
先週の流通経済大に続き今週は東海大が帝京にチャレンジ。この試合は、秋のリーグ戦で「2強」としてマッチレースを繰り広げる可能性が高い2つのチームの現時点での力関係を知る上でも興味深い。もちろん、先週も流経大に圧勝した帝京だから、例年になくチームの仕上がりがいいと感じられる東海大でも勝つのは難しい。そうと理屈では分かっていても、どこまで通じるかということを期待したいと考えるのが人情というもの。心配された天候もすっかり回復し、今日も百草園駅から坂道を登って帝京グランドに向かった。
乗り換えの分倍河原駅でひとつ早い電車に乗れたので、キックオフ20分前にグランドに到着した。すでにメインの観客席は満杯の状態で、バック側もネットにかなりの数の人が張り付いている。子ども連れのファミリーも目立ち、ホームの帝京ファンもこの試合を楽しみにしていたことが伺える。そして、両チームの気合が入った練習風景を眺めていると、こちらまで身が引き締まる思いになってしまう。帝京は主力が何人か欠けているようだが、東海はU20遠征組を除けばおそらく現状でのほぼベストのメンバー構成。流経大戦ではFW戦に拘りを見せた帝京だが、果たしてこの試合ではどのような戦いを見せるだろうか。私的注目点は、バランス良く纏まった東海のBKラインのアタックが「王者」に対してどこまで通用するか?だ。

◆前半の戦い/ここでもFW戦を挑んだ帝京、BKのキレで対抗した東海だったが...
帝京のキックオフで試合開始。東海がカウンターアタックから攻め上がるも自陣でアクシデンタルオフサイドを犯しファーストスクラムとなる。先週の流経戦もそうだったが、なかなかスクラムが決まらない。仕切り直しが繰り返される中で東海にコラプシングの反則があり、東海は自陣22m内で相手ボールラインアウトといきなりピンチを迎える。しかし、帝京のラインアウトにミスがあり、東海はタッチキックで陣地を挽回してピンチを脱したかに見えた。
しかしながら、帝京がラインアウトからアタックを仕掛けようかという局面でまたも東海に反則があり、先ほどとほぼ同じ位置からの「やり直し」となってしまう。どうやら本日も帝京は序盤からFW中心でパワー勝負を挑むようだ。そして、今度は帝京もしっかりマイボールを確保してモールを作りじわじわと前進して塊がゴールラインをオーバー。開始5分で帝京が先制トライ(GKも成功)を奪い、幸先良く7点を先制する。流経大は同じような状況でさらに2つ取られたが、果たして東海も同じ轍を踏むのかと思われる立ち上がりとなった。
だが、東海は(FW中心の帝京とは対照的に)BKラインのアタックで魅せる。帝京の厳しいプレシャーをかいくぐるかのようにパスを繋ぎ前進を図る場面を目の前で観るのはなかなか圧巻。湯本と野口兄で組むHB団とWTB石井魁、FB近藤は計算できるメンバーだが、CTBの池田も身体能力の高さで捕まってもしぶとく粘る。SH湯本のランニング能力の高さは春のセブンズ大会で実証済みだが、帝京を相手にしてもたびたびウラに抜けて東海のチャンスを演出する。ただ、湯本の持ち出しは帝京どころか味方も欺くくらいに絶妙なので、味方のフォローも追いつけない場面が散見されたのが残念ではあった。
序盤から早くも両チームの選手達による激しいぶつかり合いとなる中で13分、東海がまたしてもスクラムでコラプシングを犯す。帝京は再び東海大陣22m付近からラインアウトを起点としてゴールを目指すが、帝京にオフサイドがあり東海が命拾いする。帝京がやや押し気味ではあるが、両チームの一進一退の攻防が繰り広げられる中で18分、東海大に待望の得点が生まれる。起点は東海大陣10m付近での帝京ボールラインアウトだったが東海大がターンオーバーに成功してSH湯本がウラに抜けて独走状態。帝京の最後の砦の選手が前に立ちはだかる中で湯本はフォロワーを待つような状態で東海ファンにとってはもどかしい展開になりかけた。
しかし、そこに最高の選手が現れる。そう、明日のジャパンを担うエースランナーの1人石井魁がまだスペースがある状態でボールを受け取り一気に加速する。こうなると帝京もお手上げになってしまう。追いすがる帝京の11番を付けた新エース(竹山)も振り切りゴールポスト直下まで一気に到達。GKも難なく成功し、7-7と東海が試合を振り出しに戻した。もしかしたら...の期待も生まれかけ、帝京の選手達の表情も硬くなっていく。しかし、その直後に東海には大きな落とし穴が待っていた。

ウォーターブレイクの後の22分、帝京は相変わらずラインアウト(東海陣10m付近)が不調でノックオンから東海がハイパントで前進を図る。しかし帝京もFB宮崎がカウンターアタックから一気にウラに抜け東海にオーバー・ザ・トップの反則。ここも帝京は東海ゴール前のラインアウトからFWのサイド攻撃で執拗にボールを前に運ぶ。そしてボールが間もなくインゴールという場面で主審の手が上がり反則。遠目でよく見えなかったのだが、東海大の1列の選手が帝京のボールをはたいて球出しを妨害したことでシンビンを適用され10分間の一時退場となる。
ここまで帝京に押され気味ながらもFW(ブレイクダウンでの踏ん張り)とBK(ヨコへの拡がり)がバランスを保ちながら失点を抑えていた東海だったが、FWの重い選手が1人欠けたことでそのバランスが一気に崩れてしまった。27分のPK(スクラムを選択)からのスクラムトライを皮切りに、帝京は30分(SH荒井)、33分(WTB竹山)の3連続トライで26-7と点差を一気に拡げた。東海が15人に戻った直後の38分にも帝京は竹山が1トライを追加してGK成功で33-7。
相手が1人少なくなった時を勝負所と考え、テンポアップしてボールを左右に散らし、東海のディフェンスが薄くなったのを見越した上でウラにボールを蹴る。そのボールも複数の人間でチェイスしてターンオーバー成功からトライへと結びつける。竹山は「なぜそこに居るのか?」と言葉を発したくなるくらいに絶妙の位置でボールを受け取る。また、ボールを受けてからのゴールまでの最短コースを見切ったかのようなラン(おそらく本人にしか見えていない)が素晴らしい。廻りにはディフェンダーも居るのに、誰も竹山に触れないまま止まってしまったように見えるから不思議。やはり「持っている選手」と言うことになるのだろう。この僅か10分あまりでの4トライは本当に効いた。
何とか前半のうちにひとつ返しておきたい東海。残り時間が殆どなくなったところで帝京を自陣ゴール前に釘付けの状態にするが、あと一押しが足りずにそのままタイムアップとなる。確かにシンビンは痛かった。しかし、シンビンがなくてもおそらく帝京は東海のプレッシャーが落ちてきたと判断した段階でテンポアップして攻める作戦だったものと思われる。帝京が序盤から顔色を変えるくらいにFWに拘っていたのもこの狙いがあったからに違いない。どこかでスイッチを入れる予定が、自動的にスイッチが入ってしまったように見え、巧みなゲームコントロールに脱帽するしかない。

◆後半の戦い/圧倒的に攻め続け得点を重ねた帝京に対し「二矢」報いた東海
帝京に一方的に傾いた流れを何とか変えたい東海。だが、帝京はさらにテンポを上げて攻勢に出る。とくにセットプレーからの1stフェイズでは徹底的に前に出ることを目指す。ここがバランス良く守ろうとする東海にとっては悩ましいところ。ブレイクダウンに人をかけて前進を止めようとすれば、帝京はBKに展開し、逆にヨコへの拡がりを意識するとFW周辺でどんどん前に出られる。強力なFWを持つチームの強みとは言え、ここまでゲームをコントロールし、支配できた大学チームがかつてあっただろうか。
さて、キックオフ直後の帝京のアタックを凌いだ後の3分、東海にチャンスが訪れる。帝京陣22m内でのラインアウトのチャンスからFWで前進を図りゴールラインに迫るがオーバー・ザ・トップ。この日の東海はとにかく反則が多かった。前半は8つで後半も7つの計15個は帝京が相手であることを考えれば致命的と言える。ブレイクダウン周辺での反則の多さを最後まで修正できなかったのは反省材料。チャンスの後にピンチありはラグビーも同じで、帝京は危ない局面の後には必ずと言っていいくらい得点を奪う。7分、東海陣10m付近での東海ボールスクラムからのブレイクダウンでターンオーバーに成功し、SH荒井がウラに一気に抜けた後、ここでもラストパスを受け取ったのは竹山だった。
帝京は畳みかける。11分、センタースクラムからBKに展開したボールをライン参加したFB宮崎が大きく前に運びまたしても決めたのはパスを受けた竹山。こうなると東海ファンはため息をつくしかない。せっかく石井魁や近藤が居ても彼らがスペースを駆け抜ける場面を作ることができなければ宝の持ち腐れ。リスタートのキックオフから10分あまり、さらに帝京の攻勢は続き、東海大は自陣22mからなかなか抜け出せない苦しい展開となる。ただ、ここは帝京のミスにも助けられる形で東海が凌ぎきる。23分、近藤が自陣からウラに抜けてHWL付近までボールを運んだところで東海はようやくピンチを脱した。
そして25分、東海にファンが待ちに待った2トライ目が記録される。起点はHWLより少し手前の自陣でのスクラム。セットからボールがオープンに展開されライン参加したFB近藤が一気にウラに抜けて大きく前進し左サイドでフォローした石井にボールを託す。スペースを与えられた石井は帝京の最後尾のディフェンダーもあっさりかわして期待にしっかり応えた。瞬発力の塊みたいなランナーで、見た目よりもスピードがある選手ということで、かつて関東学院の水野がさも簡単そうにディフェンダーをかわしていた姿が思い出された。東海が5点を返し12-47となる。

しかし、点を取られた直後の帝京は要注意だということを東海はまたしても思い知らされることになる。リスタートのキックオフで東海は自陣から果敢に展開し、右サイドを破って前進しゴールを目指す...はずだったが、帝京に巧みにボールをスティールされて逆襲され、またしても反則。帝京は東海陣ゴール前でのラインアウトからモールを形成して押し込み5点を追加する。東海も34分に帝京陣の10m付近でのスクラムから8→9でオープンに展開し、途中出場のWTB藤崎がトライを奪うがここまで。終了間際の40分(ランニングタイムは43分)にもPKからの速攻でFWが1トライを追加し、59-19でノーサイドとなった。
1週間前に帝京と戦った流経大は東海より失点が多く、得点も少なかったので、スコアからの判断なら現時点では東海が流経を上回っているように見える。とくに前半に帝京をやや慌てさせたキレのあるBKのアタックを観たらそんな感想を抱いてしまう。しかし、ことはそんなに単純でもなさそう。東海のアタックはキレがあっても高速モードで一本調子になりがちな部分があるのに対し、とくに合谷がメンバーに加わった場合に顕著となるが、流経のアタックはテンポが遅めでもタメがある。カラーが違うチーム同士なだけにどちらが優位とはまだ言い切れない。ただひとつ言えることは、肉体の強さで帝京に次ぐのはこの2チームだと言うこと。ほぼ80分間にわたって帝京と激しい肉弾戦を繰り広げながらも、ピッチ上に倒れ込んでいた選手が殆どいなかったことは特筆に値する。

◆感想をひとこと/東海だけでなく帝京にとっても厳しい試合だった
帝京にどこまで近づけたかを確かめるといった一抹の期待を込めて観た試合だったが、差はなかなか詰められないことを痛感させられる結果となってしまった。奪った3トライも東海が目指す形というよりは、湯本、石井、近藤と言った個人能力の高い選手の持ち味が活きる形で取れたという印象が強い。プレーの一つ一つを振り返れば振り返るほど、東海にとっては厳しい現実を突きつけられた試合という印象が強くなっていく。だが、帝京が上に行くための課題を真摯に実戦で教えてくれたことに対し、感謝するべきかも知れない。上で書いてきたことと矛盾するが、厳しくとも悲観すべき結果ではなかったという気持ちを抑えきれないでいる。帝京は遙か上にいるようで実はさほど遠くにはいないようにも思えるのだ。
それよりも、この試合は帝京にとっても厳しい試合だったという印象が強い。圧勝したから前途洋々のはずなのになぜ?と思われるかも知れない。言い方を変えて、帝京にとっては厳しさが求められていた試合だったという説明をすれば理解してもらえるだろうか。まず、最初に気になったことは、流経大、東海と2試合続けて帝京はいつになく激しいFW戦を挑んだこと。帝京が学生チャンピオンで満足するチームなら、こんなアタックはする必要はないはずだ。大学の強豪チームはもはや眼中になく、打倒トップリーグを目指すからこそFWの力を試したいという動機付けがあり、それに応えうる2チームとの対戦を好機と捉えてFW戦に集中したのではないだろうか。帝京は豊田自動織機と対戦した後、同じ対抗戦Gに所属する早稲田、明治と試合を行うが、おそらくボールを動かすことに重点を置いて様々なオプションを試す試合になるのではないかと予想する。
大学選手権6連覇を達成した帝京は「己自身」というもっとも強くて厄介な敵と戦っている。かつて頂点に立ったチームが結局は克服することができなかった身近にいる最強の敵。覇を重ねたチームに宿る危険は、15人の気持ちが1つになっていなくても勝てることで生じる規律の乱れの積み重ねから自滅してしまうこと。ラフプレーや受け狙いのパフォーマンス(?)が散見されるようになったら赤に近い黄信号が点ったとみていいと思う。目標がもはや大学チームにはなく、社会人の強豪チームに求めなければならない帝京はある意味では気の毒な感じもするが、続くチームのレベルアップのためにも帝京がより高い目標を持って大学ラグビー界をリードして欲しい。
◆「帝京に勝つラグビー」は存在しない
しかし、帝京に勝つためにはどうすればいいのだろうか。流経大にしても東海にしても、近づけたという部分とやはりまだまだ及ばないという気持ちが相半ば、いや後者のパーセンテージが高い状態だと思う。ひとつ言えることは、一段高いところに立ったとき、すなわち帝京との本当の勝負は力負けしないだけのパワーを身につけたところでようやく始まるということ。近づいたと一瞬思わせたところで突き放すのが王者の風格といったところだろうか。FWで互角に勝負が出来るとなったところで、今度はBKとの連携によるボールの動かし方の差を見せつけられる。対策を打つと、それが倍返しのような状態で返ってくる。むしろ、帝京はいろいろな対案を出すことに楽しみを見いだしているのではないかとすら感じる。
だから「帝京に勝つラグビー」は存在しない。でも勝ちたいと思ったらどうすればいいのだろうか。流経大も東海も帝京に通じる部分があることは見せてくれた。まずはボールを失わずに仕掛けて帝京に対案を出させる。その対案に対してこちらも対案を用意する。力負けしないことが前提だが、知略、戦略が勝者を決めるというスタイルのラグビーに持ち込めない限りは帝京に勝てない。リーグ戦Gサイドとして、流経大と東海が帝京に挑戦状を叩きつける準備が出来るところまで来たことは喜ばしい。両チームにはさらにレベルアップを期待したいが、他にも名乗りを上げるチームが出てくるのが理想。帝京の一人勝ちは面白くないという声が多くの大学ラグビーファンから聞かれる。しかし、帝京が6連覇を達成しその数字が二桁に達することも現実味を帯びてきている今日。永らく鎖国のような状態にあった日本のラグビーに「戦術を極めることは面白いはず」と形で風穴があいたことを率直に喜ぶとともに、このような状況を「世界への飛躍に繋がる好機」と見なすファンが増えていけばいいと思う。
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