「熱闘」のあとでひといき

「闘い」に明け暮れているような毎日ですが、面白いスポーツや楽しい音楽の話題でひといき入れてみませんか?

アルト・フルートwithアルト・ギターの魅力(2)/ジョー・ベック&アリ・ライヤーソン

2017-03-30 00:18:17 | 地球おんがく一期一会


いろいろなところで通じているのがスポーツと音楽の世界。強いて両者の違いを挙げろと言われたら、前者には勝ち負けという結果があり後者にはそれがないことだろうか。何故勝てたのか?あるいは何故負けたのか?をどうしても考えてしまい、そして答えが欲しくなってしまうのが勝負の世界。

しかし、音楽なら「この感動はどこから来るのか?」に対する答えは得られなくても悩む必要はない。ジョー・ベックとアリ・ライヤーソンの2人による創造的な空間の中に身を置いているだけで幸せな気分になれるから。でも、やっぱり何故にギターがアルト・ギターであり、フルートがアルト・フルートなのか。さらに突き詰めると、そもそも何故この2人なのかという心地よい謎々ゲームに対する解答が欲しくなってしまう。

そんな疑問に音と言葉で答えてくれるのが彼らにとって2作目となる『ジャンゴ』。ちなみに「ジャンゴ」はフランスの名ギタリストのジャンゴ・ラインハルトであり、ジョン・ルイスが作曲したMJQ(モダン・ジャズ・カルテット)の演奏でお馴染みの名曲でもある。

ジョー・ベック自身が綴ったアルバムのライナーノーツの冒頭にこんな言葉が記されている。

“I have always wanted the guitar to be able to be a self-contained instrument.”

キーワードの “seif-contained” は「自己充足の」と訳される。おそらくジョー・ベックにとっての「自己充足」を達成している楽器はピアノであり、自身が弾くギターもそんな楽器にしたいという強い願望があったに違いない。洗練されたメロディを奏でることはできても、リズムとコードまで同時に完璧に1人で演奏しきるためにはどうすれば良いのだろうか?

その答えが自身で考案したアルト・ギターで、この楽器を使うことで理想に近づくことができたとの説明が続く。6弦構成は通常のギターと同じだが、低減2弦がベースパートを受け持ち、残りの4弦でコードを奏でる。チューニングも変えることで伴奏用としては完璧なギターのできあがり。残るは流麗なメロディパートだったが、ジョー・ベックが初めてアリ・ライヤーソンのアルト・フルートの演奏に接した時が “self-contained instrument” 完成の瞬間となった。



Joe Beck & Ali Ryerson “Django” (2001)

1) People Make The World Go ‘Round (T.Bell & L.Creed)
2) Laura (Mercer & Raskin)
3) Django (J.Lewis)
4) Carioca Blue (J.Beck)
5) When I Fall In Love (Heyman & Young)
6) Spain (C.Corea)
7) Come Together (J.Lennon & P.McCartney) / Alone Together (Dietz & Schwartz)
8) Tenderly (J.Lawrence)
9) Hobo (J.Beck)
10) It Takes Two (J.Beck)
11) O Barquinho (R.Menescal & R.Boscoli)
12) Nardis (M.Davis)
13) Donny Boy (Traditional)

Joe Beck : Alto Guitar
Ali Ryerson : Alto Fluete

オープニングの一音が耳に心地よく飛び込んできたところで、上の説明は無用とわかる。前作の『アルト』よりさらに洗練され一体化されたサウンドに心を奪われてしまうので。以心伝心、阿吽の呼吸といった表現がぴったり填まる磨き抜かれた音空間に聴き手は身を委ねているだけでよい。たとえ音の数は足りなくても、心の中で膨らんだ創造力がオープンスペースを埋めてくれる。

このアルバムもジャズファンにはお馴染みの名曲がズラリと並ぶ。そんな強力なラインナップの中にあってもジョー・ベック作(全3曲)が『アルト』と同様に聴き応えのある曲に仕上がっているのは流石。とくにボサノヴァタッチの「カリオカ・ブルー」が楽しい。スタンダードナンバーの「ラウラ」、そしてナラ・レオンが唄ったホベルト・メネスカルとホナウド・ボスコリの名コンビによる一際感動的な "O Barquinho”(小舟)に耳に傾けていると、このデュオでもっともっとボサノヴァの名曲を聴いてみたい想いに駆られる。

想い起こせば、アリ・ライヤーソンの音楽と繋がったのもブラジルの音楽だった。偶然とは言え、そんな出逢いがなければアルト・デュオの存在を知ることもなかったことを思うと感慨深いものがある。そして、その時はアルト・フルートがフルートより少し低い音が出せる楽器以上のものではなかったことも正直に告白しておく。

繰り返しCDプレーヤーに載せることで想像の輪(そして和)がどんどん拡がっていく。アルト・デュオによる2枚はずっと聴き続けていきたい宝物だが、アリ・ライヤーソンの音楽との出逢いについても場を改めて綴ってみたい。

Django (Hybr)
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アルト・フルートwithアルト・ギターの魅力(1)/ジョー・ベック&アリ・ライヤーソン

2017-03-28 23:35:25 | 地球おんがく一期一会


クラシック音楽やラテン音楽では花形楽器の地位を確立しているフルート。サックスやトランペットが主流のジャズでも数多のフルート奏者が活躍している。しかし、ことアルト・フルートとなるとジャンルを問わずピンと来る曲も演奏者も少ないのが現状。

マイナーな木管楽器にイングリッシュ・ホルン(コールアングレ)がある。しかし、ドヴォルザークの新世界交響曲の第2楽章、というよりも「家路」で名高い有名なソロがある。ジャズではオレゴンで活躍したポール・マッキャンドレスの超絶ソロ(例えば、デビッド・フリーゼンの『スター・ダンス』のオープニングの曲)があったりする。

アルト・フルートでもクラシックならラヴェルの『ダフニスとクロエ』やストラヴィンスキーの『春の祭典』があるが、ちょっとマニアックかな。ジャズならハービー・ハンコックの『スラスト』に入っている「バタフライ」でベニー・モウピンの美しいソロが聴けるが、アルト・フルートだと気づくかどうかといった感じ。

確かにアルト・フルートは(普通の)フルートに比べたら煌びやかさに欠けるし、サックスに比べたらパワー不足の感は否めない。しかし、アルト・フルートにはアルト・フルートでしか表現出来ない魅力がある。この楽器のスペシャリストのひとり、アリ・ライヤーソンとギタリスト、ジョー・ベックによる珠玉の「アルト・デュオ」が残した2枚のCDを聴く度にそんな想いに駆られる。

Joe Beck & Ali Ryerson “Alto” (1997)

1) Ode To Billy Joe (B.Gentry)
2) 'Round Midnight (T.Monk & C.Williams)
3) Joy Spring (C.Brown)
4) Mother's Day (J.Beck)
5) Willow Weep For Me (A.Ronell)
6) Waiting Is The Hardest Part (J.Beck)
7) Summertime (G.Gershwin)
8) Scaborough Fair / Noweigian Wood (Lennon & McCartney)
9) Autumn Leaves (J.Mercer)
10) Cuidado (J.Beck)
11) Song For My Father (H.Silver)
12) What Would I Do Without You (J.Beck)
13) Billie’s Bounce (C.Parker)
14) We Will Meet Again (B.Evans)

Joe Beck : Alto Guitar
Ali Ryerson : Alto Flute
Steve Davis : Percussion (1, 4, 5, 8, 10, 11, 13)

優しく囁くようなアルト・フルートの深い音色、それをベースラインとコードワークに徹した暖かみのあるサウンドで包み込むジョー・ベック考案のアルト・ギター。まるで2人が合体してひとつの楽器を奏でているかのようだ。また、ジョー・ベックがメロディアスな部分を切り捨てて変則チューニングのギターを創り上げた意図もそこにある。CDのジャケットに描かれているように、ギターのネックがアルトフルートの吹き口になっているのが象徴的。

アリ・ライヤーソンとジョー・ベックがスティーブ・デイヴィス(パーカッション)のサポートを得て1997年にリリースした『アルト』のラインアップには、ジャズファンにお馴染みの定番がズラリと並ぶ。一際魅力的なソロが聴けるのはクリフォード・ブラウンの「ジョイ・スプリング」。アルト・フルートのサウンドが(ハイノートのヒットではなく)中低域で朗々と吹いたブラウンの演奏と見事にオーバーラップする。パーカーナンバーの「ビリーズ・バウンス」ではジョー・ベックのベースプレーヤーとしてのはしゃぎっぷりが楽しい。

有名なナンバーに混じって4曲演奏されるジョー・ベックのオリジナルも魅力たっぷり。白眉はアリ・ライアーそんお得意のフレーズが満載の6)。そして、このアルバムは作編曲家としてのジョー・ベックを聴く作品でもあるのだ。かと思えば、ビートルズナンバーのスカボロウ・フェアーとノルウェイの森が英国民謡風に繋がった遊び心たっぷりの演奏も楽しめる。

残念ながらジョー・ベックが2008年に亡くなってしまったため、この2人によるライブ演奏を聴くことはできない。だが、幸いなことに、ユーチューブで「アルト・デュオ」が残した名演を映像とともに楽しむことができる。しかし、何故にギターがアルト・ギターで、しかも開発者のジョー・ベックがアリをパートナーに選んだのか?

その謎に対する答えは、2001年にリリースされた『ジャンゴ』で明らかになる。


Alto
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寛ぎの午後を弦楽四重奏で(3)/進化を続けるジオカローレは新たなステージへ

2017-03-03 22:15:09 | 弦楽四重奏の愉しみ


2月恒例のお楽しみイベントとして完全にスケジュールに組み込まれたジオカローレの演奏会。私自身は3度目だが今回が第11回目となる。果たして今年はどんな曲を取り上げてくれるのかと案内が届くのを心待ちにしていた。

今でこそ弦楽四重奏イチバン!なんて言っている私だが、ジオカローレの演奏に出逢うまではクラシック音楽の1ジャンルに過ぎず、特別に関心を持つこともなかった。バルトークもラヴェルもドビッシーも音楽に惹かれたからCDを持っていたようなもの。ハイドンの作品はナクソスの分売CD(コダーイ弦楽四重奏団)で全曲を集めたが、それも「ハイドンの曲はとにかく何でも聴いてみたい。」という気持ちから。魅力的な室内楽作品を多く残したアーノルド・バックス(英国人)も然りで、全作品の中に3曲の弦楽四重奏曲が混じっていたとのが正直なところ。

ちなみに昨年の第10回の演奏会は節目としてシューベルトやベートーヴェンの作品が取り上げられた。しかしながら、後者の「セリオーソ」の位置づけ~中期と後期を繋ぐ過渡的な作品~ということも知らないような弦楽四重奏ファン失格のような状態。やはり避けて通ってきた(わけではないけれど)モーツァルトやベートーヴェンやシューベルトの作品もじっくり聴かなければということで全曲を収めたボックスセットを買い集めたのだった。

上で挙げた3人の作品を聴いてみて、そして改めてハイドンの全作品をじっくり聴いてみて、ようやく弦楽四重奏の歴史をひもとくことができたことに気付く。ディヴェルティメントから着実にステップアップを重ね、後輩のモーツァルトとタッグを組むような形で弦楽四重奏の世界を発展させたのがハイドン。その2人の偉業に載っかるような形で弦楽四重奏の世界をさらにひとつ上の完成形へと導いたのがベートーヴェンであり、新たな音響空間を作り上げようとしたのがシューベルト。だからこそ、バルトークがありショスタコーヴィチもある。

ジオカローレの演奏に触れることがなかったら、弦楽四重奏の真の楽しみを知ることはなかったかも知れないと思うと感慨深いものがあるのだ。

前置きがすっかり長くなってしまった。ジオカローレが第11回演奏会で取り上げるのはメンデルスゾーンの『弦楽四重奏のための4つの小品』、ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲第8番、そしてグリーグの弦楽四重奏曲ト短調。新たなチャレンジを感じさせる作品が並んでいることに、ジオカローレらしさを感じたのだった。

♪メンデルスゾーン『弦楽四重奏のための4つの小品 Op.81』



メンデルスゾーンの魅力は何と言っても(けして派手ではないが)鮮やかな色彩感覚。画の才能にも恵まれていた人の作品は音で描く風景画そのものだ。音楽に留まらずあらゆる分野に非凡な才能を示したメンデルスゾーンだが、スポーツファンとしては「運動能力にも優れていた」という点に強く惹かれる。実際、メンデルスゾーンの作品はリズムのキレが抜群で交響曲第4番『イタリア』などは舞曲を思わせるスウィング感が堪らない魅力となっている。

メンデルスゾーンの弦楽四重奏曲を聴いていると、演奏者はさながらスポーツでいい汗を流したかのような感覚を味わいながら演奏しているのではないかと思ったりもする。しかし、ここで聴かれる4つの作品はスポーティな感覚よりも豊かな色彩感覚がいかんなく発揮された方のメンデルスゾーン。これから始まるチャレンジの幕開けに相応しい清涼感のある演奏で楽しめた。

♪ショスタコーヴィチ『弦楽四重奏曲第8番ハ短調 Op.110』



常に当局の関心を惹く存在であり、慎重な姿勢で作曲に望まなければならなかった交響曲。その対局を行くが如くの自由な作風がショスタコーヴィチの弦楽四重奏の魅力と言える。ある意味、交響曲では露わに出来ないホンネが吐露されている点で面白い作品も多いのだが他の作品群に比べても注目度が高いとは言い難いのが残念。この日取り上げられた第8番は有名な作品だが、第1番や第2番など初期(といっても中期)にも魅力的な作品が多いのでいずれジオカローレの演奏で聴いてみたいと思う。

さて、ショスタコーヴィチの作品を取り上げるというだけでも「チャレンジ」を感じたのだが、この日の演奏ではもうひとつのサプライズがあった。曲が始まる前に第1バイオリンの辻谷さんと第2バイオリンの野中さんが席を交替したのだ。エマーソン弦楽四重奏団のように曲によって第一と第二の奏者を意図的に入れ替える団体はあるが、ジオカローレももしかしてと思ったり。プログラムの解説の執筆も野中さんだから、相当にこの曲、いやショスタコーヴィチへの想い入れの強さを感じずには居られなかった。実演でも、そのことは十二分に伺われ、一音一音、そして4人が一体となって生み出すサウンドにもそのことはよく現れていたように思う。演奏が終わった瞬間、「ブラヴォー」の声が上がったことでもわかるように、冷徹な中にも熱い響きが一際感動的だった。

ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲を生で聴いてもうひとつ感じたこと。それは、ベートーヴェンの後期の作品の持つ世界の継承だ。ベートーヴェンも第9交響曲を書き終えた後に5曲も弦楽四重奏曲を作曲している。孤高の世界というか、本当に言いたかったことを5つの言葉(作品)に分けて語っているのではと思ったりもする。ショスタコーヴィチの場合は交響曲とバランスを取りながらとベートーヴェンとはスタンスは違っても同じ趣を感じる。このあたりは両者の作品をじっくり聴き込んでいくことで感じ取っていきたいところ。

♪グリーグ『弦楽四重奏曲ト短調 Op.27』



グリーグと言えばピアノ協奏曲や劇音楽『ペール・ギュント』が有名どころ。ピアノの『叙情小曲集』も魅力的な作品だ。しかし、実は弦楽四重奏曲も作曲していることはあまり知られていないのではないだろうか。とにかくこのジャンルは名曲過多であるがゆえに、有名曲がある作曲家ほど取り上げられる機会が少ないように思われる。ピアノ協奏曲とまではいかなくても、オープニングから印象深い旋律が飛び込んでくる。ただ、『ペール・ギュント』のような甘味な旋律が少ないことが取り上げられる機会が少ない理由なのかも知れない。

プログラムの解説で辻谷さんが「休むところがないと感じた。」と書いている。曲想はけっこう変化に富んでいるのに何故という想いでいたのだが、旋律の変化の裏に一貫して流れているものがあることも確か。『ペール・ギュント』にしてもピアノ協奏曲にしても曲を通して(明るい部分でも)感傷的なムードが途切れることはない。それと、弦楽四重奏とは思えない重厚な響きが強く印象に残った。ショスタコーヴィチの曲でも感じたことだが、過去2回と比べても、今回の演奏は全般を通してより4人の絆の深まりがあったように思う。ショスタコーヴィチ以上に多くの「ブラヴォー」の声が上がったことを付け加えておく。

さてさて、鳴り止まない拍手の中でアンコールに選ればれたのは『ペール・ギュント』からの「朝の歌」だった。実はグリーグでも一番好きな曲だったのでこれは嬉しいプレゼント。甘味な中にも感傷をそそるフレーズが頭の中でなり続ける中で、来年のジオカローレはどんな曲を取り上げてくれるのだろうか。進化し続けることを止めないジオカローレの演奏を通じて、私自身の弦楽四重奏への愛着と理解も深まっていく。そのことがこの演奏会の醍醐味であり愉しみであることを改めて実感した。

弦楽四重奏団は地味ではあるが専属の優れたプロ団体が多く、日夜素晴らしい演奏を繰り広げている。しかし、ジオカローレのように真摯かつ意欲的に4人の絆を大切にしながら音楽に取り組んでいるアマチュア団体もある。ショスタコーヴィチの弦楽四重奏曲のように時間をかけて取り組むことで見えてくるものもあるはず。これからもそのような発見をもたらしてくれるような演奏を聴かせて欲しいと願う。リクエストというわけでもないのだが、27曲の交響曲を残したミャスコフキーは私にとって未知の領域だし、ヤナーチェックの2曲の深い感情表現も魅力的。ボロディンも「ノクターン」で有名な第2番の他にオープニングに相応しそうな隠れ名曲の第1番がある。ヒナステラの第1番はエマーソン・レイク&パーマーを彷彿とさせる元祖プログレッシブロックの世界。そんないろいろな想いと期待を胸に家路についた。

Shostakovich The String Quartets : Emasrson String Quartet
Emerson String Quartet
Decca
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第2期サンウルブズ始動/大敗の中にも見えた光明

2017-03-02 23:27:20 | 頑張れ!サンウルブズ


いよいよスーパーラグビー2017が開幕。チーム結成2年目のサンウルブズの戦いが始まった。たとえ準備期間は短くても、また強豪揃いのNZカンファレンス所属チームとの対戦があるとしても昨シーズン以下の戦績は許されない。ひとつでも多くの白星を積み上げていくことはもちろん、日本代表チーム強化のミッションもある。そして、ファンが望むのはサンウルブズオリジナルと言ってもいい(力尽くではない)流れるような連携から産まれるトライ。スーパーラグビー経験者を揃えた「2年目」への期待は否が応でも高まる。

残念ながら負傷者が多いこともあり、やや不安ありのメンバー構成。熱き想いを胸にスタンドに足を運んだ多くのファン、そして実績のあるメンバー達がスタンドで見守る中でのキックオフだったが、いきなり昨年度王者ハリケーンズが巻き起こした嵐の中に新生サンウルブズは巻き込まれることになってしまった。



「情け容赦なし」と言ったらいいのか、3ヶ月間の準備期間をかけて作り上げられたチームがいきなり牙を剥いた。「俺たちは単に勝利するだけでは満足できない。」と言わんばかりに高速かつ正確にパスを繋ぐラグビーは、日本のトップリーガーだけでなく観客をも未体験ゾーンに放り込んでしまう。ここ数年で大きく戦術が変わった日本のラグビーだが、テンポは上げてもブレイクダウンからしっかり組み立てて攻めるのが基本。

そんな日本のラグビーをあざ笑うかのようにオフロードを駆使したミラクルパスが途切れることなく繋がっていく。ブレイクダウンの局面でもまるでセブンズを観ているかのように3人目の選手が素早くパスアウト。世界最高峰のアタッキングラグビーを標榜するスーパーラグビーはさらに進化したということだろうか。前半27分までにハリケーンズは6トライを量産。33分にようやくサンウルブズは1トライを返すものの、さらに1トライを追加されて5-45で前半が終了。このままのペースなら3桁失点もやむなしの前半だった。

しかし、大量失点の割には圧倒的に攻められたという感覚が薄かったことは不思議でもあった。昨シーズンに比べてFWのメンバーはパワーアップしており、サンウルブズが攻め込んでいる時間帯も多かった。BKにスーパーラグビー初経験のメンバーが多かったこともあり、相手のテンポに合わせてしまった感もある。そうなればパワーに確実性を兼ね備えたチームの方が優位に立つのも必然か。インターセプトなどミスをつかれてあっと言う間にゴールまでボールを持ち込まれてしまう場面の連続には歯がゆさを禁じ得ない。

後半もハリケーンズの勢いは収まらず、58分の時点で83点が記録される。しかし、試合は判らない。サンウルブズのメンバー交代が功を奏する形でハリケーンズの得点はピタリと止まり、試合の流れはサンウルブズに傾いた。FWのセットプレーが安定し、スクラムでは完全に優位に立てたことと、59分に投入されたSH茂野がアタックのテンポアップに貢献する。フィルヨーンに替わって後半に投入された江見を含むフレッシュなバックスリーの積極的なアタックなど見せ場を作ったサンウルブズは69分と77分にトライを奪って17-83がファイナルスコア。大敗には違いないが絶望感もなく、むしろ主力が復帰する今後に期待を抱かせる試合内容だった。

というわけでほろ苦さのない完敗。後半に投入されたメンバーを最初から出していれば(もっと得点できたし、失点は少なかったのでは?)という疑問も生じる。しかし、穿った見方かも知れないが、あえてこの試合は新たにサンウルブズに加わったメンバーに最高峰を経験させることと、今後起用するメンバーの見極めが目的だったのではなかっただろうか。ある意味でファンを裏切る形になりかねないから首脳陣も肯定しないだろうが、TV録画観戦という点は割り引いてもそのような印象を受けた。おそらく、勝利の期待が高まる2戦目以降でメンバーは固まっていくはず。

そう考えると、とくに後半に選手達が見せたパフォーマンスは首脳陣の期待以上だったかも知れない。この日初めて登場した選手達の中で今後の活躍が期待される選手はNo.8のブリッツ。普通に目立つ風貌の選手だが、目立つところに居て身体を張っている選手だとも言える。立川とともにチームを引っ張る存在となった闘将カークとともに注目していきたい。選手層の厚みが増したサンウルブズが去年以上の戦績を挙げてくれることを期待したいし、そうなるのではないだろか。

ラグビーマガジン 2017年 04 月号 [雑誌]
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