快読日記

日々の読書記録

「あなたと共に逝きましょう」村田喜代子

2009年08月25日 | 日本の小説
《8/14読了 朝日新聞出版 2009年刊 【日本の小説】 むらた・きよこ(1945~)》

2009年は、村田喜代子の新作が2冊も読めるうれしい年です。
「ドンナ・マサヨの悪魔」が"向こうから旅してきた者の話"なら、
この「あなたと共に」は"向こうへの旅仕度をそろそろ始める人の話"です。

主人公はいわゆる"団塊の世代"の女性で、ある日、夫が癌を患うところから話が始まります。

「生きている心臓は血走った赤い筋肉の袋のようだった。
ギュッ、ギュッ、ギュッ、と絞り込むような、揉み込むような複雑な動き方をしている。
私は今まで人が生きるというのを抽象的なことのように感じていたが、生きるというのはこんなに具体的なことなのだ。
心臓が拍動することなのである。」(224p)

とくに病に苦しむわけでも、戦争などで命が危機にさらされるのでもないわたしたちは、この「命の具体性」をついつい忘れてしまいます。
しかしこれを手放すと、空いたスペースに「生きてる実感」を求めるようになり、
「自分探し」の罠にはまったり「感動をもらいたがる/与えたがる人」になっちゃったりする率が高まります。
そこらへんはできるだけ回避したい。
地に足をつけて、自分の頭で考えて、自分の体で生き抜く努力をすれば、
anti-ageingではなくwith-ageingで年をとっていけるんじゃないか―――そんなことを考えました。
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