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見えない脅威“国内外来魚”: どう守る地域の生物多様性

以下の本を読了しました。これから感想を書いていきたいと思います。

「見えない脅威“国内外来魚” どう守る地域の生物多様性」(日本魚類学会自然保護委員会編、向井ほか責任編集2013、東海大学出版会:叢書イクチオロギアシリーズ)
https://amazon.co.jp/dp/4486019806/ref%3Dcm_sw_r_tw_dp_U_x_QbNxCbMVHY7NM


まず全体的な感想です。難しいの一言。状況を把握するのも、把握した後に対策をするのも難しい。それは本書に述べられているように、技術的な難しが、まずあります。しかし、それ以上にわたしが難しいと思うのは、水辺への関心の低さからくる気づき難さ。そこにいれば気付くというようなものとは違う。
例えばヘラブナ。もともといない水系に侵入していたとしても、現在のように水辺への関心が低いと、まず意識されない。さらにワカサギ。明らかに漁業や遊漁のために放流されていたとしても、それが侵入にあたるとは意識され難い。たとえ意識していたとしても、どうにもできない。そういう難しさがある。
ブラックバス騒動の際には明確な対立構造が生まれました。わたしは、それが問題を理解しやすくしたと思います。しかし、国内外来魚問題に、そんな単純な対立構造を見出すのは難しい。放流イベントがSNSで炎上するといったことはありますが、すでに定着してしまった国内外来魚では炎上もなにもない。
ブラックバス騒動の際のような啓蒙のやり方はではできない。血道に啓蒙する他はない。国内外来魚問題には、そう言う難しさがあると、本書を読んで感じました。

次からは各部ごとの感想を述べてゆきます。

まず第1部。ここでは国内外来魚とは何かについて書かれています。特徴や原因、対策について。水産放流についても触れられています。どうせ触れるのならその水産放流の事の起こりについても書いて欲しかった。各々の魚種につき数行以内で済むはずです。責任を取れと言うのではなく歴史を知る上で。

次に第2部。ここでは国内外来魚のもたらす影響について書かれています。分布パターン、生態的影響、交雑。遺伝子解析のお話しが主になります。そのことは、本書にも書かれているように、この問題の状況把握に労力とコストがかかることを意味します。紹介されている研究はどれもとても大変なものです。

次に第3部。ここでは国内外来魚の拡散要因と対策について書かれています。水産試験場が琵琶湖水系に放流した他水系のイワナとその対策。海産魚介類の移植放流。観賞魚の販売状況と課題。この問題への法的な対応。わかりやすく簡単なお話しではありません。地道に対策してゆくしかないと感じました。

最後が第4部。ここでは保全法流と国内外来魚問題について書かれています。ニッポンバラタナゴの保全的導入。ウシモツゴ再導入の成功と失敗。いずれも、その放流そのものが国内外来魚問題となってしまわないように慎重に実施されました。それでも、後者には失敗がありました。貴重な事例だと思います。

最後に。本書に掲載されている事例、研究には、どれもたいへんなご苦労があったと思います。それでも、失礼な言い方をしてしまうと、それらは地味なものでした。でも、その地味さこそが、この問題の難しさを表していると感じました。

追記:
大切なことに触れてませんでした。第1部では国内外来魚を以下のように定義しています。
1.その地域にもともといなかった魚(種が異なる)
2.その地域にもともといたけれど遺伝的に異なる他地域の魚(地域個体群が異なる)
2の定義があるために、本書では遺伝子解析のお話しが多目です。

※この記事は2019年2月9日に Twitter に投稿したつぶやきに加筆修正して再構成したものです。
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