「甲州路」Aタイプのカップリング曲は股旅ものの「藤枝しぐれ」です。
KIINA.の歌唱はこちら↓
歌詞は歌ネットより。
作詞は「最上の船頭」「越後の雪次郎」の松岡弘一先生、作曲は水森先生です。
ゆったりとしたテンポの一見オーソドックスな股旅もののようですが、とてもストーリー性に富んでいて心惹かれる作品です。
「箱根八里の半次郎」のような若者ではなく、恐らくは中年に差しかかった頃合いの渡世人が旅の途中で道を尋ねられます。渡世人風であっても荒んだ様子ではないので、幼い子を連れた旅の女性も警戒せずに声をかけたのでしょう。
よく知っている道だからと、暫しの間の道連れ。
コブシの回ったKIINA.の美声を聴きながら、勝手にふたりの人生を想像します。
女性は幼い子どもを連れての心細い旅。夫が藤枝辺りに職を見つけて妻子を呼び寄せたのか、或いは夫に先立たれてこれから遠い親戚に身を寄せるのか。
また主人公は何故故郷の藤枝を捨てたのでしょう。子どもを病気か何かで亡くして、妻を実家に戻してしまったか、もしかしたら妻も子も流行り病か何かで同時に亡くして、すっかり人生に希望を失って故郷を離れたのかもしれません。
ほんの短い旅の道中でも、子どもはすぐにおじちゃんに懐いてまとわりつく。かつて我が子にそうしたように肩車などもしてあげたかもしれません。
藤枝に向かう晩秋の東海道。
3番の最後の「お達者で」というセリフが沁みます。我が子を亡くした主人公にとって、心の底からこの母子の健康と幸せを願う切実な言葉だったのでしょう。
故郷を目の前にしながら、そこへ足を踏み入れることをせず踵を返して立ち去る主人公。股旅映画のワンシーンを見ているようです。
「三味線旅がらす」のような名曲とも少し趣きが異なりますが、聴いていてこの主人公の孤独に心を寄せてしまう、大好きな作品です。
劇場公演では博多座からこの曲をセットリストに入れてくれました。