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たわ言、泣き言、独り言 時々新刊案内

絶対絶命の淡水魚イタセンパラ―希少種と川の再生に向けて

以下の書籍を読了しました。つらつらと感想を書いて行きたいと思います。

日本魚類学会自然保護委員会編(渡辺・前畑責任編集).2011「絶体絶命の淡水魚イタセンパラ:希少種と川の再生に向けて」東海大学出版会
https://amazon.co.jp/dp/4486018788/ref%3Dcm_sw_r_tw_dp_U_x_lh1oCb2D3EWGF


まず第1部。ここではイタセンパラの生態が長い年月をかけた調査と緻密な観察によって解き明かされてゆきます。その記述には迫力があり、感銘を受けました。

続いて第2部。ここでは淀川の変遷とそれに伴うイタセンパラの保全、絶滅、再生について述べられています。初期の河川改修によってかつての氾濫原の環境が河川敷に再現され、イタセンパラはそこに適応して繁栄したこと。しかし近年の河川改修によってその環境が失われ絶滅に至ったこと。そして再導入。

そして第3部。ここでは濃尾平野におけるイタセンパラの保全、氷見におけるイタセンパラの保全、そしてイタセンパラを蘇らせる河川整備の方向転換について述べられています。

この本を読んで、淀川のイタセンパラの再導入について抱いていた2つの疑問は解消されました。

1つ目の疑問。イタセンパラの仔稚魚の浮上は城北ワンド群の全ての水域でチェックされていたのかどうか。
これは再導入にあたって、生き残った個体群がもしいた場合、それに再導入された個体群がなんらかの影響を与えてしまうことを危惧したものです。この疑問については、生息数を全ワンドの全周囲で計測するという精度の高い調査方法が取られていた(P.142)という記述が答えでした。
その調査によれば、再導入の前に、城北ワンド群ではイタセンパラが絶滅していたことが、ほぼ間違いないと思われます。

2つ目の疑問。再導入したワンドからイタセンパラが逸出する可能性はあるのかどうか。
これは再導入水域以外に拡散することで、もしそこに生き残りの個体群がいたら、それに再導入された個体群がなんらかの影響を与えてしまうこと危惧したものです。この疑問についても前述の調査(P.142)が答えでした。さらに逸出そものは発生しているようです(P.144)。

本書を読了して感じたこと(それは読む前から感じてはいたのですが)。
イタセンパラを守ることは生息域である河川の流域に住むわたしたちの生活と無関係ではないと言うこと。だからこそ、今、危惧していることがあります。それは近年頻発している豪雨災害。
大出水そのものも、そこに生息する生き物には打撃となる場合もあります。しかし、問題は、それへの対策として、さらなる河川改修が進むのではないかと言うこと。堤防強化や河道内の樹木の伐採ならばいいのですが、ダムの建設や増強、河道の掘り下げなどが進むのではないか。それが心配です。

かつて自然河川の氾濫原に繁栄していた生き物たちは、河川改修によって河川敷に再現された氾濫原と同じ環境で繁栄するようになりました。そしてさらなる河川改修によってそれらの環境もが失われ、今、絶滅に追いやられようとしている。治水、利水とはどうあるべきか、そのことを本書を読んで考えました。

※この記事は2019年1月14日に Twitter に投稿したつぶやきに加筆修正して再構成したものです。
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