つらつら日暮らし

道元禅師の直弟子達が語る三学論

三学とは、戒定慧学のことである。曹洞宗では一般的に、三学一等などともいわれ、その典拠として道元禅師『弁道話』、瑩山紹瑾禅師『坐禅用心記』などが参照されるけれども、もちろん、それだけが三学への態度ではない。例えば、以下の一節などはどうか。

凡仏道に戒定慧三学あり、戒は業道を滅すれども凡悩を不断也、但仏戒と云時こそ無残所道理なれ、ゆへに菩薩戒仏戒尤可心得也、定は凡悩を断ず、又定多慧小あるべし、慧多定小あるべし、定はさき慧は後といふことあり、今の定慧等学明見仏性といはれは、これらにひとしからざる也、
    『正法眼蔵聞書』「仏性」篇、カナをかなにするなど見易く改める


こちらは、道元禅師の直弟子の1人である永興詮慧禅師によって書かれたとされる『正法眼蔵聞書』の一節である。いわゆる、75巻本『正法眼蔵』最初の註釈である。そして、何故、ここで戒定慧の三学を論じているかというと、以下の一節への註釈だからである。

いはゆる定慧等学の宗旨は、定学の慧学をさへざれば、等学するところに明見仏性のあるにはあらず、明見仏性のところに、定慧等学の学あるなり。
    『正法眼蔵』「仏性」巻


つまり、道元禅師は「定慧等学」を論じられたのだが、これは中国禅で語られた語句である。おそらく、古いのは南泉普願禅師と黄檗希運禅師との問答で、それを洞山良价禅師が採り上げたものである(『洞山録』所収)。そこで、道元禅師は定慧等学について、定学が慧学を妨げることは無いからこそ、等学のところに明見仏性があるわけではないとしている。むしろ、明見仏性のところに、定慧等学という学があるという。いわば、仏性を媒介に、定学・慧学、そして等学が現成しているのである。

さて、それを『聞書』の註釈では、戒定慧三学があるといいつつ、「戒学」にまで遡って検討されたのである。戒学とは、業道を滅する(つまりは、行いを改める)が、それで煩悩(原典では「凡悩」とあるが、誤記であろう)を断てるわけではないという。ただし、「仏戒」では「無残所」こそが道理である。その意味では、仏戒は煩悩を断つわけでは無いが、残らないことになる。よって、詮慧禅師は、「菩薩戒・仏戒」を心得るべきだという。

つまり、菩薩戒・仏戒とは功徳無尽なのである。

それから、定学・慧学の話へと進んでいるが、定学こそが煩悩を断ずるという。これは、実はこの通りなのである。戒学では無くて、定学にこそ、煩悩を断じる力がある。その上で、智慧(慧学)の効能は書かれていない。だが、ここでは「定多慧小あるべし、慧多定小あるべし」としている。これは、龍樹菩薩造『大智度論』巻50の「等定慧地」への註釈を受けたものである。『大智度論』では、菩薩は最初、「三地(菩薩十地の第三地)」を得る時には「慧多定少」であるという。一方で、その後はその反対になるというが、この多少のバランスの問題で、中々菩薩としての修行が進まないという。よって「等学」が問われるのである。

そのことを、「定はさき慧は後といふことあり」という表現もされているが、これらは否定的なのである。つまり、「今の定慧等学明見仏性といはれは、これらにひとしからざる也」とされるのは、道元禅師の本意である「明見仏性」からの定学・慧学・等学という等値的扱いなのである。いや、等値といっても、どこかに等しく扱うような基準があるのではない。各々が、各々に明見仏性であって、それらを外から眺めるような立場は存在しない。

だからこそ、以下の指摘があるのである。

抑定慧の二を置てこそ、等学とはいふべけれ、仏性の上に置て、等の字不用ににたれども、すでに定慧等覚を仏性と云つれば、仏性はやがて等学とは云はるるなり、
    『正法眼蔵聞書』「仏性」篇


この言説は、等学を外から眺めては得られない。むしろ、仏性を見ているからこそ、「やがて等学」なのである。「やがて」とは、「すぐに」の意味であるから、そこに違いはない。仏性は、等学なのである。そして、ここに「戒学」はどう関わるのだろうか?そもそも、定慧等学明見仏性とは、中国禅でいわれたことではあるが、典拠は『大般涅槃経』であろう。扶律談常の同経で「戒学」が入らない意義は無い。

拙僧つらつら鑑みるに、仏性の等学とは、そこに込められない学は無い。明見仏性の上に戒学もあるのである。それを、菩薩戒とも、仏戒とも呼ぶことは、明確に理解されるべきだといえる。

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