快読日記

日々の読書記録

「小銭をかぞえる」西村賢太

2012年07月29日 | 日本の小説
《7/28読了 文春文庫 2011年刊(2008年に同社より刊行された単行本を文庫化) 【日本の小説 短編集】 にしむら・けんた(1967~)》

収録作品:焼却炉行き赤ん坊/小銭をかぞえる

どちらも女と貧乏同棲していたころの話で、もうなんて言うか、ひどいんです。
ひどい男。ひどい話。
もし友達がこんな男と付き合っていたら、無駄とは知りつつ、「目を覚ませ! もっと自分を大切にしろ!」と一喝せずにはいられません。
女を罵倒する言葉は読んでて殺意が芽生えるほどだし、働かないし、金銭感覚もまったく理解できないし、面倒なことに志だけは持っていて、それにしがみついている、
「最低」の男。

でも、
帯にあるように「激烈におもしろい」んですね、これが。

あー! なんでだろう。

主人公が女に罵詈雑言を浴びせ、卑怯な計略をあれこれ練り、周囲の人たちに蛇蝎のごとく嫌われ(彼は必ず“イタチの最後っ屁”的暴言をお見舞いしてそこから逃げ去る)れば嫌われるほど、なんとも言えないおもしろさが突き上げてくる。

今回は特に、女に対するいろんな感情が逐一正確に説明されている(考えようによってはしつこいくらい)ところが読み応えありました。
そこには愛おしさや劣情が少しと、憎しみや軽蔑やめちゃくちゃに苦しめたいという(子供が母親を痛めつけるような)奇妙な欲求がたくさん。

自分の中のドロリと重たい穢いもの、みみっちく軽薄なもの、そんな“恥ずかしい部分”を詳らかにする覚悟と、それをこんなに“おもしろく”読ませちゃう離れ業。

猛烈に臭いんだけど猛烈においしい、みたいな。
「疼痛のような、小便を我慢しているような悲しみ」「酢を飲んだ悲しみ」というのは解説の町田康の言葉です。


→「苦役列車」

→「暗渠の宿」

→「廃疾かかえて」

→「西村賢太対話集」

/「小銭をかぞえる」西村賢太
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