AERA 2018年12月24日号
カナダで逮捕され、世界的な注目を浴びたファーウェイの孟晩舟CFO。謎のベールに包まれていた創業者一族の姿が明らかになってきた。
カナダ・バンクーバーで1日、中国の情報通信機器大手、華為技術(ファーウェイ)副会長兼最高財務責任者(CFO)の孟晩舟氏(46)が当局に逮捕された。制裁下のイランとの取引をめぐる不正を疑う米国の要請だったという。
同じころ、大西洋を隔てたパリでは、もう一人の中国系女性が華やかに社交界デビューを飾っていた。
「でたらめに跳んでいるだけかも……」
5日、そんなコメントとともに、自身が笑顔で華麗にジャンプする写真をインスタグラムに投稿したのは、バレリーナのアナベル・ヤオ氏(21)。
パリで11月28日にあった国際的に著名な舞踏会に、世界から選ばれた19人の一人として登場した。彼女は、孟氏の妹でもある。
2人の父親は、ファーウェイ創業者で最高経営責任者(CEO)を務める任正非氏(74)。
任氏は3度結婚しており、最初の妻との間に生まれた長女が孟氏、2番目の妻との娘が次女のヤオ氏だ。離婚後、2人は母親の姓を名乗ったため、親子3人で名字が異なる。25歳も離れた異母姉妹だが、顔立ちはよく似ている。
米ハーバード大学でコンピューター科学を学びながら、バレリーナとして世界の表舞台に躍り出たヤオ氏。フォーブス誌が最も影響力のある中国人女性トップ10の一人としたほどの実力者から、一気に容疑者へと転落した孟氏。
対照的な2人のニュースが同時期に世界に流れたことで、秘密のベールに包まれてきたファーウェイ創業者一族の姿が次第に明かされてきた。
一族については情報が少なく、中国でも「神秘」なのだという。
筆者は中国籍や中国系の友人6人に聞いてみたが、特に孟氏に関しては、今回の逮捕劇まで名前すら聞いたことがないと口をそろえた。
孟氏には弟の任平氏がおり、同社社員だが、正確な年齢すら分からない。
謎多き任親子について、中国人の友人が、事件発覚後に流れ出した情報を教えてくれた。
「父親の任氏の口癖は『面子是給狗吃的』。メンツは犬に食わせるものだ、という意味です」
身分や立場にとらわれずに、やるべきことをやるという任氏の哲学を表している。
これが長女、孟氏の「神秘的」な人生に大きな影響を及ぼしたという。
孟氏は大学卒業後、1年間の銀行勤務を経て、1993年にファーウェイに入社。最初の仕事は、電話とりや書類コピーなどの雑務を仕切る業務だった。
その間、創業者の娘であることは内緒にしていた。弟も最近までは姉同様、母親の孟姓を名乗っていた。
いずれも特別な存在ではなく、いち従業員として仕事に向きあうという意思の表れだったとみられている。
母親の方がしつけに厳しかったという家庭では優しい父親だった任氏だが、仕事では、我が子にも容赦しない経営者に変身した。
家族は同社経営に必要な資質を持っていないとして、「子どもは後継者に含まれない」と話したこともある任氏。
貧しい生い立ちを乗り越え、一代で同社をスマートフォン出荷量で世界トップ3にまで押し上げた父親の厳格な教育の中で、孟氏は帝王学を学び、後継者と言われるまでに成長した。
メディア露出もほとんどなく、コツコツと実力を養った孟氏はいま、同社の屋台骨を支える存在になった。
そんな中での突然の逮捕劇。背景には、米中両国の覇権をめぐる政治対立があり、事態は一層複雑だ。保釈金1千万カナダドル(約8億5千万円)を支払い、保釈された孟氏は12日、バンクーバーの自宅からSNSで声明を出した。
「すでに家族と一緒です。ファーウェイを誇りに思い、祖国を誇りに思います。心配してくれた全ての人に感謝します」真相は今も神秘のベールに包まれたままだ。
(編集部・山本大輔)