遂げました。
そんな人生を送るしかなかった浪人は、この時代数えきれないほどいたのでしょう。
たまたま平手造酒だけが"やくざがらみ"で後世まで名を残すことになりました。
去年の90公演に及ぶ劇場公演で、Kiinaは「悪い奴を斬るだけの立ち回りはしたくない。悪い人にも悪くなっただけの理由があるはず。自分は悪人がひとりも出てこないお芝居をやりたい」と、繰り返しお話ししていました。
その言葉に私はガツンとやられました。
石松さん、一心太助、銭形平次、め組の辰五郎…どれだけ回数をこなしても、Kiinaの立ち回りには目覚ましい進歩が私には感じられませんでした。
時代劇の一番のクライマックスは派手な立ち回りというのがお約束ですから、正直もどかしくも思いました。
そのはずです。
立ち回りとは、どれだけ華麗に相手を斬るか、に尽きます。
「この人はどんな人生を送ってきたんだろう」「本当は悪い人じゃないんじゃないか」などといちいち考えていたら、人は斬れません。
時代劇の劇場公演に斬られ役は必須ですが、大抵は用心棒の浪人か悪徳役人の下役。
言ってみれば、一人ひとりが平手造酒と同じような「うまく行かなかった人生」を生きて、ただ彼のようには名前を残せなかっただけなのです。
Kiinaは、「悪い人にも悪くなった理由がある」と考えたでしょうし、同時に「悪い人だからといって、殺していい理由にはならない」とも考えたのでしょう。
つくづく「Kiinaらしいなぁ。これが私が知ってるKiinaなんだなぁ」と思います。
それはそれとして。
Kiinaの「大利根無情」は、10曲に及ぶバラエティー豊かな「昭和の名曲の満漢全席」のアルバムの掉尾を飾るのに相応しい、堂々たる大人の歌声でした。間奏に入るセリフも立派でした。
写真は2014年に大庄町の資料館を訪ねた時のものです。