つらつら日暮らし

江戸時代の授戒会で随喜していた女性はどうしていたのか?

江戸時代に幕府から出されていた法度の関係で、男性住職の寺院に女性が、女性住職の寺院に男性が宿泊することは出来なかった。以下の通りである。

一 他人は勿論、親類の好これ有ると雖も、寺院坊舎に女人これを抱置すべからず、但し有来妻帯は各別なるべき事。
    『諸宗寺院法度』「条」段、分かりやすく訓読した


この『諸宗寺院法度』は寛文5年7月11日に徳川家綱による署名でもって「定」が、また老中の連署によって「条」が定められている。今回取り上げたのは後半部分に当たるものだが、上記の通り、寺院においては(どうしても男性住職が多いので)女性を置いてはならず、それは親戚などにも規制が及んでいた。

さて、そうなると気になるのは、授戒会の加行で約7日間寺院に滞在するのだが、その場合、女性はどうしていたのだろうか?その辺が気になったので、ちょっと調べてみた。

 同一仏戒といへども、受る機の方に就て、差別の品あり。これに依て、洞上室中の祖伝に、国王授戒法、竜天授戒法、出家授戒法、在家授戒法等、皆格別なり。
 出家といへども、洞上の祖位を嗣ぐべき僧の、伝戒の式と、常の僧中には、他宗他派も混ずれば、授戒の式も、又別格なり。梵網の二十類も、同室の授受にはあらず。これ僧俗男女、混雑せざる証拠なり。況や事相の法は差別を以て向上とす。
 爾るを、今時の禅門戒会、伝戒授戒の差別をしらぬのみならず、僧俗男女の差別を混じて、在家の男も女も、出家の授戒も伝戒も、一室に行て、これを非法なりと怪むこともしらぬは、文盲の至りと云べし。太だしき戒師は、男子も女人もみな伝戒の師位を譲て、須弥に昇せて、諸仏の位に入と云はこれなりと教ふる愚盲もあり。これは洞上の室内の戒式に、古来より大儀軌・小儀軌の差別あるを不知ゆへなるべし。永平祖の時にも、衆僧及び在家の授戒多し。ゆへに伝戒の大儀軌あり。衆僧授戒の小儀軌に、口訣ありて、在家男女の授戒法は、わかるるなり。ゆへに、古来より、伝戒の僧類は一室なり。授戒の僧類は一室なり。在家の男女は一室なり。また男ばかり一室に、女ばかり一室にも授く。この女類ばかりの一室の時は、授戒了畢の男子一両人戒室に入れて、警護せしむ。これは女人ばかりと、同室せぬ、仏説に順ず、如法の儀なり。
 しかるを、今時の禅門戒会それをしらぬ所は、僧俗男女一室に混ずるゆへに、弱気男子女人等は、授戒と云に付て、戯言を密語し、匿笑搪揬して、不如法の慚愧にたへがたきもあること、このごろ見聞す。これ根本を失却して、仏祖の法式を不知ゆへに、凡夫の愚案にて、理事の訣を昧まし、祖訓に背て、非法を行ず、悲むべし。その上に悪見解を出して云、僧俗男女同一仏性、同発菩提心にて、みな同一類の諸仏位に入る。ゆへに儀式にも、盧舎那の蓮華台に昇すべしと云戒師あるときく。これらは、善差別をしらぬ悪平等の族なり。古人云く、悪平等者、不同為同、善差別者分満不二、即離不謬なり、と。この悪平等の不同を同とすと云は、たとへば狗子の飯をも糞をも、一同に噉て、浄穢の差別をしらぬが如し。善差別と云は、右に反するを云なり。〈中略〉後来の師家は、戒室の男女混雑は、非と知て改むべし。
    面山瑞方禅師『若州永福和尚説戒(乾)』、『曹洞宗全書』「禅戒」巻、174頁上段~175頁上段、なおカナをかなにするなどし表現を改める。一部、人権問題となる用語も含まれるため、取り扱いには注意されたい。


江戸時代の学僧・面山瑞方禅師は男女について厳しく分けることを定めているが、上記一節は、あくまでも正授道場に於いて男女を分けるように定めているのであって、各晩に宿泊したかどうかについては知られない。そこで、関連した事柄で、部分的ではあるが明確に定めている一節を見出したので、確認しておきたい。

戒子の中、若尼衆あらば、昼るは戒子と同く加行を勤め、晩課了らば速に下山すべし、縦ひ塔主などえ夜宿を願とも、許るすべからず。
    『禅門大戒直壇指南』、『続曹洞宗全書』「禅戒」巻・500頁下段、見易く調えた


このように、尼僧さんがいた場合に、夜の宿泊を認めない場合があったことに注意しておきたい。この場合の「尼衆」は、戒弟として随喜している人という意味であり、授戒会の実施側ではなかろう。また、出家者のことのみを指していたと思われる。そうなると、気になるのが、在家の女性(優婆夷)についてである。それについては上記のような帰宅の指示が見えない。だが、先に挙げた法度は、在家者にも勿論適用されるため、帰宅をさせられたのかが気になる。

もし帰されていなかったとして、尼僧さんのみ帰されていたとすれば、その理由が何なのかも気になる。これも、他に同様の資料があれば見ておきたいが、現段階で分かったのは以上の通りである。

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