百合子の日記

鍵かけた? 記憶の扉 開かない 

落合恵子さんの「積極的その日暮らし」より

2011-09-04 | 日記

     丑三つどきの

 「いかに自分で自分を楽しませるかが、人生の基本よ」

 そんな風におっしゃったのは、いまは亡き映画評論家小森和子さん、「小森のおばちゃま」たった。

 自分で自分を楽しませる……。特に年齢を重ねたものにとって、これほど豊かな自分へのごばうびはない。

 「わたしを、知らない読者もいるでしょうね。そんなものよ。いつかは、誰もが忘れられていく。
だから、ひとの目に映る自分ばかり気にして、自分を鳥かごに閉じ込めてはだめよ」
 小森のおばちゃまなら、そう言うかもしれない。
 この「人生の基本」を彼女に伝えたのは、かのシヤーリー・マックレーン、ハリウッドの大スターだ。
「How to entertain yourself」だったと思う。
 確かに、自分で自分を楽しませる方法を幾つか持っているひとは、つよい。持参可能、持続可能な能力であるのだから。その上、スマートフォンよりはるかに軽量。

 さて、わかしにはどれくらいあるだろうか、と考えてみる。
 わたしの場合は、持続は可能でも、持参可能ではない。楽しむ場所も時間帯も限定されている。
わが家で、午前二時頃、丑三つどきの、楽しみである。
 次の季節のための種蒔きも、あるいは幾種類かのカレー作りもまた。
 時間に急かされない丑三つどき、いつもよりスパイスに凝ったカレーを作る。
たいていは二種類・同時進行。シーフードとビーンズというように。あるいは、チキンと秋野菜というように。
作ったそれらを冷まして小分けにし、冷凍庫に収める頃には、夜が明けている。
眠りの波に乗り損なって、下手な俳句をひねるのも、丑三つどき。
 一年草の場合は花をつけ、やがていのちを終える。カレーも食べてしまえば、消える。
句をメモった紙切れも、朝にはなぜだか行方不明になっている。
 ……といった按配で、楽しんだものたちは跡形なし、というのも、わりと気に入っている理
由であるのだが。                            (2010・10・2)


                                             読取革命 


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