大学1年生の時に突如購入した長年の憧れであったフルサスペンションMTB。それが今回登場する、アメリカはGTのRTS-3です。
そもそも、ぼくがMTBに嵌ったきっかけはそのタフさだけでなく、パーツをアップグレードする事でびっくりする程性能が向上する旨味を知ったところから。時同じくしてちょうどその頃、前後にサスペンションを備えるフルサスペンションBIKEが登場し始めた時期でもあり、今度はサスペンションに嵌ってしまいました。特にその中でもプロフレックスというメーカーの物に一目惚れして、いつかは自分もフルサスMTBを買うぞ、と固く心に誓っていました。
その思いを抱きながら進んだ大学は群馬県にあり、アパート暮らしを始めた矢先に、たまたまこのRTS-3に出会ったのです。どこが気に入ったかというと、シンプルに描かれた「GT」のロゴとびっくりするパープル塗装。それに、リアサスペンションの造形美でした。それからは、ぼくの中での主力はこのRTS-3になり、群馬在住の間にいくつかの河川敷クロスカントリー(XC)レースやスキー場でのXCレースに出場して、やがて日本にもダウンヒル(DH)ブームが訪れ、当時まだPHSの電波が入らずゴンドラステーション脇にクルマを置いておけるぐらい空いていた長野県の富士見パノラマスキー場に持ち込み、XC仕様のまま今のAコースを走っていました。
その内、MTBでもオートバイのようなトラベル量の豊富なダブルクラウンサスペンション(フロント)が登場し始め、日本のSHOWA(ショーワ)もDH-160という160mmトラベルの商品をリリースしました。同社は古くからMTB用サスペンションでも定評があり、ぼくが元々オートバイに憧れていた事もあり、早速これに飛びつきました。
しかし、これがいけなかったです。少し専門的な話になるのですが、フレームのステアリングパイプが通る部分をヘッドチューブといい、それにトップチューブ(上側)とダウンチューブ(下側)という2本のパイプが溶接されています。この溶接部分の作り・耐久性には向き・不向きというものがあって、RTS-3のそれはまだそれほどのスピード域やもの凄く負荷がかかるダブルクラウンサスペンション用には考えられていませんでした。
事前に、ダブルクラウン化する事で負荷がある程度かかるのは分かっていたので、当時流行っていた高品質・高耐久性のヘッドパーツ(ステアリング周辺の部品を保持する物)、タンゲ・テクノグライドというアイテムを組み合わせていたのですが、先にフレームが音を上げてしまいました。具体的には、ヘッドチューブとダウンチューブの接合部にクラック(ひび割れ)が生じてしまったのです。
当然、このまま使用し続けるとこの割れは酷くなり、最終的に破断・分裂となって、ライダーが大怪我をしてしまいます。そこで、当時やはり流行り始めていたガセット(補強)処理を施す事にしました。既存のフレームでは、この部分に想定以上の負荷がかかりなんらかの対処が必要な事はすでに多く囁かれていたので、メーカーでマイナーチェンジされたモデルはこのガセットがかなり採用されていました。
しかし、今回の対応はあくまで個人レベルの話。知り合いの溶接工に作業を頼んだのですが、その結果フレームがどうなろうと自己責任。リスクをかなり伴うので、正直、お勧めできない行為です。でも、まだこのRTS-3にもの凄く愛着があったのでお願いしました。
ところが、ここからが更にいけなかった。あろう事かそのタンゲ・テクノグライドを付けたまま溶接をお願いしてしまったのです。溶接はどんなレベルであれ、その箇所と周辺にもの凄い熱変化が加わります。パイプ間だけのレベルであれば最悪、組成変化と歪みが生じる程度だったのですが、中に高密度・高精細のベアリングが収まっているヘッドパーツはその熱変化に耐えられず、壊れてしまいます。そんな基本的な事に気が付かず、当時、ぼくは溶接作業に出してしまったのです。
結果はやはり最悪の事態に。補強を施した下部に付いていたテクノグライドは高熱に耐え切れず、中の部品が破壊され外に飛び出してきた有様。特に、シール材質が樹脂製だったので、そこが完全にダメになってしまいました。これがなくともベアリング回転には影響なかったのですが、高精細な部品だけにそのまま使う事は避けたい。泣く泣くこの個体を使う事は諦めたのですが、不幸はまだ続きました。
発売から年数が経っていた為、新品のテクノグライドは入手がし辛く、豊富だったカラー展開もほぼ全滅。また構造が、交換が容易なオープンベアリングでなく打ち込みタイプのシールドベアリングであり、且つ専用品だった為、ベアリング屋さんでも替えが入手できず。結局、見た目補強がなったRTS-3でしたが、このヘッドパーツ破損によりお蔵入りを余儀なくされてしまいました。
ただ猛烈に愛着のあるフレームだったので(寝食を共に、が最適な程)、その後もテクノグライド探しは延々、続けていました。テクノグライドも気に入っていたのです。
馴染みのお店にも幾度か相談し、あちらこちらのお店も、なにかの用事で付近まで行ったら必ず立ち寄りガラスケースを覗き込んでいました。しかし、それでも見付からず。一回だけ在庫を発見したのですが、色が単調なシルバーで、これはどうしても嫌だったのでパス。その後も何年と探しました。
そして、2011年11月のサイクルモード(幕張)で、ひとつの転機がありました。あるメーカーのヘッドパーツが、テクノグライドに拘り続けなく乗り換えてもいいか、と思える作りをしていたのです。フランスのメーカーなのですが、わざわざ代表が来日していて、彼から直接熱い話が聞けたのです。それで、まあお値段はそこそこするのですぐには交換できず、お店へのオーダーもストップしていたところ、そのお店からまたひとつ転機となるメールが届いたのです。
その内容は「中古のテクノグライドが手に入りました。使いますか? 色はゴールドです」。
もう迷わずYesと返事を返しました。ついさっきまで新しいメーカーの物を使うつもりでいたので、まあ薄情な話なのですが、正直、再溶接をしてしまったRTS-3はもうDHには使えない可能性がありますし、軽いライドにしか使わない予定でいたので、そこに新しい高級品を付けるのはちょっと勿体ないという気持ちもあり。
ということで、ようやく念願のテクノグライドを使ってのRTS-3復活の第一歩を踏み出せました。この日まで、長かったです。一度は諦めかけました。昨年のサイクルモードでようやく光明が見出せたと思っていたばかりだったので、復活の実感が掴めたのは、ごく最近なのです。
文章が長くなりましたが、実際にお店で行った作業について、写真で解説していきましょう。
中古でようやく手に入ったテクノグライドを軽く手で入れてみようとしたら、やはり下部は熱によりパイプが歪んでいて“すんなり”とは入らない事が判明。専用の冶具で真円になるよう削り込む事にした。
余分な抵抗を取ると共に綺麗に削れるよう、機械油をドリル部に挿す。ドリル刃もこのほうが長持ちする。
ゴリゴリ削ったヘッドチューブ下部。赤い線で囲ったところが、今回削れた部分。真円に対して、これだけ歪んでしまったのだ。やはりガセットを充てたところ、というのも納得。
上部は元々使っていたオレンジ色のテクノグライドを付けようと考えていたのだが、今回入手できた中古品はマイナーチェンジが施され、下部スカート部が延長された物だったので、上もゴールドにする事にした。パイプに埋まる部分が長いと、それだけ周辺の剛性がより確保できるようになる為。
ガセットを入れたことでヘッドパーツ圧入工具が干渉する事がわかり、今回は下から作業を開始した。写真にはないが、上下の面がきれいに水平になるよう、フェイス部も丁寧にカッター(冶具)を充てている。ただ、ここは歪みはなかったようで、アルミの削りカスはまったく出なかった。
下が終わり、上にも中古のテクノグライドを圧入。最後に、上下をしっかり押し入れた。
写真がピンボケで恐縮だが、上下作業完了。熱に晒され、塗装は変色しているしデカールはひび割れてしまっている。この熱変化が全体のパイプ剛性に悪影響を与えていなければいいのだが。
晴れて完成となったRTS-3。これからパーツを付けていくのだが、実はそこにもいくつか問題が。ただし、今回のヘッドパーツに比べれば大したことはない。レースに使うわけでもないので、ゆっくり組み上げていく予定。
と、長くお届けしてしまいましたが、これでようやく大きな懸案事項が取り払われました。2011年は事情によりゲレンデDHがまったく出来ませんでしたが、今年はこのRTS-3の復活も含め、ちょっとは走りたいと思います。
とにかく本当に直ってよかったです。作業をしてくれたのも連絡をしてくれたのも、馴染みのお店。本当にありがとうございました。大感謝です。
やかん
そもそも、ぼくがMTBに嵌ったきっかけはそのタフさだけでなく、パーツをアップグレードする事でびっくりする程性能が向上する旨味を知ったところから。時同じくしてちょうどその頃、前後にサスペンションを備えるフルサスペンションBIKEが登場し始めた時期でもあり、今度はサスペンションに嵌ってしまいました。特にその中でもプロフレックスというメーカーの物に一目惚れして、いつかは自分もフルサスMTBを買うぞ、と固く心に誓っていました。
その思いを抱きながら進んだ大学は群馬県にあり、アパート暮らしを始めた矢先に、たまたまこのRTS-3に出会ったのです。どこが気に入ったかというと、シンプルに描かれた「GT」のロゴとびっくりするパープル塗装。それに、リアサスペンションの造形美でした。それからは、ぼくの中での主力はこのRTS-3になり、群馬在住の間にいくつかの河川敷クロスカントリー(XC)レースやスキー場でのXCレースに出場して、やがて日本にもダウンヒル(DH)ブームが訪れ、当時まだPHSの電波が入らずゴンドラステーション脇にクルマを置いておけるぐらい空いていた長野県の富士見パノラマスキー場に持ち込み、XC仕様のまま今のAコースを走っていました。
その内、MTBでもオートバイのようなトラベル量の豊富なダブルクラウンサスペンション(フロント)が登場し始め、日本のSHOWA(ショーワ)もDH-160という160mmトラベルの商品をリリースしました。同社は古くからMTB用サスペンションでも定評があり、ぼくが元々オートバイに憧れていた事もあり、早速これに飛びつきました。
しかし、これがいけなかったです。少し専門的な話になるのですが、フレームのステアリングパイプが通る部分をヘッドチューブといい、それにトップチューブ(上側)とダウンチューブ(下側)という2本のパイプが溶接されています。この溶接部分の作り・耐久性には向き・不向きというものがあって、RTS-3のそれはまだそれほどのスピード域やもの凄く負荷がかかるダブルクラウンサスペンション用には考えられていませんでした。
事前に、ダブルクラウン化する事で負荷がある程度かかるのは分かっていたので、当時流行っていた高品質・高耐久性のヘッドパーツ(ステアリング周辺の部品を保持する物)、タンゲ・テクノグライドというアイテムを組み合わせていたのですが、先にフレームが音を上げてしまいました。具体的には、ヘッドチューブとダウンチューブの接合部にクラック(ひび割れ)が生じてしまったのです。
当然、このまま使用し続けるとこの割れは酷くなり、最終的に破断・分裂となって、ライダーが大怪我をしてしまいます。そこで、当時やはり流行り始めていたガセット(補強)処理を施す事にしました。既存のフレームでは、この部分に想定以上の負荷がかかりなんらかの対処が必要な事はすでに多く囁かれていたので、メーカーでマイナーチェンジされたモデルはこのガセットがかなり採用されていました。
しかし、今回の対応はあくまで個人レベルの話。知り合いの溶接工に作業を頼んだのですが、その結果フレームがどうなろうと自己責任。リスクをかなり伴うので、正直、お勧めできない行為です。でも、まだこのRTS-3にもの凄く愛着があったのでお願いしました。
ところが、ここからが更にいけなかった。あろう事かそのタンゲ・テクノグライドを付けたまま溶接をお願いしてしまったのです。溶接はどんなレベルであれ、その箇所と周辺にもの凄い熱変化が加わります。パイプ間だけのレベルであれば最悪、組成変化と歪みが生じる程度だったのですが、中に高密度・高精細のベアリングが収まっているヘッドパーツはその熱変化に耐えられず、壊れてしまいます。そんな基本的な事に気が付かず、当時、ぼくは溶接作業に出してしまったのです。
結果はやはり最悪の事態に。補強を施した下部に付いていたテクノグライドは高熱に耐え切れず、中の部品が破壊され外に飛び出してきた有様。特に、シール材質が樹脂製だったので、そこが完全にダメになってしまいました。これがなくともベアリング回転には影響なかったのですが、高精細な部品だけにそのまま使う事は避けたい。泣く泣くこの個体を使う事は諦めたのですが、不幸はまだ続きました。
発売から年数が経っていた為、新品のテクノグライドは入手がし辛く、豊富だったカラー展開もほぼ全滅。また構造が、交換が容易なオープンベアリングでなく打ち込みタイプのシールドベアリングであり、且つ専用品だった為、ベアリング屋さんでも替えが入手できず。結局、見た目補強がなったRTS-3でしたが、このヘッドパーツ破損によりお蔵入りを余儀なくされてしまいました。
ただ猛烈に愛着のあるフレームだったので(寝食を共に、が最適な程)、その後もテクノグライド探しは延々、続けていました。テクノグライドも気に入っていたのです。
馴染みのお店にも幾度か相談し、あちらこちらのお店も、なにかの用事で付近まで行ったら必ず立ち寄りガラスケースを覗き込んでいました。しかし、それでも見付からず。一回だけ在庫を発見したのですが、色が単調なシルバーで、これはどうしても嫌だったのでパス。その後も何年と探しました。
そして、2011年11月のサイクルモード(幕張)で、ひとつの転機がありました。あるメーカーのヘッドパーツが、テクノグライドに拘り続けなく乗り換えてもいいか、と思える作りをしていたのです。フランスのメーカーなのですが、わざわざ代表が来日していて、彼から直接熱い話が聞けたのです。それで、まあお値段はそこそこするのですぐには交換できず、お店へのオーダーもストップしていたところ、そのお店からまたひとつ転機となるメールが届いたのです。
その内容は「中古のテクノグライドが手に入りました。使いますか? 色はゴールドです」。
もう迷わずYesと返事を返しました。ついさっきまで新しいメーカーの物を使うつもりでいたので、まあ薄情な話なのですが、正直、再溶接をしてしまったRTS-3はもうDHには使えない可能性がありますし、軽いライドにしか使わない予定でいたので、そこに新しい高級品を付けるのはちょっと勿体ないという気持ちもあり。
ということで、ようやく念願のテクノグライドを使ってのRTS-3復活の第一歩を踏み出せました。この日まで、長かったです。一度は諦めかけました。昨年のサイクルモードでようやく光明が見出せたと思っていたばかりだったので、復活の実感が掴めたのは、ごく最近なのです。
文章が長くなりましたが、実際にお店で行った作業について、写真で解説していきましょう。
中古でようやく手に入ったテクノグライドを軽く手で入れてみようとしたら、やはり下部は熱によりパイプが歪んでいて“すんなり”とは入らない事が判明。専用の冶具で真円になるよう削り込む事にした。
余分な抵抗を取ると共に綺麗に削れるよう、機械油をドリル部に挿す。ドリル刃もこのほうが長持ちする。
ゴリゴリ削ったヘッドチューブ下部。赤い線で囲ったところが、今回削れた部分。真円に対して、これだけ歪んでしまったのだ。やはりガセットを充てたところ、というのも納得。
上部は元々使っていたオレンジ色のテクノグライドを付けようと考えていたのだが、今回入手できた中古品はマイナーチェンジが施され、下部スカート部が延長された物だったので、上もゴールドにする事にした。パイプに埋まる部分が長いと、それだけ周辺の剛性がより確保できるようになる為。
ガセットを入れたことでヘッドパーツ圧入工具が干渉する事がわかり、今回は下から作業を開始した。写真にはないが、上下の面がきれいに水平になるよう、フェイス部も丁寧にカッター(冶具)を充てている。ただ、ここは歪みはなかったようで、アルミの削りカスはまったく出なかった。
下が終わり、上にも中古のテクノグライドを圧入。最後に、上下をしっかり押し入れた。
写真がピンボケで恐縮だが、上下作業完了。熱に晒され、塗装は変色しているしデカールはひび割れてしまっている。この熱変化が全体のパイプ剛性に悪影響を与えていなければいいのだが。
晴れて完成となったRTS-3。これからパーツを付けていくのだが、実はそこにもいくつか問題が。ただし、今回のヘッドパーツに比べれば大したことはない。レースに使うわけでもないので、ゆっくり組み上げていく予定。
と、長くお届けしてしまいましたが、これでようやく大きな懸案事項が取り払われました。2011年は事情によりゲレンデDHがまったく出来ませんでしたが、今年はこのRTS-3の復活も含め、ちょっとは走りたいと思います。
とにかく本当に直ってよかったです。作業をしてくれたのも連絡をしてくれたのも、馴染みのお店。本当にありがとうございました。大感謝です。
やかん