アインシュタイン 第三章(3-1)

2020-08-22 20:19:51 | 小説
アインシュタイン
夕凪 鱗

それは、とある昼下がりだった。
昼食を終え、悠はリビングのソファーで寛いでいた。
リビングには悠の他に蓮がいた。
蓮はテーブルにノートパソコンを開いたまま置き、ソファーにもたれていた。
「こんな時代なのに平和だよな」
蓮は少し不謹慎かな…と、悠の顔色をうかがうように悠に視線を移した。
「そうだな。たくさんの人が死んでるのに、そんな中でも平和だと思える。俺たちの感覚が麻痺してしまってるのかも…。または現実から目をそらしているのか…」
悠は、ぼんやりとしながら言った。

「悠…?」
悠は蓮の視線に気づくと我に返った。
「あ…。いや、俺たちの仲間は誰も死んでないからさ。仲間が、もし目の前で死んでも平和だなんて思えるのかなって」
悠は苦笑いした。
確かに…今の俺たちには、他人ごとに思えてもおかしくないね」
蓮は微笑んで言った。
「悪い。不吉なこと言って。忘れてくれ」
「話をふったのは俺の方だよ。こんな時代に不謹慎だったよ。俺こそ、悪かったよ」
蓮は笑顔で言った。
悠はその笑顔に励まされるように笑顔になる。

蓮には、いつも励まされてばかりだった。
子供の頃から兄弟同様に育って、お互いのことはよくわかっている。
だから、遠慮なく甘えられる。
ただ、総理である橙悟が昏睡状態になってからは励まされてばかりで、少し甘えすぎかも…と気にはしていた。
それでも蓮と一緒にいると落ち着く。
「ありがとな」
悠は穏やかな笑顔で言った。
「また、それ?俺たちの間に、それはいらないって」
蓮はニッコリ笑って言う。

ふいにリビングのドアが開き、登士が入ってくる。
「よう。ここにいたか。悠」
言いながら登士はニヤリと笑った。
「登士。その顔は鍛錬のお誘い?」
蓮は悠を見ながら言った。
「俺、鍛錬って苦手なんだよな」
悠はため息をつく。
「何言ってる。焼野原に行くなら必要だぞ!葵達だって鍛錬の組手してるぞ」
焼野原に行くメンバーは鍛錬と称して、日ごろから体を鍛えたり訓練を欠かさないようにしていた。
しかし、もともとプログラマーでインドア派の悠にとって、体を鍛えるのは苦手だった。
それでも、毎日のように登士が鍛錬に誘いに来る。
そして、その後から必ず駆けつける、あいつがいる。

バン‼
リビングのドアが勢いよく開いた。
必死の形相の楽が登士の姿をとらえた。
「登士!」
一気にほころんだ笑顔になる。
その顔からは登士を見つけた嬉しさしか読み取れない。
「おお。楽。来たか」
爽やかな笑顔で登士は言った。
この光景が毎日のように繰り広げられる。
登士も楽が必死で登士を探すのがわかっているんだから、楽と一緒に来ればいいのに…と、悠と蓮は思っていた。
しかし、そこは登士。
実は天然で、毎日繰り広げられる、この状態を気にもしていなかった。
結果的に楽が楽しそうに鍛錬に付き合うので、結果オーライというとこなのだろう。
かなり、大雑把だった。

「じゃ、楽も来たことだし、鍛錬行くか。な?悠」
爽やかな笑顔で言った。
その瞬間、蓮のパソコンからピー!ピー!と警告音が鳴った。
「アインシュタインだ!」
言いながら蓮はパソコンを操作し始めた。
蓮は悠と共同でアインシュタインが街を襲うと、その街を特定できるシステムを作っていた。
「今度はどこだ?」
真剣な眼差しで登士が言った
「これは…!」
蓮は息を飲んだ。
「蓮…?」
悠は蓮の顔色が変わったのに気づいた。
「工場のある工業地帯だ」
「まずいな」
悠も息を飲んだ。
「何?話が見えねーんだけど」
楽が不満そうに言った。
「工場のある工業地帯では生産のために、住宅街より以上に火を使う工場がある。そのため、ガス配給用の配管に送られるガスの量が多い」
蓮がきわめて冷静に言う。
「つまり、規模の大きいガス爆発が起こきやすいってこと
悠はため息をついた。
「だから?」
不思議そうに楽が言った。
「だから、危険ってこと。爆発に巻き込まれて死ぬことだってあるかもしれない」
意味を理解してない楽にため息をつきながら、登士が言った。
「あー!死ぬかも。なるほど…って。え~!」
悠たちは慌てる楽を呆れたように見ていた。

「登士。今回は止めたほうがいい」
蓮が真剣な眼差しで言った。
「いや…。俺だけでも行く。救える命があるなら助けたい」
「登士が行くなら…」
嫌々、楽がそう言った。
「楽。無理しなくていいぞ」
「無理なんかしてねーよ!俺は登士が行くとこなら、ついていく」
「楽…」
登士はフッと笑った。
「俺も行く」
そこには真剣な眼差しの悠がいた。
「悠。おまえは止めとけ。葵が泣くだろ?」
登士が困ったように言った。
「俺が行かなかったら、爆発に巻き込まれなくてもアインシュタインに殺される。それがわかってて行かないなんてできない」
その眼差しは、これは俺の問題だと言っているように見えた。
アインシュタインを生み出してしまった自分に責任がある…と。
「わかったよ。悠」
登士は苦笑いしながら言った。

「それじゃ、すぐ準備だ!楽は葵に伝えてこい」
「了解!」
楽がリビングを飛び出していく。
登士が続いて出て行く。
悠も立ち上がり、リビングを出て行こうとした。
「悠…」
心配そうな顔の蓮が悠を見ていた。
「大丈夫。危険な場所には近づかない。だから、サポート頼むな」
悠は笑顔で言う。
「…わかった。でも、無理はするなよ」
「わかってるって」
再び悠が笑顔で言うと、蓮は少し安心したように笑った。
その顔を見届けると悠はリビングを出て行く。

アインシュタイン3-2へ続く

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