前回は、或る作法書の一節を紹介したけれども、今回は拙僧自身が持っていた作法書写本に、或る記述を見付けたので紹介しておきたい。
黄昏に至て戒弟之婦人と尼僧は下宿に下山致さすべし。此時下宿にても開静迄は加行致すべしと申渡すべし。
『直壇寮指南記 戒会用心』、カナをかなにするなど読み易くしている
このように、黄昏(夕方)になると、戒弟の内、在家の女性と尼僧さんは、下宿に下ろしたと書かれているのである。つまり、夜の間は寺院とは別の場所に泊めたことを意味する。しかし、一方で夜間の加行は行うべきだという。なお、この作法書では、具体的には歎仏が行われていたようであるが、役目の僧侶を下宿に派遣して行わせたのか?或いは尼僧さんに行ってもらったのか?詳細は分からない。
なお、現代でも授戒会を行う場合に、戒弟さんを寺内に宿泊させる場合もあれば、夜間はそれぞれ帰ってもらって、翌朝にまた来てもらう、という方式を採る場合もある。本来であれば、宿泊させるべきだということなのかもしれないが、上記のような記録を見ると、江戸時代から既に、一部の戒弟は通い、ということが常態化していた可能性もある。
また、この辺は「代戒」の発達なども考えておきたいところである。要するに、本人の体調や日程などの問題で、直接随喜が出来ない場合に、誰かに代わりに受けてもらう方法である。つまり、道場に絶対にいるということが、授戒の条件になっていないのである。曹洞宗の授戒会は、広く人々に受けてもらうことに特化されていったのである。
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