大学選手権もセカンドステージの第3日。既に帝京大と東海大がベスト4進出を決めており、この日で残りの2校も決まる。試合会場は関東地区が秩父宮と江戸川の2箇所で、中部地区は瑞穂、関西地区は皇子山(滋賀県)の合計4箇所。本日は第一試合で明治と立命館、第二試合で早稲田と東海大がそれぞれマッチアップする江戸川区陸上競技場に向かった。準決勝に向けての東海大の仕上がり具合も気になるが、一昨年の中央大との定期戦以来となる立命館が明治にどんな戦いを挑むかも楽しみ。
早稲田がベスト4入りを逃してはいるものの、早明が揃い踏みとあって11時過ぎに地下鉄の西葛西駅に着いた段階で既に試合会場に向かう多くのラグビーファンが目立つような状況。お馴染みの紫紺の旗を持つファンの姿が多いのはチームが好調なことの反映といっていいだろう。競技場に着いてさらに驚いた。バックスタンドの明治側の座席は殆ど埋まっている。何とか立命館側で空席を見つけたが、あと10分到着が遅れていたらゴール裏の芝生席で観ることになったかもしれない。
もちろんここは陸上競技場だから陸上トラック付きだが、バックスタンドは観やすい構造になっている。ゴールエリアが狭くなることを除けばさほど不満は感じないが、キャパシティが6000人に満たないとは知らなかった。2019年のW杯を控え、「新国立」のような大規模スタジアムに興味関心が集まる昨今だが、1万人規模のコンパクトな屋根付きのラグビー専用球技場を整備する方が重要ではないかと思ったりもする。秩父宮の改修が間近に迫っていることもあり、そんな想いを強くした。
■明治大学vs立命館大学
今シーズンもっとも帝京に肉薄したチームとして意気上がる明治。一時期の低迷状態を脱したと言ってよさそうだ。スタンドを埋めるファンの大部分もそんな明治の復活を見届けたいという想いが強いに違いない。冷たい季節風が吹く中でも、キックオフ前から観客席は熱気に包まれている。対する立命館は完全なアウェイ状態で、一塊になった応援団はさながら(野球に例えれば)神宮球場の阪神戦でのヤクルトファンのような状態。しかし、チャレンジャーに対して暖かいのがラグビーのいいところかも知れない。
多くの観客が見守る熱い雰囲気の中、立命館のキックオフで試合が始まった。立命館が明治陣10m付近でボールの確保に成功し素早くタテに攻めてウラにキック。絶妙のタイミングで走り込んだLO和田がインゴールでボールを押さえて鮮やかなノーホイッスルトライが決まる。しかし明治は落ち着いていた。キックオフから立命館のミス(ノックオン)につけ込み立命館陣ゴール前まで強力にボールを運ぶ。立命館の反則に対しスクラムを選択。立命館が強力な圧力に耐えられずコラプシングを繰り返す。そして6分にペナルティトライが記録され、立命館はFW戦に不安を抱えながらゲームを進めることになった。
立命館も工夫されたBK展開を基本として反撃を試みる。ここで立命館の注目選手はWTB(11番)の山口と分かる。1年生ながら、ボールを持つと果敢に前を向いてアタックを試み、明治のディフェンスを脅かす。トライには至らなかったが、今後の成長が楽しみな選手と言ってよさそう。その後も立命館は果敢にBK展開で攻めるものの、ノックオンなどのミスが多かったこともあり、明治のディフェンス網をこじ開けるまでには至らなかった。
明治も強力FWを軸にして展開指向で攻める。ただ、立命館も組織ディフェンスで粘り強く守り、認定トライの後は明治の追加点をPGの3点のみに押さえる。しかし、前半の後半から明治が持ち前の個の強さを活かすスタイルに戦い方を変えてから(そのように見えた)は、立命館のディフェンスが持ちこたえられなくなり明治がトライを重ねる展開となる。とくに活躍が目立ったのは3トライを挙げてハットトリックを達成したCTB13の尾又。明治のBKで注目は12番の梶村に集まりがちだが、12番ばかり見ていると13番にやられる。対戦相手は的を絞りにくくなったに違いない。
試合は立命館が後半に1トライを返すものの前後半で7トライを挙げた明治が圧勝。FW、BKともに力強さを見せた戦いぶりはファンを満足させたに違いない。明治は丹羽監督に代わってから確実に往年の強さを取り戻したと言ってよさそう。ベンチの前に立って選手達に檄を飛ばす熱さが選手に乗り移ったような印象で、ファイナルステージでの戦いが楽しみになってきた。個の強さだけでは優位に立てない相手との戦いとなるが、小細工はせずに今の戦い方を通した方がいいように思われる。普段着の戦い方を崩さず、プレーの精度を上げていった方が相手にとっては脅威になるような気がする。
大敗したとは言え、立命館の果敢なBK展開と組織ディフェンスは見応えがあった。明治が個の強さで勝負する形まで持って行けたのは収穫だと思う。メンバー構成を見ると、BK陣はWTB山口の他にCTB磯田とFB山本が1年生で今後の成長が楽しみ。ちょうど1週間前の戦いぶりを観ても、かつては顕著だった関西と関東の力の差は確実に縮まっているという印象を受けた。
■東海大学vs早稲田大学
既にファイナルステージ進出を決めているとは言え、悲願(だったはず)の大学日本一を目指す東海大にとっては気の抜けない戦いが続く。セカンドステージ3連勝ですっきり正月を迎えたいところ。一方の早稲田もこのままでシーズンは終われないはず。ということで、接戦となることを期待してキックオフを待つ。明治の圧勝に湧いたスタンドの雰囲気も明治ファンと入れ替わる形で早稲田ファンの割合が増えたことで変化したのは致し方ない。
さて、東海大では1人の選手に注目した。CTB12でスタメン起用されたオスカ・ロイド。大学ラグビーファンの留学生に対する一般的なイメージは大きい、強いになると思う。東海大の他の3人(テトゥヒ、アタアタ、テビタ)が正にそれに当てはまる。しかし、オスカは173cm、75kgだから大きな選手ではない。強力な選手達が揃う東海大にあって4年生にしてようやくレギュラーの座を獲得した努力家。実際にプレーを観ると、なぜスタメンを獲得できたかがよく分かる。けして目立たないが随所で光るプレーを見せる堅実な仕事人だ。
試合はFWのパワー、BKのスピードで優位に立つ東海大がほぼ全般にわたってペースを握り圧勝。とくに最初のトライをFWのパワープレーで奪った後は、スピード自慢のBK陣(石井、近藤、湯本ら)の快走によりトライを重ねるといった理想的な試合運びだったと思う。着実に加点した東海大に対し、早稲田の前半の得点は21分の1PGのみ。後半も開始早々に東海大陣に攻め込み、5mスクラムからのオープン展開でWTB本田がトライを奪った後は、継続しても殆どゲインラインを突破出来ずゴールラインまでが遠い状態が続く。早稲田は終了間際に意地を見せて1トライ返すものの15-48で完敗を喫した。
さて、早稲田の注目選手は日本代表メンバーとしてW杯に出場した藤田だったことは衆目の一致するところ。アタックでは随所で突破力をアピールするもののコンビネーションが合わずに逆にディフェンス側のターゲットになっていた感がある。試合終了間際に1トライを奪うがこれはどちらかと言えばごっつあんトライ。課題のディフェンスでは、失点に繋がるタックルミスやハイタックルの繰り返しでイエローカードをもらうなど精彩を欠いた。ラストトライの場面では苦笑いするしかなかったことも頷ける。
藤田でひとつ思ったのはメンタル面の問題。タックルの局面では(周囲から言われていることもあり)意識しすぎて身体が硬直してしまうようなところはないだろうか。アタックの切れ味を見ても運動能力に問題はないはずだから、無心で低く一発クリーンタックルを決めることができたら意識も変わるような気がする。日本代表にセレクトされたことで自信を掴むチャンスを失ったとしたら残念だと思う。
■目指せ!大学日本一(1)~東海大学~
新年1月2日の準決勝では、奇しくもこの日、同じ48得点で圧勝した明治と東海大が第一試合で決勝進出をかけて戦うことになった。強力FWと得点力が高いBK陣を揃えたチーム同士の対戦とあって熱戦が期待される。この日だけの印象なら、強さを存分に見せつけた形の明治が優位に立っているように見える。ただ、東海大も明治との戦いを意識してか終盤はFW戦に比重を置いた戦術に切り替えた感がある。ファイナルステージのために準備していると思われるBK攻撃のオプションは準決勝で披露されることになるかも知れない。また、アタックのテンポも上がっていくことと思う。
両チームとも自陣での反則は許されない位に厳しい戦いとなることが予想される中で、私的注目ポイントは両チームのCTB陣の対決。明治のCTBコンビは突破力があり、かつ梶村はゲームメーカーとしても高いセンスを持つ。東海はこの2人をしっかり抑えないと苦しい戦いを強いられる。逆に決定力が高い両WTBに得点を託したい東海はCTBで如何に効率よくボールを動かせるかがみどころ。明治が東海のCTBコンビを自由にさせると石井、近藤の高速ランナーを止めるのは難しくなる。FWの肉弾戦、BKのパワフルかつ高速アタックとどちらも見どころ満載の戦いとなることを期待したい。
■目指せ!大学日本一(2)~大東文化大学~
準決勝の第2試合では、久々のベスト4進出となった大東大が王者帝京大に挑む。3連勝で意気上がる大東大を相手としても、帝京優位の状況は翻らない。ただ、大学屈指の面白いアタック(私感)で奔放にボールを繋ぐ大東大のアタックが帝京のディフェンス陣をどの程度攪乱できるかという見どころもある。FWのセットプレーで劣勢を強いられる大東大としては、自陣では絶対に反則をしないこと、そして、ボールを確保したら必ずゴールラインに持ち込む。そのような理想的なラグビーができないと勝機は掴めない。ディフェンスは粘り強く、アタックは奔放に。完全固定メンバーで戦い、コンビネーションに磨きがかかってきた大東大の「ここ一発」に期待したい。
ラグビーマガジン 2016年 02 月号 [雑誌] | |
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