巻末に平野敬一郎のメールアドレスが載っていって「小説の感想などもお待ちしています」なんて書いてあったから感想を送ろうかなと思う。
6つの短編が収録されている。
初めて読んだ作者で、なんとなく文体が三島由紀夫ぽいと感じて後でネットで調べたら、確かに「三島由紀夫の再来」と言われたことがあるらしい。
ネットの情報と自分が感じた感覚が会っていて妙にほっとする。あながち、的外れなことを言っていないぞという安心感みたいな感じだ。
個人的に6つの短編の中で一番面白かったのは、最後に収録されていた「Re:依田氏からの依頼」
三島由紀夫の文体と似ているって書いたけど、まさにその三島由紀夫の戯曲が小説中に出てきます。
愛人とタクシー乗車中に交通事故に遭い、その事故で愛人は死に自分は生き残るのだが、事故の後遺症で時間の感覚がおかしくなってしまう劇作家のお話。
時間が過ぎるのが長いと感じる主人公の心理描写が巧かった。
自分も学生時代、飲食店でバイトしていたが、つまらないバイトでは時間が経つのが妙に長く、え、まだ出勤して2時間しか経ってないの!?みたいなことを考えたことがある。自分の場合は下らないたかがアルバイトの経験だけど、劇作家、演出家の主人公にとっては深刻で致命的。演出家なんて、舞台の時間をどう捌くかがかなり重要なのに。その葛藤と苦悩、それを乗り越えるための工夫、そして諦念が明晰な文章で説明されていて面白かった。筒井康隆の短編にも同じような題材の作品があったがように思うが、あっちはSFドタバタコメディで単純に笑った。こっちは、笑いはなくてシリアス。
また「時間」や「他人とのコミュニケーション」について深く考えさせられた。
ちなみに、この短編は構成が他に収録されている短編より若干複雑で、上記のエピソードは、ある小説家によって書かれた小説であり、その小説家と劇作家の出会いから再開までを含めて、一つの小説になっている。ああ、なんか意味が分からないかも。文章力下手ですみません。劇中劇みたいなものです。
その他、表題作は、読んでいてキューブリックのアイズワイドシャットという映画を連想した。
「火色の琥珀」炎に性的快楽を見出す少し変態な主人公のお話。内容はただの変態のお話なのに(性器に根性焼きしてエクスタシー感じたりする)、文体が高尚なので、なぜか内容も高尚に感じてしまう。同じテーマで別の作家が書けば、ギャグになったかもしてない。
「family affair」これも面白かったけど、ラスト近くで主人公のオバサンがオナラしたのがよくわからなかった。
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