王曰く、仏、何れの戒有りや。
師曰く、二百五十戒有り。
王曰く、首戒は云何。
答えて曰く、第一、当に慈仁に遵うべし。普ねく恵恩、群生に及ぶ。天下の群生の身命を視るに、己れの身命の若くす。慈済悲愍して己を恕し、彼の道を安じて開化を喜ぶ。彼の若しくは身を護し、草木を潤逮す。虚杭の絶するは無きなり。
『仏滅度後棺斂葬送経』
この経典は、涅槃部経典ということからも分かる通り、世尊が入滅された際の葬儀法について遺言された部分を特に強調した内容である。大概は、『遊行経』系の各種経典の様子を見つつ、学ばれることかと思う。
それで、涅槃部経典の特徴の1つに、戒について示すという側面があるのだが、上記内容もまた、そういう理解で良いと思う。とはいえ、他の経典と違っているのは、ここで戒について尋ねるのが、この地(クシナガラ?)の王だということだろう。そして、「師」とは世尊自身のことではなくて、別の沙門のようなのだが、阿難尊者なのだろうか?
ただ、ここで答えについては、非常に秀逸であり、つまりは世尊には二百五十戒を定められたのだが、その首戒(第一の戒)とは何か?と尋ねたところ、それは「慈仁に遵う」としている。つまり、慈悲の行いだということになるのだが、具体的な行いは、他者の命を守る、つまりは不殺生だとしているのである。
ところで、たいがい、二百五十戒として考えると、最初には「四重禁(四波羅夷)」が来ると思うのだが、そう考えると、実は「不婬戒」が最初に来るはずが、こちらは不殺生が先となっており、少しずれているのである。ただし、何故そう説かれたかの理由も考えてみると、相手は在家者の「王」であるから、そうなった時、教団内に於ける最大の問題になるかも知れない不婬戒よりも、不殺生を説いたということもあったのか?とか考えた。
なお、この訳経では「首戒」という表現がされているが、これは意外と珍しい表現であり、他の漢訳仏典では確認出来なかった。もちろん、意味としては「第一の戒」ということなので、類似した用語が無いわけではないが、概念として探すのは少し困難であった。ついでに申し上げれば、この経典自体、訳語も含めてかなり独特な印象を得た。
でも、内容は後代の中国で成立した仏典で一定量引用されているから、注目されたこともあったのだろう。
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